攻めの経営に寄与する投資におけるガバナンス強化とは

~リスク/リターンの両面から投資意思決定の高度化を~

2022/04/27 山内 哲也
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ガバナンス

近年、企業を取り巻く事業環境は複雑に変化しており、以前にも増して先を見通すことが難しくなってきています。適切かつ十分にリスク評価を実施しつつ経営を進めていくことが求められる一方、殊に投資に関する意思決定の現場ではリターンに注目が集まり、肝心のリスク評価が不十分という事例が少なくありません。新規投資の意思決定に際しては、リスクにも十分に目配りをした上で、新たな投資から得られるリターンは本当に「割に合う」ものなのか、即ち、新規投資が企業にとって適切なリスクテイクであるかを検証することが重要です。そこで不可欠となるのは、いわゆる「攻めのガバナンス」を実現するための方法論や仕組みを整えておくことです。そこで今回は、投資ガバナンス強化の要諦である、新規投資判断時のリスクとリターンの定量化と、適切なリスクテイクを実現するための組織体制について紹介します。

新規投資における「リターン」の定量化

リターンを定量化するためには、予測BS、予測PL、予測キャッシュフロー計算書といった事業計画の策定が必要となります。この予測値を基に、フリーキャッシュフロー(純現金収支)ベースでのIRR(内部収益率)やNPV(正味現在価値)を算定します。IRRは、将来にわたるフリーキャッシュフローに対して時間価値を考慮した収益率であり、投資判断基準として、IRRが事前に決定したハードルレート(たとえば、事業にかかるWACC「加重平均資本コスト」)を超えることが必要となります。

NPVは、時間価値を考慮したフリーキャッシュフローの総和(事業価値)から投資額を引いた数値であり、正の値を示している場合、事業価値が投資額を超過していることを意味します。海外ビジネスへの投資の際には、NPVを計算する割引率にカントリーリスク(たとえば、国別のリスクフリーレート等)に応じたリスクプレミアムを加えることが必要となります。

一方、新規投資にあたり広く使われている指標に回収期間法(ペイバック法)があります。ただしこの方法には時間の価値が含まれておらず、かつ回収期間後の予想収益を反映していないことから、この指標だけで判断できるとは言えません。

新規投資における「リスク」の定量化

一般的な投資審査会議では、事業計画に基づいたリターンを中心に議論をしていることが多くあります。ただそれだけでは不十分で、投資に対する不確実性、つまりリスクの評価が重要となります。たとえば投資審査において、よく「一問一答型」でのリスク情報の棚卸が行われていますが、この方法だと各リスクおよび投資案件全体のリスク量を把握することができません。

図 一般的によく作成されている「一問一答型」のリスク評価表のイメージ

(出所)当社作成

リスクを定量化するためには、リスクごとに配点を決めてスコアリングをし、各リスクおよび投資案件全体のスコアリングを実施します。スコアリングにより、それぞれのリスクまたは投資案件全体でのリスクの「見える化」が可能となります。海外ビジネスへの参入時には、カントリーリスクを含めてリスクをスコアリングすることが必要となります。

図 スコアリングを用いたリスク評価表のイメージ

(出所)当社作成

投資審査体制の構築

適切なリスクテイクに基づく投資意思決定を行うためには、リスクやリターンの定量化だけではなく、規律ある牽制機能を持った組織体制を構築することが重要となります。具体的には、経営企画部門だけで新規投資を検討するのではなく、財務部門、法務・コンプライアンス部門およびリスク管理部門といった社内の他の専門部署に協力を仰ぐことが肝要となります。特に、リスク管理部門がリスクの観点から投資審査に加わり牽制効果を働かせることが、新規投資の意思決定において重要となります。

新規投資の場面で、リターンのみならずリスクも十分に考慮した上で適切に意思決定を行うことは、中長期的な企業価値向上の実現に直結します。コーポレートガバナンス・コードでもうたわれている「攻めのガバナンス」や「適切なリスクテイク」を実践するという意味でも、各企業は投資案件にかかるリスクやリターンの定量化、投資審査体制の構築といった取り組みによって、意思決定の高度化を目指す必要があります。

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