地方公営企業における公共性を再考する

2007/03/12 平野 誠也
地方

地方公営企業は、行政組織でありながら、企業としての特徴も有しており、経済性と公共性を両立することが求められている。それが民間企業とは異なる点だ。『官から民へ』の流れは、その地方公営企業でも現れている。例えば、それまで地方公営企業が実施してきた電気事業やバスなどの交通事業を民間企業に運営を任せたり、売却したりするなどの流れだ。民間でできることは民間に任せ、公共性の高いものは地方公営企業がサービスを供給するというのが基本的な考えになっている。ここでいう「公共性」とは何か。アカデミックな議論はさておき、民営化するか否かを検討する行政や議会での議論はどうか。

電気事業の場合は、地方公営企業では、原子力ではなく風力や水力などの自然エネルギーを活用した発電を行っていることが、公共性の議論の際には重要となっている。発電効率は悪いが地球環境に優しい自然エネルギーを活用することが、地方公営企業が行うことの意義だ。このように考える根底には、民間企業は効率性やいわゆる儲けを追求したり、採算の悪いものは切り捨てたりするという先入観がある。果たして本当にそうか。

例えば、サントリーは、創業当初から「利益三分主義」を掲げ、事業による利益の3分の1は社会に還元し、3分の1は顧客へのサービス、そして残り3分の1を事業拡大の資金とするという信念がある(http://www.suntory.co.jp/eco/report2004/report/2_01.html)。今でいうCSRの先駆けだ。トヨタ自動車では、その基本理念に、企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献すること、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組むことなどを掲げている(http://www.toyota.co.jp/jp/vision/philosophy/)。両社とも、社会や地球に対する貢献を企業理念に掲げているのだ。一方、一般的な地方公営企業の使命や経営理念には、地域の発展に資する基盤を整備する、地球環境の保全に貢献する、などが掲げられている。先に挙げた2社とほとんど変わらない。これでは、地方公営企業が存続したり、その事業を行うことの理由にはならないことは明白だ。

民間企業で経済的に自立することは、組織として存続するためには当然のことだ。その上で社会や顧客に何をするのかを明確にすることに意義がある。逆に、地方公営企業が、地域や地球環境に貢献することは当然のことだ。当然のことは書かなくて良いとすれば、例えば、島根県企業局の経営計画の使命、ビジョンに「県民の安定した生活基盤を最大限の企業効率性で確保・提供」や「市場競争で優位な企業体質・組織づくり」とあるのは、一つの在り方である。(http://www.pref.shimane.lg.jp/kigyo/keiei_keikaku/saktei.html)。

地方公営企業が、民間企業に譲渡などをせずに事業を継続していくためには、単に地域の活性化や地球環境の保全への貢献を掲げるだけでは不十分だ。公共性を文章で掲げるだけで言い訳のように用いるのではなく、経済的な自立もあわせて、真剣に検討することが必要だ。「地方公営企業か民間企業か」という対立構造でもなく、「民間ができることは民間で」という単純な発想だけでもなく、「住民や地域から見て公共性を確保するためには、どちらが有効であるかという視点で議論することが必要だ。

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