前身の三和総研時代から30年以上にわたり発刊している当社編集書籍『日本はこうなる』。刻々と変化する国際情勢やビジネス環境の中で、来年の日本を見通す「道しるべ」として、毎年多くの方々に手に取っていただいています。

本書の取りまとめを行うのは、全社の豊富な知見を束ね、百数十件に及ぶ社内公募案からテーマを精選して1冊に仕上げる編集委員です。マクロ経済から企業経営、社会トレンド、生活課題まで幅広い分野における、「日本の今とこれから」を整理して“多くの方に参考いただける知見”へと昇華させる役割を担っています。今回は制作の中核を担う中塚伸幸と藤田隼平に、編集のこだわりとこの仕事を通して実感する当社の特長や今後の想いを聞きました。

社内公募による多様なテーマを1冊に！短時間で来年がわかる

Q.本書の特長を教えてください。

中塚：『日本はこうなる』は1989年以来37年間続くロングセラーです。「来年の日本はどう動くのか」を俯瞰（ふかん）的に捉え、最新トレンドを3部構成でわかりやすく整理しています（下図）。

中塚：最大の特長は、第3部にあると捉えています。数多くの注目テーマを「見開き2ページ」で簡潔にまとめていることで、それぞれに図解もあり専門知識がなくても直感的に理解できます。また、それらのテーマは社内公募しており、全社員の知見を結集して社会・経済の広範な見通しを示している点も特長です。さらに、巻頭には社長による論考を掲載。マクロ展望から主要トレンドへの流れを提示しています。

藤田：構成はこれまでに蓄積されたノウハウをもとに進化してきました。第1部では世界情勢を含むマクロ経済環境を整理、第2部では社会的関心の高いトレンドを深掘り、第3部では産業、企業経営、地球環境・脱炭素、社会・文化、地域などに関する幅広いテーマを紹介しています。多様な読者が「日本の今とこれから」を広く理解できる構成が魅力です。

また、特に第3部は見開き形式で完結しているため、短時間で重要な流れや最新トレンドを把握できます。忙しいビジネスパーソンや就活生など、移動等の隙間時間を利用して時事把握や面接対策にも役立てることができます。

Q.各構成のテーマはどのように決めていますか。

中塚：第1部と第2部は、経済全体の動向や話題性のあるテーマに加え「重要なのに世の中にあまり知られていない視点」を重視。比較的長めの文章でまとまった時間に落ち着いて読める内容を意識し、専門性と読みやすさの両立をはかっています。

藤田：第3部は、「来年どんな変化が起きるのか」という展望を重視しており、制度改正や働き方など、身近な領域で大きな転換点があるテーマを優先的に取り上げるようにしています。

中塚：大きなテーマでも前年と同じ論点は避け、独自の視点や語り口が魅力的な提案を採用します。硬軟さまざまなテーマを収録できるのは、当社の専門性・人材の層の厚さの表れといえるでしょう。

執行役員　調査部長　中塚

Q.社内公募を取り入れている理由を教えてください。

藤田：社内公募にあたってはあらかじめ「こうしたテーマが考えられる」という目安も提示していますが、実際に応募があったテーマを見ると「こんな改革や動きがあったのか」など、事前には気付かなかった重要な論点やキーワードが寄せられることが多々あります。そのため、編集委員だけでは拾いきれない“実務の最前線の視点”を取り込むことができています。

中塚：当社はもともと自主性を重んじる文化があり、自分が取り組みたいテーマに手を挙げられる働き方を大切にしています。この書籍も同様で、自らの専門性をもとに応募できる仕組みにしています。結果として、書籍としての幅が広がるだけでなく、執筆者にとっては「私はこの分野に強い」という営業ツールにもなるわけです。

社内公募には、世代や経験を問わず、若手からベテラン層まで数多く参加してきており、社歴の浅い社員による応募も多数採用されています。自身の原稿が書籍の一部として掲載されることは、執筆者の大きな励みにもなっています。自分の専門性を生かし、その発信の機会を作るという点でも、社内公募という仕組みは極めて有意義だと考えています。

専門知識をわかりやすく届けるための工夫と、本書に込める想い

Q.本書の編集体制とお二人の役割を教えてください。

中塚：現在、編集委員は11名体制で、私は、編集委員長として全体統括を務めています。

藤田：第3部の社内公募テーマは、毎年150を超える件数が寄せられます。そのすべてに目を通して一次採択案を作成するのが私の主な役割です。その後、ほかの編集委員と協議し、調整しながら最終構成を固めています。

Q.編集作業はどのように進むのでしょうか。

中塚：4月に構成を決め、10月に校了、11月に出版というタイトなスケジュールのため、9月には原稿を固める必要があります。
しかし、社会情勢はその間にも大きく変わる可能性があります。そのため、短期的なニュースに振り回されず「状況が変わっても揺らがない本質的な流れは何か」を重視しています。

