安全保障貿易の管理体制構築のアプローチ

2023/07/13 柳谷 公彦、山内 哲也
Quick経営トレンド
経済安全保障

国際社会における平和と安全を維持するため、企業が安全保障貿易管理に取り組む重要性が高まっています。背景には、経済のブロック化によりこれまでの自由かつオープンな経済システムの再構築が行われ、経営環境のグローバル化とローカル化が同時に進み、経済安全保障や貿易取引の連携・協力のルールが大きく変化していることが挙げられます。

こうしたグローバルでの経済環境の複雑化、経済構造の変化や法制度の見直し等に対応するため、日本においても2022年5月に経済安全保障推進法が公布され、企業は全社横断的な経済安全保障に関連した経営課題を把握した上で、既存のビジネスモデルの刷新と強化、改革を推進する必要があります。こうした背景から、特に貿易取引を行う企業は、国際社会における平和と安全を維持するため、安全保障貿易管理について定めた外為法(外国為替及び外国貿易法)を厳格に遵守する必要性に迫られています。本コラムでは、安全保障貿易管理の必要性を概説し、管理体制整備の構築およびアプローチ方法について解説します。

安全保障貿易管理の必要性

経済産業省では安全保障貿易管理を以下のように定義しています。

国際社会における平和と安全を維持するため、武器そのものを含め、軍事転用可能な民生用の製品、技術などが、大量破壊兵器の開発を行っている国家やテロリスト(非国家主体)の手に渡らないよう、輸出規制を行うことを指す。

安全保障貿易管理の枠組みは、化学兵器禁止条約等の条約と、欧米先進諸国等が中心となって参加する国際的な輸出管理に関する合意等に基づいており、日本の外為法、米国輸出管理規則(EAR)、米国OFAC規制、中国輸出管理法等、条約の加盟国ごとに定められている法規制を踏まえて、各国で検討され定められています。

日本の場合、外国為替及び外国貿易法で規制されている貨物の輸出や技術の提供をしようとする場合は、原則として、経済産業大臣の許可を受ける必要があります。[1]

企業は、国際情勢や経済情勢、各国の規制動向を踏まえたグローバルでのリスク評価を行い、安全保障貿易管理の管理体制を整備し、これらの規制・ルールに基づいた手続きと対応策を実施する必要があります。

安全保障貿易管理が必要となる企業

安全保障貿易管理が必要となるのは、貨物や技術のリスト規制品やキャッチオール規制に該当する貨物・技術を輸出している企業、および今後その可能性がある企業となります。これまで輸出管理を行ってきた場合も、各国の法規制の動向を常に把握し、安全保障貿易管理で求められる事項に照らし合わせて、既存の輸出取引や管理体制を点検し、見直す必要があります。

安全保障貿易管理体制の構築

求められる輸出管理体制は、以下となっています。
(1)ガバナンス体制構築:組織体制の設計、役割分担と責任の定義、違反への対応等
(2)規程・マニュアルの整備:輸出管理規程、輸出管理手続マニュアルの策定
(3)輸出管理手続の整備:審査手続、該非判定プロセス、出荷管理、委託先管理の内部統制整備
(4)教育:教育方針、計画、実施、モニタリングプロセスの整備
(5)文書管理:輸出管理証票の保管、電子保存の検討
(6)情報システム・インフラ整備:情報共有の仕組みの構築、審査手続のシステム化
(7)監査モニタリング:輸出管理体制に関する内部監査の実施と報告

海外の法令で求められる貿易管理体制は各国ごとに定められていますが、基本的なフレームワークは共通です。安全保障のリスク評価をグローバルベースで実施し、費用対効果の高い管理体制を整備していく必要があります。

安全保障貿易管理体制を構築するためには、内部規程の整備やそれにかかる事前の分析、そして点検が必要となります。ここでは、標準的なアプローチを例示します。
(1)現状分析:事業内容、輸出取引(商流)、輸出取引数、該当品の有無を把握したうえで、現状の管理体制とあるべき体制の分析を行います。
(2)全体計画策定:あるべき体制を目指すためのアクションプラン、全体計画を策定します。
(3)整備:あるべき体制を目指すための規程やルール等を策定します。
(4)運用:定められた規程やルール等に従い、業務を遂行します。
(5)内部監査・モニタリング:定められた規程やルールに従い業務が遂行されているかを点検するために監査します。

なお、上記のアプローチは一例で、輸出取引の状況、貿易管理体制の整備状況により、必要となる実施項目は異なります。そのため、まずは自社の状況を把握し、それ応じた対応の検討が必要となります。

【図表2】安全保障貿易管理の管理体制整備に向けたアプローチ
安全保障貿易管理の管理体制整備に向けたアプローチ

(出所)当社作成


[1] CISTEC「輸出管理の基礎| 安全保障貿易情報センター」(最終確認日:2023年6月30日)
安全保障貿易管理**Export Control*「安全保障貿易の概要」(最終確認日:2023年6月30日)

【関連資料】
安全保障貿易管理体制構築サービスについて

【関連サービス・コンテンツ】
GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)・防災(政策)
グローバルガバナンス/グローバル経営管理

執筆者

  • 柳谷 公彦

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    ディレクター

    柳谷 公彦
  • 山内 哲也

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    マネージャー

    山内 哲也
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