体験重視のサーベイ(1)~従業員エンゲージメントの向上へ~

2023/02/27 佐藤 文
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従業員の満足度が企業業績に影響を与える指標と見なされており、企業や仕事へのエンゲージメント度合いを測定する従業員へのサーベイ(以下サーベイ)への関心が高まっています。しかし、導入・実施したものの、回答率が低い、従業員のエンゲージメント向上に対する具体的な施策への落とし込みができていないなど、運用面の課題を感じている企業も多いのではないでしょうか。そこで、サーベイの活用において重要な「従業員体験」と、「回答の体験設計」について、2回に分けて解説します。本コラムでは、サーベイによる従業員のエンゲージメントについて概説します。

従業員サーベイによるエンゲージメント低下リスク

これまで多くの企業では、競合他社よりも高い賃金水準の設定や、成果に応じた処遇など、さまざまな金銭的インセンティブ制度を設計・導入してきました。一方で、人材の定着や担当業務での成果、エンゲージメントなどに影響する要素においては「先週は毎日、楽しく仕事ができたか」「自分の強みを活かすチャンスに日々恵まれたか」「得意なことや好きなことをする機会を職場で与えられているか」といった、仕事や企業に対してポジティブに受け止めているかどうかの割合が大きく、金銭的インセンティブよりも重要である可能性があると言われています[]。このような背景から、従業員が仕事や企業に魅力を感じられているかどうかを把握するために、サーベイを導入している企業が多くあります。

一方、「従業員満足度調査に関するリサーチ」[]では、コロナ禍の影響でリモートワークが拡大する中、従業員の状況を把握するために頻繁に実施されるサーベイへの回答疲れも指摘されています(Boulder,2020)。また、従業員が質問内容を不快に感じる、「監視されている」と受け取られる可能性があるなど、マイナスの影響を及ぼすリスクもあります。さらに、その後のエンゲージメントを向上させるための具体的な施策展開という結果の活用が不十分となり、回答した従業員が不満や不信感を抱くことになれば、ひいては従業員のエンゲージメントの低下にもつながりかねません。

アンケートに回答する行為そのものも一つの「従業員体験」

まず改めて考えたいのは、サーベイについて従業員がどのように捉えているかです。「サーベイへの回答が何に使われているのか不明で納得していないが、義務なので仕方なく回答している」と、従業員からネガティブに捉えられてはいないでしょうか。従業員宛に届く回答依頼や回答するという業務に対して、一人ひとりがどう感じるか、経営・人事として従業員の満足度を高めるためどのような従業員体験にしたいかは、十分に議論されない場合が多いようです。

たとえば、エンゲージメントを高めるために「会社に大切にされている、支援してくれる存在である」と感じてほしい場合、その実感を促すための質問としては、「調子はどうか」「困っていることはないか」と尋ねるような内容となるでしょう。サーベイを通じて、会社にとって従業員は、いつでも交換可能な労働力ではなく一人の人間であること、また、困ったことがあればいつでも支援できることを伝えることが重要です。「不適切な行動の監視」や「社内で起きている問題の犯人捜し」と捉えられるような質問が含まれていると、「会社は従業員を大切にしている」というメッセージにはなりません。このような質問内容や文章表現、質問の頻度はもちろん、回答依頼のタイミングや回答しやすい入力画面など、質問の依頼から回答までの行動設計にも気を配ることが大切です。では、従業員のエンゲージメント向上をサポートするツールでもあるサーベイが、逆にエンゲージメントを低下させてしまうという本末転倒な状況にならないためにはどうしたらよいでしょうか。次回のコラムでは、良い従業員体験につながる戦略的な体験設計について解説します。

【参考文献】
[] Marcus Buckingham(2022)「従業員が仕事に愛情を持てる職場をつくる」、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』、2022年8月号
[] 株式会社Boulder(2020)「従業員満足度調査に関するリサーチ」

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