【取締役会スキルマトリックス】最新開示状況調査から読み解く作成・開示のポイント(3)~スキル項目への該当性の判定の考え方~

2021/11/29 岡崎 雅樹
Quick経営トレンド
組織・人事戦略

取締役会スキルマトリックスの開示状況について取り上げる本シリーズでは、第1回で「スキルマトリックス開示状況の実態」(2021年11月8日掲載)を、第2回は「スキル項目設定の傾向」(2021年11月24日掲載)をテーマに解説しました。最終回となる本稿では、「日本企業におけるスキルマトリックスの最新開示状況に関する調査」(※)の調査事例をもとに、スキルマトリックスを作成・開示する際に、特に留意すべきポイントを「1.スキル項目の具体化と選定理由・定義の開示」、「2.スキル項目への該当性の判定の考え方」、「3.役員人材マネジメントとの一体検討」の3点に分けて紹介します。

※本調査は2021年8月中旬から9月上旬にかけて実施。株式時価総額上位100社(2021年4月1日時点)および日経225銘柄企業のうち、最新の株主総会招集通知でスキルマトリックスを開示した107社について、「開示対象者」「スキル項目」「スキルの表示(『○』等)を付す際の判定方法」を集計した。

1.スキル項目の具体化と選定理由・定義の開示

スキルマトリックスには、取締役会の体制に求められる事項を整理し、必要なスキルを明確化することが重要です。そのためには、各スキル項目の選定の背景や詳細まで明記することが望ましいのですが、95%の企業でスキル項目選定の詳細が明記されていませんでした。たとえば「グローバル」という項目名が特に定義がなく使われている場合、何を意図してこのスキル項目を選定し、取締役会のメンバーとしてどのような知識や経験を期待しているのか判然としません。そのため、スキル項目名を下表のように具体化させるとともに、スキル項目の選定理由や定義を前文や別表等を用いて明確に記載し、各スキルの必要性を説明することが求められています。

(図)海外・グローバルに関連するスキル項目の例

スキル項目例 内容(当社解釈)
国際性 / 国際性・多様性 候補者の属性(国籍等)を示す
海外業務 / 海外経験 / 海外事業 /海外知見 / 国際的経験 / 国際ビジネス /グローバルビジネス / 日本以外での勤務経験 候補者の経験・知見を示す
海外事業戦略 / グローバル経営 / グローバルマネジメント / グローバルオペレーション 候補者の経験・知見をより具体的に示す
グローカル経営力 自社の経営に必要な経験・知見を独自に定義して示す

(出所)「日本企業におけるスキルマトリックスの最新開示状況に関する調査」より当社作成

2.スキル項目への該当性の判定の考え方

各取締役候補者に各スキルの表示を付す際の判定方法も重要なポイントです。そもそもスキルマトリックスの作成には、経営戦略に照らして取締役会が必要なスキルを備えていることを示すという目的があります。そのためスキルの表示を付す際は、専門性や経験の発揮に対する「期待」ではなく、あくまで職務遂行に必要な専門性や経験を「保有」していることを主眼に置くことが望ましいでしょう。そのための工夫として、「保有スキル」に○、その中で「取締役候補者として選任した主たる理由」に◎をつける等により、両者を合わせて示す例もあります。

3.役員人材マネジメントとの一体検討

スキルマトリックスによって本来実現したいことは、取締役会の体制で欠けている部分や今後強化したい部分を見定め、備えるべきスキルセットを明確にしたうえで、後継者候補を選抜・育成、または社外から採用することです。そのため、スキルマトリックスを一度作成して終わらせるのではなく、現状とあるべき姿のギャップを埋めるためのサクセッションプランや役員トレーニング等の施策についても、この機会に一体として検討することをお勧めします。

おわりに

スキルマトリックスは、単なる役員の知識・経験・能力の一覧表ではなく、会社の持続的成長と中長期的な企業価値向上を促す取締役体制が整っているか否かを、株主・投資家や従業員、取引先等のステークホルダーに示すためのツールです。“開示のための開示”で終わらせず、明確化したスキル要件を発揮した経営戦略の監督や開示後のステークホルダーとの対話によって、あるべき取締役会体制を追求することにより、その真価が発揮されます。

 

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(1)スキルマトリックス開示状況の実態(2021年11月8日)
(2)スキル項目設定の傾向(2021年11月24日)

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