宇宙開発への期待

2009/01/05 長尾 尚訓
宇宙ビジネス

宇宙移民の時代が到来?

宇宙飛行士の山崎直子氏がスペースシャトルで宇宙へ飛び立つことが発表され、「お母さん飛行士、2010年宇宙へ」として話題となった。また、ITベンチャーの元経営者が、宇宙旅行会社に対して旅行費用21億円の返還を求めて提訴したことも話題になったが、宇宙旅行は既にビジネスとして行われており、お金持ちは宇宙旅行に行ける時代を迎えている。アーサー・C・クラークが「2010年宇宙の旅」を発表した1982年では、一般人にとって宇宙はまだ夢の存在であったが、近い将来に誰でも行けるようになり、やがては宇宙移民の時代が到来するのではないかと期待している。

宇宙基本法

わが国では2008年8月に宇宙基本法が施行された。本法は日本の宇宙開発を国家戦略として位置付け、国、地方自治体、民間企業が戦略的に宇宙利用を推進し、国民生活や経済に役立てることを目的としている。特に注目されるのは、国の宇宙産業を育てる方針が示されたことで、研究開発にとどまるのではなく、産業振興に役立てることがうたわれている。今後、日本の宇宙開発事業は活発化すると予想されるが、宇宙産業の発展とともに、特に民生分野との技術波及に着目したデュアルユーステクノロジーの開発が実施され、民生産業の強化にもつなげることを期待したい。

デュアルユーステクノロジー

これまで、宇宙開発のために開発された数多くの技術が民生用に波及し、その製品化によって国民生活に大きな影響を与えてきた。セラミックス、燃料電池、集積回路、エアバック等がその代表であり、生活、環境、医療福祉、スポーツ、レジャーなど多くの分野の製品に宇宙技術が波及している。北京オリンピックで水泳の世界新記録を連発して注目されたスピード社のレーザーレーサーもNASA(米国航空宇宙局)との共同開発によるものであり、宇宙技術の波及例といえる。

宇宙エレベーター構想

将来的には、宇宙がより身近になり、大量の物資や人員が常時輸送されることが期待されるが、その際の輸送手段としては、ロケット等ではなく、省エネに優れた宇宙エレベーターが不可欠と考えられる。宇宙エレベーターは、強度に優れたカーボンナノチューブの発見により、技術的には可能とみられており、米国ではNASAの支援のもと、民間企業により宇宙エレベーターの早期実現へ向けた研究開発が進められている。日本でも2008年11月に日本宇宙エレベーター協会の主催により、第1回日本宇宙エレベーター会議が開催され、実現に向けた取り組みが始まろうとしている。カーボンナノチューブは日本発のテクノロジーであり、日本は世界でもトップクラスの技術開発実績をもっている。また、カーボンナノチューブは様々な用途が期待されており、デュアルユーステクノロジーの点でも成果が得られる可能性がある。宇宙エレベーターの実現には数多くの課題があるが、長期的なビジョンのもとで、将来を見据えた開発プロジェクトを実施し、世界に先駆けて実現することを期待したい。

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