DX時代におけるベンダーコミュニケーション

2024/09/20 片平 智之
Quick経営トレンド
デジタルトランスフォーメーション
経済産業省DXレポート
DX

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流に乗り、基幹システムを中心としたシステム導入が盛んに行われています。ユーザー企業はシステムソリューションの情報を収集し、ベンダー企業に提案を依頼します。しかし、なかなか提案を受けられないケースが増えています。これは、DXの進展に伴う、システム導入の需要と供給のバランスが変化しており、ユーザー側の需要過多・ベンダー側の供給不足という状況が生まれているからです。本コラムではこの現状の構造を解説し、今後ユーザー企業がどのように対応していくべきか、検討ポイントを示します。

一般的なシステム導入プロセス

一般的に、システム導入を検討・実行する際、まずユーザー企業が「提案依頼書」というドキュメントをベンダー企業に提示することから始まります。提案依頼書は「RFP」と呼ばれる文書で、「Request for Proposal」の略称です。ユーザー企業は新システムを通じて実現したいことやシステムに対する要求事項などを記載し、これを複数のベンダー企業に提示します。その後、ベンダー企業がRFPに基づき、提案書の提示やプレゼンテーションを行います。ユーザー企業はこれらの提案を評価し、最適な1社を選定してシステム導入を依頼します。
システム導入フェーズでは、選定されたベンダー企業1社と共に、まずシステム仕様を調整する要件定義という工程を行い、それを軸に設計、開発、テストなどの各工程を経て、最終的にシステムがリリースされます。

ユーザー企業とベンダー企業の関係性の変化

DX時代(※本コラムでは経済産業省が「DXレポート」[ 1 ]を発表した2018年以降を指します)の到来で、システム導入プロセスにおけるユーザー企業とベンダー企業の関係性が大きく変わってきました。従来は上述の通り、一般的なシステム導入プロセスにおいて、「お金を払うユーザー企業がベンダー企業を選ぶ」ことが一般的でした。しかし昨今ではこの関係が逆転し、「ベンダー企業がユーザー企業を選ぶ時代」と言っても過言ではない状況が起きています。つまり、両者のパワーバランスが変わってきているのです。
まず、システム業界では、ここ数年に渡り需要過多・供給不足が続いているため、システム構築を担う人材が圧倒的に不足しています。全てのユーザー企業のニーズに対応できるリソースは足りておらず、ベンダー企業はユーザー企業を選ばざるを得ないという事情もあります。
さらに、スクラッチ開発(オーダーメイドでの個別開発)主体からパッケージベースでの導入への移行が加速していることもこの変化の大きな理由です。経済産業省の「DXレポート」にも指摘されているように、レガシーシステム(スクラッチ開発が多い)が企業のDXの弊害要因になるためです。DX推進には情報やデータを経営や業務に活用することが重要ですが、レガシーシステムではシステム間のデータ連携が難しいという課題があります。一方、パッケージシステムは他システムとの連携が容易で多くのインターフェースや周辺ソリューションとの連携機能を備えています。そのためパッケージベースでの導入が主流になってきているのです。
スクラッチ開発は「業務にシステムを合わせる」形ですが、パッケージシステムでは「システムに業務を合わせる」ことが基本です。そのため、パッケージ導入を推進するベンダー企業は、ユーザー企業の提示するRFPが自社パッケージの仕様に合わない場合、提案を見送るケースが多くなっています。

ユーザー企業の意識・コミュニケーション方法を変える

このような状況下、ユーザー企業はどのような対応が求められているでしょうか。まず、ユーザー企業の意識面を変えることが重要です。「自分たちが選ぶ方だ」という過去の認識を捨て、ベンダー企業を外注先ではなく、ビジネスパートナーとして真剣に向き合う姿勢が求められます。日本の場合、IT人材の約7割がベンダー企業側にいるという現状があります(図表1参照)。そのため、ベンダー企業とのパートナーシップ構築がなければ、DXの実現は難しいのです。
また、業務を変える覚悟と、「業務をシステムに合わせる」という意識の転換が必要です。そのためには導入するパッケージシステムで何ができるのか、何ができないのかを理解することが不可欠です。この理解を組織全体で理解するプロジェクト体制が必要です。自社の業務全体を把握しつつ、システム業界の現状を理解しながらベンダー企業と建設的なコミュニケーションを取りながらパッケージシステムとのギャップを整理して、社内の業務改革に向けてリーダーシップを発揮し旗振りをしていく人材・組織が必要になります。
ベンダー企業とのコミュニケーションを改善し、信頼関係を構築することがDX推進の鍵となります(ポイントは図表2で総括しています)。なお、当社ではシステム導入時のユーザー企業とベンダー企業の円滑なコミュニケーションのご支援や、一般的なパッケージ仕様を意識したRFP作成支援なども行っております。お気軽にお問い合わせください。

【図表1】情報処理・通信に携わる日本の人材の所属別割合(IT企業、IT企業以外)
情報処理・通信に携わる日本の人材の所属別割合(IT企業、IT企業以外)
(出所)独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」[ 2 ]より、当社作成
【図表2】ユーザー企業/ベンダー企業の関係性やシステム導入に関する意識の変化
ユーザー企業/ベンダー企業の関係性やシステム導入に関する意識の変化
(出所)当社作成

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1 ]経済産業省「DXレポート」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html(最終確認日:2024/9/9)
2 ]独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf(最終確認日:2024/9/9)

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