公的研究資金が有効に使われるためには(その2)

2009/08/24 上野 裕子
評価
EBPM
次世代技術
製造業
サービス業

公的研究資金が有効に使われるためには(その1)」で提起したような3つの問題を解決して”無意識”な「重複」「集中」をなくし,公的研究資金のより一層の有効活用につなげるために,次のような方策を提案したい。

評価項目の見直し:総合的な評価の価値の再認識

現状の評価では,発表論文数,開発された技術の数,特許等の出願件数・登録件数・実施件数・実施許諾件数,実施許諾料収入,さらには技術や製品の売上高,利益額,ベンチャー起業数など定量的に把握する項目に関する分析が中心となっている。これらは,”成果の一つ”ではあるが,どれだけ網羅的に設定して足し上げたとしても,”成果の全体像”にはならない。また,本来の研究成果ではなく,評価対象となっている項目を上げることにのみ執心する研究者が現れかねない懸念もある。目的に寄与する評価が行われるためには,”部分評価”にしかならない定量的な評価指標を緻密に検討することは現状程度までとし,研究成果やその内外への効果や影響も含めた全体を”総合的”に捉えて評価することに重点を置くことが必要である。その際には,定量評価だけでなく,手間はかかるとしても定性評価にも目を向けることが不可欠となってこよう。

評価者の見直し:外部評価中心への転換

政策評価法では,各府省が「自ら評価する」と定めており,通常は,府省や公的研究資金配分機関である独立行政法人で各政策を執行している課が,自ら執行した政策を評価している。同時に,多くのケースで,外部の有識者による評価委員会を設置したり,シンクタンクに委託したりといったことが行われている。しかし,現状は,外部有識者等はあくまで依頼を受けて意見を述べる立場にあり,最終的に評価結果をとりまとめ決定しているわけではない。一方で,自ら執行したことを自ら評価する自己評価は,やはり厳しく行うのは難しく,限界があると言える。そこで,自己評価とは別に,外部専門家による外部評価を行い,外部評価を中心に据えることが必要であると考えられる。

過去の評価結果を審査に容易に活用できる仕組みの整備とデータの拡充

他の制度から公的研究資金を配分された時の評価結果も含めて,過去公的研究資金を配分された研究課題に対する評価結果を配分審査時に容易に参照できるようにすることが必要である。具体的には,2008年1月から供用開始された「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」に蓄積されている評価結果を整理・分析し,公的研究資金の配分審査時に配分機関が容易に活用できるようにすることが求められる。これによって,過去の研究成果を,他制度から支援を受けた時のものも含めて把握し,成果が上がっていなければ継続的な配分をやめ,成果が上がっていれば継続的に,あるいは”意識的”に他制度と「重複」して「集中」的に配分するといった判断をすることが可能になる。

配分審査体制の見直し:配分側職員に科学技術面の知見を有する人材の配置

日本の競争的研究資金制度は,その配分審査に際し,一時的に任命する外部専門家に科学技術面の判断の大半を依存している。しかし,外部専門家は,あくまで外部の人材であり,配分側の職員として,研究者と同レベルの科学技術面の知見を有し,研究課題の内容を科学技術面で理解できる専門知識と研究経験を有する人材配置する配分審査体制の見直しを提案したい。
言い換えれば,評価については外部評価を中心に据える一方,配分審査については内部の判断を中心に据えるのである。
理由は2つある。一つは,配分側が”責任”をもって判断を下し,研究資金を配分するためである。もう一つは,公的研究資金の配分を通じて,研究開発を”政策目的”に即した方向に発展させるためである。公的研究支援制度は,その性格上,本来,配分側がその政策判断に基づき,一定の方向性に”意識的”に研究を促進できるツールである。具体的には,単純にその時の研究提案書の善し悪しで配分を判断するのではなく,支援対象の研究領域におけるこれまでの研究開発の経緯や近年の動向を継続的に把握し,その上で,今後どのような研究開発が必要とされ,どのようなアプローチの研究開発が有用かを判断して,そこに”意識的”に「重複」「集中」して資金を配分する,あるいは研究領域全体の発展を考慮してバランスよく配分する,新しい研究の芽を育てるといったことが考えられる。このような判断は,外部人材にはできない。また,このような判断ができるためには,支援対象の研究領域全体の研究動向を継続的に常時把握し,研究者とのネットワークを築いておく必要がある。
米国等に倣って日本でも,事務職員ながら科学技術の知識と研究経験を有し,研究開発支援制度等の企画や審査を取り仕切る「プログラムオフィサー(PO)」や「プログラムディレクター(PD)」の配置が徐々に進められているが,まだ十分ではないのが現状である。この背景には,日本には研究継続の意向が強い博士号取得者が多いこともあるが,POやPDが,制度上の位置付けや権限と責任の面で,博士号を有する科学者が誇りを持って就ける職種になっているとは言い難い現状がある。米国のように,研究者よりも「科学者らしい面」があり,「科学者としての誇りと自信を持てる仕事」(白楽,1996,152-154)(注1)と捉えられるようになれば,科学技術の発展に対し,研究者とは別の側面から,場合によっては研究者よりも直接的に関与し,影響を与えられる職種として,多くの優秀な博士号取得者がその道を目指すようになるだろう。このことは,大学院重点化により,就業機会の提供が追いついていない博士号取得者に対し,職を提供することにもつながり,現状のポスドクの就職難に対する解決策にもなると考えられる。(注2)

(注1)白楽ロックビル『ロックビルのバイオ政治学講座 アメリカの研究費とNIH』東京:共立出版,1996年。
(注2)詳細は、拙著「研究開発に対する日本の公的支援制度の特性と課題~公的研究資金の有効利用のために~」『季刊政策・経営研究』2009vol.3(通巻第11号)を参照。

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