Q.編集の際、執筆者をどうサポートしていますか。

中塚：執筆者とのやり取りは最も神経を使っています。

まず1つ目は「テーマの採択」です。多数の応募があっても採用できるのは4割ほど。落選してしまう人には申し訳ない気持ちでいっぱいです。恨まれているかもしれません（笑）。それでも編集委員としては「一般読者が知りたいこと」を基準に判断しています。

2つ目は「表現の調整」です。専門家ゆえに文章が難解になったり、表現が厳密すぎて一般読者には伝わりにくくなったりするケースがあります。そうした場合には、読みやすい表現に直すよう提案し、執筆者と丁寧に調整するようにしています。

藤田：執筆者の多くは受託研究やコンサルティングが本業で、必ずしも文章の執筆に慣れているわけではありません。そのため、文体や構成にはばらつきがあります。しかし、書籍としては一定の統一感を持たせる必要がありますので、執筆前のガイダンス等を通じて文体や記述する情報の「レベル感」を丁寧に説明し、事後の修正を最小限に抑える工夫をしています。

調査部　主任研究員　藤田

Q.編集委員のやりがいについて教えてください。

藤田：書籍として形になり、多くの人に手に取っていただけること自体が大きなやりがいです。日常の業務で作成するレポートとは違い、より広く社会に発信できる点に特別な手応えを感じます。文章の調整やテーマ選定など責任の重い作業もありますが、その責任感こそがやりがいの源です。また、書店で販売されるだけでなく、訪問先でお客さまに手渡しすることもあります。その際に「経営計画書を作成する際に参考にした」「毎年楽しみにしている」と言われると、読者の役に立っている実感があります。

中塚：完成した書籍を手にした瞬間や、テーマ選定を終えたときに大きな達成感があります。多くの原稿調整を経て１冊を作り上げる充実感は格別です。不採択となった人への申し訳なさもありますが、当社の総力を結集した、時代を読み解く手引きを世に送り出すことに誇りを感じます。

Q.お二人はご自身も執筆されているページがありますが、本書に込める想いや工夫されているポイントを教えてください。

中塚：第1部のマクロ経済総論を担当しています。私はエコノミストとして、日本のGDPや物価動向などを分析するのが仕事であり、今回も専門的な分析を一般読者にもわかりやすく書くことを心がけました。短期的動向だけでなく長期トレンドにも触れ、来年の展望を踏まえた論考になるよう意識しています。

藤田：書籍は文字数や図表スペースに制限があるため、重要なポイントを簡潔にまとめ、専門知識のない読者にも理解できるよう丁寧に解説しています。普段のレポートでは、前提知識を持った読者向けに詳細な分析を示すことが多いのですが、本書ではキーワードそのものを知らない方にも理解していただく必要があります。また、文章で伝えきれない重要な情報は図表で補うなど、限られたスペースの中で効率的に伝える工夫をしています。

Q.改めて、書籍を通じて感じることやご自身の今後の目標を聞かせてください。

中塚：社員それぞれが多様な専門性を持っていることを実感します。実際に社内で話をしていても知的好奇心を刺激してくれる魅力的な人が溢れています。また書籍をきっかけに、各執筆者がメディア取材や講演の依頼を頂くこともありますので、相乗効果でどんどん成長できる環境が生まれていると感じます。

藤田：社内公募に関する質問の中で話があったように、自主性を応援してくれる社風でかつフレキシブルな働き方ができるため、最近は若手や中堅層が増え、活気も増しているように思います。自分自身は今、子育てもしつつ博士課程でも学び、充実した生活を過ごすことができています。今後はエコノミストとして経験を積みつつ、レポートの執筆や寄稿、講演等を通じて注目テーマを広く発信し、さらに社会的プレゼンスを高めていきたいです。

書籍『2026年日本はこうなる』の詳細は、特設ページにてご覧いただけます。
特設ページ：「2026年の展望」

三菱UFJリサーチ＆コンサルティング設立20周年を機にカバーデザインを一新

中塚伸幸（なかつかのぶゆき）
調査・開発本部
調査部
執行役員　部長
profile兵庫県出身。1985年に大阪大学経済学部を卒業し、三和銀行（現・三菱UFJ銀行）に入行。調査、企画、法人営業などの業務を経験。2013年に当社入社、2018年より執行役員調査部長として国内外のマクロ経済分析を担当。寄稿、講演、取材などを通じ、経済情勢に関する発信を行っている。

藤田隼平（ふじたしゅんぺい）
調査・開発本部
調査部
主任研究員
profile福島県出身。2013年に早稲田大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、当社入社。2016年から2018年にかけて官民人事交流にて内閣府（経済財政分析担当）へ出向し、国内景気に対する政府見解を表す「月例経済報告」や国内経済の現状分析に定評のある「経済財政白書」の作成等に携わる。現在、国内マクロ経済に関するレポートの執筆や寄稿、講演等の傍ら、東京大学大学院工学系研究科博士後期課程に在学し、金融政策に関する研究にも取り組んでいる。

※所属・肩書は記事公開時点のものです

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