データ活用で変わる中堅・中小企業の経営意思決定と現場改善

2024/04/02 清水 隆典
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重要な経営資源であるデータの活用は、企業規模を問わず近年の大きな経営課題となっており、中堅・中小企業においても、経営意思決定の高度化・現場改善活動の促進などに活用されています。本稿では、データ活用に取り組む目的を明確にすることの重要性に言及しながら、既存システムの有効活用、新たなツールの導入、マスターデータの統合などの取り組みについて解説します。

目的の明確化

データ活用では、始めに取り組む目的を明確にすることが、企業規模に関係なく最も重要です。ビッグデータの活用やAIの活用など、技術が日進月歩で進化することに加え、情報システム部門だけでなく事業部門を巻き込みながら推進することが求められるため、目的が曖昧なままでは成功しません。「“データ活用”自体を目的に進めた結果、利用されない仕組みが出来上がってしまった」と相談を受けるケースがよくあります。
まずは、具体的な活用例を想定しましょう。経営意思決定の高度化であれば、毎月経営会議で報告している指標を日々最新化し、意思決定のサイクルを早める、といった例が挙げられます。また、現場改善活動の促進であれば、営業の活動履歴と顧客の購買履歴を組み合わせて販促施策を立案する、製造現場で機械設備のばらつきを分析しカイゼン活動を立案する、といった例が挙げられます。余力がある企業であれば、データ活用によってどのような企業になりたいか、といったビジョンを策定しておくことも有効です。

【図表1】データ活用の例
データ活用の例
(出所)当社作成

仕組みの構築手法

中堅・中小企業でもあまり費用をかけずに取り組める、さまざまなデータ活用の仕組みの構築手法があります。ここでは、具体的に三つの手法を紹介します。
最初にお勧めしたいのが、既存システムの有効活用です。まずは、自社の販売管理システムや生産管理システムなどに蓄積されたデータの棚卸しをしてみましょう。少し加工するだけで生かせるデータが多々あることに気付くはずです。不足するデータがあった場合でも、昨今ではさまざまな補助ツール(ノーコード・ローコードなど)の普及により、簡易的なアプリを作成し、新たにデータを蓄積することも容易になっています。
二つ目は、BIツール(BI:Business Intelligenceの略)の導入です。複数の指標を分かりやすくレポートやダッシュボードに取りまとめたり、グラフ化したりすることで、データを分析することが容易になります。加えて、データの集計作業を簡略化できる点も大きなメリットです。最近では、クラウド形式(初期費用0円~数十万円程度から利用可能で、月額費用を支払って利用する)で提供されるものもある他、売り上げなどの特定領域に特化した高度な分析が可能なツールが登場し、自社に不足するノウハウを補える場合があります。
三つ目は、マスターデータの統合です。マスターデータとは、商品や顧客などの基本情報を指します。例えば、商品マスターの情報を営業部門と製造部門でバラバラに管理していると、売り上げに関するデータと製造に関するデータを組み合わせて分析することが困難です。複数の部門のマスターデータを統合することで、一元化した分析が可能になります。製造時は1種類であっても、販売時は荷姿(荷物を梱包する際の形状・外見)が異なるなど複数に分かれる場合には、両者を結び付けられるよう変換表を作成しましょう。

企業組織の取り組み

データ活用の難易度が高い最大の要因は、ITがテーマでありながら、専門知識のない事業部門と、情報システム部門が一体となって進める必要があることだと考えています。そのため、経営層が現場任せにせず、重要な経営テーマと認識して取り組むことがポイントです。どうすれば組織横断でデータ活用を進められるか、経営層自ら考えましょう。例えば、組織として取り組むため、CDO(最高データ責任者:Chief Data Officerの略)を任命することが有効です。適切な権限を持った方に、複数部門にまたがる調整を推進してもらうことが可能になります。その他、データ活用の好事例を社内で共有する運用も効果的です。
また、データ活用のための人材育成も重要なテーマです。ITの知見だけでなく、自社の事業の知見を持った人材が求められますが、両方の知見を持った人材が確保できないと悩んでいる企業も多くあります。即戦力人材の採用は難しいことが多いため、社内でデータ活用に興味のある人材を募り、時間をかけて育成することも効果的です。また、取り組みが遅れている企業の場合、外部のコンサルティングなどを利用してノウハウを補いながら、中長期的に自社で体制を作り上げ、人材を育成することが有効です。

自社なりのデータ活用経営を進めることの重要性

データ活用経営は全社一丸で取り組む必要があり、効果が出るまで時間がかかる難易度の高い取り組みです。一方で、中堅・中小企業でも成功している企業は増えており、勘と経験に頼っている企業との収益力の差は日々広がっています。高度化した経営意思決定・現場改善活動のサイクルを早めることが、企業力の大きな差となっているのです。自社の現状を鑑みた上で、自社なりのデータ活用経営に取り組むことが重要です。

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執筆者

  • 清水 隆典

    コンサルティング事業本部

    デジタルイノベーションビジネスユニット 業務ITコンサルティング部

    マネージャー

    清水 隆典
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