サステナビリティ(環境・資源・エネルギー・ESG・人権)

人権デュー・ディリジェンス(人権DD)における監査の実務①

~監査の実施方法~

2023/01/25 櫻井 洋介、大野 花織
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「ビジネスと人権」に関する企業の取り組みにおいて中核を成すのが、「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」です。人権DDは、国連人権理事会が2011年に承認した「ビジネスと人権に関する指導原則」の中で、企業の人権尊重責任を果たす取り組みとして位置づけられています。具体的には、企業が自らの事業活動における人権への負の影響を特定し、それらに対する防止・軽減措置を講じた上で、当該措置の実効性を評価し、その結果を情報開示していくという一連のプロセスを指します。

人権DDを進める上で重要となるのは、実施対象が自社のみならず、グループ会社、さらにはサプライチェーンも含まれる点です。日本国内においても、国際スタンダードに基づいた企業の人権への取り組みを後押しするため、2022年9月に経済産業省より「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表されています。日本企業にも人権DDの取り組みが広がっています。前述のとおり、人権DDを実施していくためには、サプライチェーン上における人権への負の影響を評価・特定した上で措置を講じる必要がありますが、その評価・特定に有効な手段となるのが「監査」です。

本コラムでは、2回にわたって、自社のグループ会社やサプライヤーに対する監査の実施方法およびそのポイントについてご紹介します。

監査の特徴

サプライチェーン上の人権への影響を把握するためには、監査の他にも、机上調査を実施する、あるいはサプライヤーや自社のグループ会社に対して人権に関する自己調査票(Self-Assessment Questionnaire: SAQ)を用いたセルフチェックを依頼する等の方法が考えられます。監査は、それらにくらべて、一拠点ごとにリソースやコストを投入して対応する必要があるため、効率性の面では劣ります。その一方、「現場を見る」対応だからこそ、机上調査では把握が難しい工場の労働・安全に関する施策や、従業員寮の環境、管理の実態等の調査が可能となります。つまり監査は、適切に実施することで、人権への負の影響を直接的かつ包括的に把握できる手法だといえるでしょう。

監査の実施方法

監査の実施方法は、主に「①第三者監査」と「②第二者監査」に分けられます。第一者監査(内部監査)もありますが、本コラムではグループ会社やサプライヤーへの監査を対象としているため、割愛します。

①第三者監査は独立した第三者機関が実施する監査です。監査機関が設計した監査スキームを基に実施され、監査の結果に応じて当該機関から認証が与えられることもあります。具体的には国際的な業界アライアンスによる「VAP監査(RBA)[ⅰ]」、「SMETA監査(Sedex)[ⅱ]」が挙げられ、近年、日本企業でも導入が進んでいます。なお、これらは環境、倫理といった他分野の項目も含まれていますが、人権関連の確認項目が多くを占めることから、人権対応のための監査として利用される例が多く見られます。

②第二者監査は自社独自で監査基準を設計した上で、自社が取引先等に対して行う監査です。自社のサプライヤー行動規範や調達ガイドライン等をベースに、国際基準を反映させた監査基準を設計します。なお、VAPやSMETAの監査項目はILO中核条約等をベースとしており、いわゆる「国際基準」として広く認知されておりますので、②で監査基準を設計する際も参考となります。

【図表】ILOについて
ILOについて
(出所)ILO Webサイトより当社作成

次回は、監査における留意点と具体的な監査の流れをご紹介します。

【関連サービス資料】
【資料ダウンロード】「人権尊重の経営 SDGs時代の新たなリスクへの対応」の著者による『「ビジネスと人権」対応を主眼とした監査』のご紹介


[ⅰ] グローバルサプライチェーンにおける企業の社会的責任をテーマとした業界団体である、RBA(Responsible Business Alliance)が定めた行動規範(RBA行動規範)の順守状況を確認・評価することを目的とし開発された監査スキーム。確認項目は労働、安全衛生、環境、倫理、サプライチェーン管理の5つの分野をカバーしている(2022年12月5日現在)。

[ⅱ] エシカルなグローバルサプライチェーンデータを管理・共有する世界最大の情報プラットフォームである、Sedexによる監査スキーム。労働基準、安全衛生、環境、企業倫理の4つの領域をカバーしている(2022年12月5日現在)。

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