横浜市(戸塚区・港南区・金沢区)との共同実証事業 「ナッジ」の活用により、固定資産税の口座振替申込率が増加

2022/06/30

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:池田 雅一、以下MURC)と、横浜市戸塚区(区長:國本 直哉)、港南区(区長:栗原 敏也)、金沢区(区長:永井 京子)は、固定資産税の納期内納付率の向上を目的として、同区の固定資産税新規納税者に対して口座振替による納付を勧奨する「ナッジ」の実証事業を行い、その効果を検証しました。

【ナッジ(nudge)とは】
ナッジ(nudge)とは、本来は「肘でつつく」という意味ですが、そこから転じて、人間の性質や心理的特性に配慮しながらより良い選択を促すという意味で使われています。ナッジは、個人の意思決定の自由を尊重しながら、少ない財政コストでより良い選択を促すツールであり、補助金、税制、規制・ルールといった伝統的な政策手段と補完的な第四の政策手段として世界的にも認知されるようになってきました。ナッジの第一人者であるシカゴ大学のリチャード・セイラー教授は2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。

1. 趣旨・背景

横浜市では、固定資産税の納付にあたり、納付書(金融機関及びコンビニエンスストア)、口座振替、クレジットカード等から納付方法を選択することができます。いずれの納付方法を選択しても、期限までに納付されていれば問題ありませんが、各期の期限までに納付されない場合、納税者には延滞金支払いのコストが発生し、行政にも督促状の発送や滞納整理にかかるコストが発生してしまいます。

本事業では、上記のような問題を解決するため、納期内納付率を高めるための一つの手段として、口座振替による納付を選択するよう促すナッジを実施し、その効果を検証しました。MURCと戸塚区では、2020年度にも同様の実証事業を行い、ナッジによって口座振替申込率が倍増することが確認されましたが※1、本実証事業では、対象を戸塚区、港南区、金沢区の3区に広げ、①2020年度の実証結果が再現されるか追検証を行うこと、②どの要素が効果的なのか効果を切り分けること、③2020年度の実証事業では検証しなかったナッジを活用した封筒の効果を測定することを意図しています。

2. 実証事業の概要

本実証事業では、ナッジを活用したチラシ及び封筒と申込時に記入が必要な所有者コードの同封について効果を検証するため、横浜市戸塚区、港南区、金沢区の固定資産税新規納税者を5グループに分けたうえで、各ナッジ以外の要素が共通したグループができるようにそれぞれのグループへの送付内容を調整しました。これによって、各グループの口座振替申込率を比較し、各ナッジの効果を検証することができました。

なお、今回の実証事業にあたっては、戸塚区、港南区、金沢区の固定資産税新規納税者を5つのグループに分けていますが、3区以外の区では2021年度に口座振替勧奨のチラシは送付されていないため、3区の固定資産税新規納税者の方々に不利益を与えるものではありません。また、利用可能な資材の数に制約があり、全ての固定資産税新規納税者の方にチラシを送付することができなかったため、最も公平性の高い方法として、区ごとに割付を行ったうえでランダムにグループを決定しました。

ナッジの設計及び実証にあたっては、世界初のナッジユニットである「行動インサイトチーム(Behavioural Insights Team: BIT)」※2シドニーオフィスの協力を得ました。BIT国際チームのシニアアドバイザーであるCaitlin Court氏は「口座振替の登録に時間をかけることは、将来の時間と労力を節約できるにもかかわらず、多くの人々にとって面倒なことのように思われるかもしれません。私たちはチラシのデザインを変え、いかに簡単に素早く申込ができるか、また、口座振替の申込により、万が一納付が遅れた場合に延滞金を支払わなければならないリスクを減らすことができることを示しました」と指摘しました。

3.分析結果

① 2020年度および2021年度の「ナッジチラシ+所有者コード+通常封筒」(グループ1)は、「送付なし」グループと比較して口座振替申込率が約16%増加しています。異なる年度や地域において同程度の効果が確認されていることから、今回の実証結果は再現性が高いと考えられます。

② 効果検証の結果、従来の口座振替勧奨チラシを送付した場合と比較して、ナッジを活用したチラシを送付することで2.6%ポイント、所有者コードの同封によって2.7%ポイント口座振替申込率が高まることが明らかになりました。2020年度実証で測定したナッジチラシと所有者コードを合わせた効果(8.8%ポイント)と比較して、本実証事業で得られたナッジチラシの効果と所有者コードの効果の合計が3%ポイント以上小さくなっています。これは口座振替の利点を伝えるナッジ(チラシ)と申込の手間を軽減するナッジ(所有者コード)に相乗効果があり、両者を掛け合わせることで効果が大きくなる可能性(交互作用)を示唆していると考えられます。

③ 一方、従来の封筒と比較して、ナッジ版の封筒で送付することで口座振替申込率が上昇する傾向は確認できませんでした。

以上のことから、今後同種の取り組みをした場合も同程度の効果が期待できると考えられます。またその際は、チラシによるメッセージや手続きの簡素化(所有者コードの同封等)など、複数のナッジを組み合わせることが有効だと考えられます。また今回の実証では、口座振替の利点や手続きの簡便さのみを強調することで口座振替勧奨を行っており、経済的なインセンティブ等は付与していません。このことから今回の実証では、潜在的な口座振替ニーズを掘り起こしたと考えられます。

各グループの口座振替申込率

グラフ 各グループの口座振替申込率

本実証の詳細は、政策研究レポート「ナッジを用いた固定資産税の口座振替勧奨と要因分解 ~横浜市戸塚区・港南区・金沢区におけるフィールド実証~」にてご覧いただけます。
URL: https://www.murc.jp/library/report/seiken_220630/

本件に関するお問い合わせ

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
行動科学チーム リーダー 小林 庸平(リーダー)、西畑 壮哉、石川 貴之
〒105-8501 東京都港区虎ノ門5-11-2オランダヒルズ森タワー
E-mail:merit@murc.jp

報道機関からのお問い合わせ

コーポレート・コミュニケーション室 廣瀬・竹澤
E-mail:info@murc.jp

※1 2020年度実証の詳細については、小林庸平・西畑壮哉・石川貴之・大泉優一(2021)「ナッジを用いた固定資産税の口座振替勧奨 横浜市戸塚区におけるフィールド実証」、政策研究レポートにてご覧いただけます。
※2 BITは世界有数の社会的企業であり、組織が社会的目的のために行動インサイトを適用し、最も効果的に社会的成果を達成する施策の評価を支援することをミッションとしています。