カーボンニュートラルを目指す日本において、電気自動車（EV）等を活用した「スマートモビリティ社会」の実現は急務です。その構築を支える重要なプロジェクトの一端を担ったのが、デジタル分野のコンサルティングを専門とする岩﨑拓也率いるチームでした。戦略の策定から高精度3次元地図を活用したデータベースの開発支援まで幅広いフェーズに携わり、社会実装に向けた確かな一歩を踏み出しました。スマートモビリティ社会の実現に向けた取り組み、そしてその先に見据える未来への想いを岩﨑拓也が語ります。

戦略、開発、ビジネスモデルの検討まで一気通貫で支援

Q.「スマートモビリティ社会の構築プロジェクト」について教えてください。

日本政府は「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」という目標を掲げています。そのために経済産業省が所管するNEDO（国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構）に、2兆円規模の「グリーンイノベーション基金事業」が設けられました。この資金を活用したプロジェクトの1つが「スマートモビリティ社会の構築」プロジェクトです。このプロジェクトでは、電気自動車（EV）や燃料電池自動車（FCV）の普及を見据え、電動商用車利用時のデータ収集や運行管理システム・データベースの開発、これらと一体的なエネルギーマネジメントシステムの構築などを進めています。EVは電力系統への影響が大きく、充電設備の配置やバッテリーの寿命を長くする運転方法が課題です。さらに、電力消費量の少ない効率的なルート選択や渋滞回避などの移動支援も重要です。特にタクシーやバス、トラックなどを用いる運送事業では「走行可能距離（航続距離）が短い」「充電に時間がかかる」といった課題があり、事前のシミュレーションと計画が欠かせません。こうした背景や課題を踏まえて本プロジェクトがスタートしました。

コンサルティング事業本部　デジタルイノベーションビジネスユニット
デジタルトランスフォーメーション推進部　シニアマネージャー　岩﨑

Q.プロジェクトにおいて、当社はどのような役割を担っていますか？

プロジェクトのメンバーであるダイナミックマッププラットフォーム株式会社（以下、DMP社）を支援する立場にあります。

最初の支援は、技術開発に向けたロードマップの作成でした。DMP社は自動運転向けに「高精度3次元地図」を、さらに交通情報や天候情報などさまざまな情報を紐づけた「ダイナミックマップ」を開発しています。プロジェクトでは、それを活用したルート探索技術の開発が計画されていました。そこで「必要な技術」や「将来実現させるべきこと」を整理し、開発の方針を示すロードマップを作成しました。

また、ダイナミックマップデータベースの構築に向けた支援も行いました。DMP社は高精度3次元地図に外部データを連携させた、リアルタイム性の高い地図の開発を目指していました。そのために、外部データと統合するためのデータベースの要件整理とロードマップ作成を行いました。

その後はデータベースのプロトタイプ開発に向けて、ベンダー選定の支援も行っています。さらに、ダイナミックマップのユースケースや、ビジネスモデルの検討もお手伝いさせていただきました。

Q.「ダイナミックマップ」の特長や社会的なインパクトについて教えてください。

ダイナミックマップは、高精度3次元地図を基にした次世代型地図です。従来の地図にはなかった「勾配情報（道路の傾き）」を含んでおり、それに基づくルート探索機能により、最適なモーター制御やCO2排出量の算出、電気自動車の航続距離の正確な予測などへの活用が期待できます。また、車線や道路構造、信号・標識などの付帯設備、交通ルールといった情報も網羅しており、天気や渋滞といった外部データとも連携してデータベース化されているため、きめ細かいルート探索が可能になります。
わかりやすい活用例として、除雪車が挙げられます。積雪や視界不良でもダイナミックマップにより道路状況を正確に把握でき、安全な運行が可能になります。ゲリラ豪雨や夜間などの悪条件下でも有効です。

この技術には多くの社会的インパクトがあります。たとえば、自動運転車の事故リスク低減、物流や公共交通の効率化・コスト削減やCO2排出量の削減、災害時の救援・補給ルートの最適化、自動車・蓄電池の開発支援、そして、人流・交通流の分析による都市開発やまちづくりへの応用などが挙げられます。

