コーポレートガバナンス・コード改訂で変わる知財戦略~戦略的な開示に向けた知的財産の考え方~

2021/12/06 鈴木 一範、米谷 真人
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2021年6月、東京証券取引所が公表したコーポレートガバナンス・コード(以下、CGC)の改訂版に、初めて知的財産に関わる項目が盛り込まれました。具体的には、「情報開示の充実」の項目の補充原則で「経営戦略の開示に当たって、(中略)人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」「取締役会の役割・責務」の項目で「(知的財産の投資について)取締役会が実効的に監督を行うべきである」と述べられています。さらに2021年9月には内閣府設置の検討会1がCGC改訂への対応に関する中間指針2を公開しました。つまり今回のCGC改訂は、企業に対し、積極的な知的財産への投資や事業への活用を促し、それを投資家に情報開示していくことを求めていると言えます。そこで本稿では、このCGC改訂に速やかに対応するための「知的財産戦略のあるべき姿」についてご紹介します。

1.グローバルで勝ち続けるために高まる、知的財産(知財・無形資産)の重要性

グローバルでの競争力がますます求められる中、企業では生産設備などの「有形資産」よりも、イノベーションの源泉となる「知財・無形資産」を増強・活用する重要性が高まりつつあります。

欧米の優良企業では、「知財・無形資産」の投資・活用を通じて競争優位を確立し、製品価値を引き上げ高い利益率に結びつけ、企業価値の向上に成功しています。一方、日本では、これまでの簿価に基づく企業価値評価の文化から、有形資産投資を重視する傾向が根強いと考えられますが、近年では「知財・無形資産」を考慮した企業価値評価が広がりつつあります。今回のCGC改訂により、日本企業においても「知財・無形資産」への投資と活用を基にしたイノベーションによる競争力の維持・向上が、企業価値向上のスキームとして定着すると期待されます。

2.知的財産の再定義とその範囲

今回公表されたCGC改訂に関する中間指針では、知的財産とは、「権利化されていない技術やノウハウ等も含め幅広く無形資産を定義すべき」と示されています(図1)。従来の特許を中心とする知財から、社内で文書化されていない技術やノウハウ等も含め、広義の知的財産を企業が把握・定義し、その活用による経営戦略について投資家への説明が必要となります。また、これまで特許等が競争力の源泉でなかった業界でも、改めて広義の知財を定義することで、従来の特許中心ではないより広い意味での知財戦略を、投資家へ訴えるチャンスになります。

図1 知的財産の範囲と知財戦略に求められるポイント

図 知的財産の範囲と知財戦略に求められるポイント

(出所)「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」を基に当社作成

3.暗黙知も含めた知的財産の可視化と活用戦略

CGC改訂に関する中間指針では、「知財・無形資産」の投資・活用戦略を構築する手順について、第一に広義の知財を可視化し、競争力の源泉となる知財を特定し、これを強化することで持続可能なビジネスを推進する戦略の構築を求めています(図2)。これを達成するためには、知財を保有する人や組織の有機的なつながりを可視化し、現状での知財と価値創造プロセスとの結びつきや、強みを活用した将来に向けて持続可能なビジネスモデルの検討が必要です。さらには、この新たな知財への投資を含めた経営戦略を主導し、投資家に開示・説明する取締役会のガバナンスが求められます。

とりわけ、人や組織に紐づく「暗黙知」となった知財を可視化・分析し、自社独自のビジネスモデルへと昇華されるメカニズムを把握し、次のイノベーティブなビジネスを創出し育て上げるという課題に取り組むことが、あらたに求められる「知的財産戦略」の中心と言えます。

今回のCGC改訂により、独自の知財戦略構築と無形資産への投資が進み、これを活用したイノベーティブな方法で競争力を強化する企業活動が広がることが期待され、弊社ではこの新しい知財戦略の構築をご支援します。

図2 CGC改訂に伴う企業対応プロセス

図 CGC改訂に伴う企業対応プロセス

(出所) 「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」を基に当社作成

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1 知財投資・活用戦略の開示・発信の在り方や社内におけるガバナンスの在り方等について深堀をしたガイドラインの策定を主な目的として立ち上げられた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」

2 今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について~改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出に向けて~ (2021年9月:知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会)

執筆者

  • 鈴木 一範

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    マネージャー

    鈴木 一範
  • 米谷 真人

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    ディレクター

    米谷 真人
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