中小企業の知財戦略と支援人材

2008/09/29 渡部 博光
知財

国として知的財産戦略の推進が進められているなか、中小企業にも知財戦略への本格的な取り組みが期待されている。
ここで、中小製造業の事業戦略を念頭におくと、あくまでも技術がベースとなった事業の計画、実行が最重要課題であり、知財はそのための手段でしかない。但し、技術がベースとなった事業は、知財がなければ話にならないことも事実であり、知財についての十分なマネジメント能力は必要不可欠である。中小企業の知財戦略を考える場合には、この2つの観点を、両輪として捉えておく必要がある。

中小企業の知財戦略を捉える観点

1)自社が強い技術をベースに事業を組み立てて、実行する

1-1)コアになる技術を体系化し、育成する。
1-2) コア技術がベースとなった事業を組み立て、実行する。

2)事業の実行と競争力を担保できるような知的財産活動を実行する。

2-1) 組織として強い知財マインドを持つ。
2-2) 組織として知財スキルを高める。
2-3) 事業実行、競争力に連動した知財活動を行う。

一方、中小企業は経営資源が限られていることもあり、知財戦略を本格的に展開していくための支援、特に、士師業による支援が期待されている。例えば、弁理士は知財の専門家であり、世の中の期待は大きいものがある。
しかし、中小製造業の知財戦略は、前述したとおり、あくまでも、技術をベースにした事業を踏まえて、知財が語られるべきであり、弁理士が強みを持つ、権利化プロセスだけを支援しても経営への貢献は限定されよう。
さらに、士師業には 事業、技術に関し、中小企業診断士、技術士という国家資格があるが、中小企業診断士は、事業の支援には強いものの技術、知財には明るくない。技術士は、技術のプロフェッショナルに留まることが多いなど、中小製造業の知財戦略の全体像に照らした場合、既存の士師業が強みをもつ部分には大きな偏りがあることがわかる。

結局のところ、士師業単独での支援には限界がある。こうした中、国が行っている中小企業の知財戦略を支援する事業では、弁理士と中小企業診断士がタッグを組んで、支援を行う形態での成功事例がみられるなど、新しい試みが各地で進んでいる。また、日本弁理士会には、コンサルティング委員会が設置され、中小企業への支援のあり方についての本格的な検討が昨年度から始まっている。

これまであまり注目されてこなかった中小企業の知財戦略とその支援であるが、中小企業経営形態は極めて多様であることから、大企業にはみられない新しい知財戦略の展開も大いに考えられる。今後の進展が楽しみな大変興味深い分野であるといえよう。

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