【図表1】「ダイナミックマップ」のイメージ図

（出所）ダイナミックマッププラットフォーム株式会社よりご提供

企業や国全体の強さの根幹を支援するのが使命

Q.特に印象的だった工程や苦労した点、工夫した点を教えてください。

印象に残っているのは、やはり最先端技術に関われたことです。私たちにとっても未知の領域でしたが、将来の活用方法や方向性までお客さまとともに考えられたことは、とてもいい経験となりました。特に今回は研究開発戦略の支援だけではなく、データベースのプロトタイプ開発にまで携われたことが大きかったと思います。

一方で、「地図分野に関する先端技術に関する知見不足」という点が課題でした。ただお客さまの話を聞くだけでは不十分で、背景にある社会課題や類似技術、関連産業まで理解しなければ、コンサルタントとして本質的な支援はできません。そこで、チーム全員で必死に勉強し、知識を身につけていきました。

私自身はプロジェクトチームのリーダーとして、若手メンバーに興味を持ってもらうことを意識しました。関心を引く話題や面白い技術の活用例を紹介し、「これはこの分野の一部だよ」とつながりを示しながら、自然に学びに向かえるよう工夫しました。その結果、メンバーからは「最先端技術に関われて刺激的だった」「社会を変える可能性を秘めた技術に触れることができた」といった声が聞こえてきます。

通常、企画立案やロードマップの策定支援を担うことが多いのですが、今回のプロジェクトでは、「ロードマップを描く」という戦略立案の段階から、デジタル技術の具体的な活用方針の検討フェーズにも関わることができました。さらに、その戦略を基にデータベースの構築を進め、実行支援にまで携われた点は、DX領域ならではの特長だと感じています。戦略立案から実行フェーズまで一貫して関与できたことは、非常に意義深い経験となりました。

Q.今後の展望を教えてください。

今回の取り組みは、通常の「お客さまの業務課題の解決」とは異なり、研究開発という領域に関わるものでした。研究開発は直接的な利益を生むものではありませんが、日本のモノづくり産業の競争力を支える根幹であり、どの企業にとっても避けて通れない重要な領域です。そうした研究開発を支援できたことは非常に意義深く、今後も継続的に取り組んでいくべきテーマだと考えています。

もちろん、コンサルティングビジネスにおいて、案件を通じて収益を得ることは重要です。しかし、シンクタンク機能とコンサルティング機能の双方を備える当社には、採算性の追求だけではなく、企業や国全体の強さの根幹に関わる領域を支援する使命があると感じています。まさに今回のような研究開発支援は、その使命を体現する取り組みであるといえます。

Q.なぜ当社では、踏み込んだ支援ができるのでしょうか？

当社には、戦略立案に長けたビジネスユニット、DXやデジタル化など実行部分に長けたビジネスユニットなど、さまざまな組織があり、気軽に連携できる（コワークしやすい）体制が整っていることが特長です。こうした組織間の連携によって柔軟かつスピーディーにプロジェクトを進められます。また、シンクタンク部門とも自由に連携できるため、国や地域の政策と絡めてお客さまを支援することも可能です。これにより、企業向けの戦略策定だけでなく、実行支援まで一貫して取り組むことができるのです。

さらに、こうした社内のネットワークを活かして、複数の企業を巻き込んだ大きな枠組みのプロジェクトを実現することも可能です。スケールの大きな連携ができる点は、当社ならではの大きな強みだと感じています。

岩﨑拓也（いわさきたくや）
コンサルティング事業本部
デジタルイノベーションビジネスユニット　デジタルトランスフォーメーション推進部
シニアマネージャー
profile2001年に、九州大学大学院先端エネルギー理工学専攻博士後期課程を終了、博士（理学）。その後、国内大手シンクタンクを経て、2022年に入社。先端技術動向やその利活用をはじめ、研究開発・事業戦略支援、DX推進支援に幅広い知見を有している。

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DX（デジタルによるビジネスモデル変革・事業改革）

※所属・肩書は記事公開時点のものです

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