財務・経理部門が主導するDXとは|データ分析とデジタル人材の育成

2022/06/14 新井 涼介
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COVID-19の流行による経済活動の停滞、海外の紛争・戦争によるサプライチェーンの分断、エネルギーをはじめとした各種コストの増加や為替リスクの高まりの中で、企業には難しい意思決定が求められています。

このような状況下で財務・経理部門に求められるのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を通じて定型業務を見直し、経営判断に関わる「攻めの経理」として一層組織に貢献することです。

本稿では、財務・経理部門のDXにおけるポイントを解説します。

何のためのDXか~財務・経理部門のミッションを再定義する

財務・経理の定型業務を効率化するために業務のデジタル化を推進し、この取り組みをDXとみなしている企業は少なくありません。ただ、DXによって目指すのは企業の本質的な変革であり、業務効率化はその手段であって目的や使命(ミッション)ではありません。

では、財務・経理部門がDXを通じて果たすべきミッションとは何でしょうか。まずはこの再定義が必要となります。

たとえば企業の意思決定を促す分析やレポート作成を担うと定義した場合、DXによって企業内外のデータが活用できるようになれば、一層付加価値の高い部署へと変革を遂げることができます。一方、現状は財務三表の作成や資金管理などの定型業務で手一杯となっている状況が散見されます。デジタル化による業務効率化は、付加価値のある業務を遂行するための重要な前段階とも言えます。できるだけ早く本質的な変革へ向かうよう、デジタル化を加速すべきでしょう。

全社におけるデジタル管理会計の実践・浸透が不可欠

財務・経理部門がDXを通じて、付加価値を生む業務を中心とした組織への変革を目指すためには、全社を巻き込んだデジタル管理会計の実践・浸透が欠かせません。たとえば、事業ごとの収益性や見通し、予実差異分析、新商品・サービス開発などの企画段階から損益を管理する「プロダクトライフサイクルマネジメント」を実施するには、財務会計だけでは不十分で、各部門や各事業の数量的データが必要となります。

デジタル技術の進歩やクラウドサービス市場の活性化によって、かつてマンパワー不足やコスト高のために断念していた高度な分析・レポーティングが実現可能となっている場合もあります。また、社内でDXが進むにつれて収集できるデータが多様化・精緻化するため、新たな切り口の分析ならびにデータ精度の向上も次々と可能になります。

まずはレポーティングの目的を定めた上で、社内外に蓄積されたデータをいかに活用するか、足りないデータはどのように収集するか、データの収集・分析にどの技術を活用するかなど、具体的に整理しましょう【図表参照】。

【図表】データの収集・分析に伴う情報整理(イメージ)

図 データの収集・分析に伴う情報整理(イメージ)

財務・経理部門はデジタル人材の育成フィールドである

財務・経理部門はデジタル人材を育てやすい環境にあります。それは、日常業務の中で全社の財務・非財務のデータを取り扱い、企業の活動を数値で表現しているためです。ただし、デジタル人材となるためにはデジタル技術への理解を深めるだけでは足りず、部門を横断するプロジェクトマネジメント力・コミュニケーション力も高めることが欠かせません。

DXが浸透するにつれ、デジタル技術に関連する投資の妥当性評価ならびに関係者を巻き込む際の定性・定量の両面での検討が日常となります。この際、財務・経理部門のデジタル人材が経営の一角にいれば、投資対効果の評価、キャッシュフロー会計、取引のBS・PLへのインパクト、事業リスクやリスクヘッジの考え方・手法をベースに精度の高い意思決定に関わることができます。

財務・経理部門の当事者は、自らが社内のデジタル人材輩出部門にいると再認識し、関係部門を巻き込んだDXの推進を主体的に進めていくべきです。

おわりに

困難な意思決定が求められる時代の中で、単なる業務効率化ではなく、データから付加価値を生むDXを実現するために、財務・経理部門が果たすべき役割は非常に大きいと言えます。その業務の特性を背景に全社を巻き込んだDXを推進しやすい立場にある財務・経理部門は、本稿でご紹介したポイントを押さえてDXを契機としてとらえ、全社から頼られる部門へと変革を遂げる必要性があると言えます。

執筆者

  • 新井 涼介

    コンサルティング事業本部

    デジタルイノベーションビジネスユニット デジタルトランスフォーメーション推進部

    マネージャー

    新井 涼介
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