2009.07.27付本欄において、「改定：災害に係る住家の被害認定基準運用指針（以降「運用指針」とする）」として、平成21年６月の運用指針の改定について述べた。
本稿では、これを受けて行われた「調査票」と「損傷程度の例示」の改定について紹介するほか、「り災証明書」の重要性と併せて、再度、平時における対策実施の重要性について述べたい。

被災者の生活再建と「り災証明書」

災害により被害を受けた方々の生活再建を支援するための制度の柱として「被災者生活再建支援法」がある。これは制度の対象となる自然災害において住家に一定以上の被害を受けた世帯に支援金が支給される制度であり、支給対象であるかどうかは、「り災証明書」に基づくこととなっている。
「り災証明書」は、近年では被災者生活再建支援法のみならず、税の減免措置を始めとする各種公的支援や義援金の配分等に広く用いられているほか、民間の保険金の支払いや大学の授業料免除など行政以外にも用いられる場合があるなど、被災者の復興の基礎となっている。

「り災証明書」と住家の被害認定

このように災害復興に重要な役割を持つ「り災証明書」発行は市町村業務である。このり災証明書の発行について、過去に大規模な災害を経験した市町村からは、非常に困難な業務であったという指摘がなされている。その理由として、現状では、市町村における認識や位置づけが低く、そのため、被災後に初めて住家の被害認定の方法について学んだ職員が調査を実施せざるをえないことや、被災後にり災証明書の発行システムを構築することになることがあげられる。また、被災した自治体を支援する立場の都道府県においても、被害認定やり災証明書発行についての知識に乏しい。
内閣府では、災害に係る住家の被害認定について、具体的な調査方法や判定方法を定めた「運用指針」を示しているが、このような自治体の状況を踏まえ、自治体の負担を軽減し、より円滑かつ迅速、的確に被害認定が実施できるよう、住家の被害認定のための「調査票」と「損傷程度の例示」を改定し、平成22年４月以降に順次、ＨＰにて公開している※。

※「運用指針」は、近年増加している水害や、平成13年策定以降に把握された被害状況等を踏まえ、より被害の実態に即した判定が確保されるよう、平成21年６月に改定されており、今回の「調査票」と「損傷程度の例示」の改定はその対応も含まれている。

「調査票」と「損傷程度の例示」について主な改定点を下表に示す。

表　改定された住家の被害認定　調査票と損傷程度の例示

調査票

●記入方法の提示

今回、初めて、調査票の記入方法が示され、運用指針に準拠した調査方法がより具体的に示された。

●使いやすさに配慮した調査票

記入や計算が容易になるよう早見表方式が導入された。
実際の調査手順や利用状況を踏まえた記入項目・レイアウト等となった。

●大規模震災への対応

過去の大規模震災において、特に木造・プレハブ住宅の被害認定で調査負担が重かったため、運用指針に準拠した調査票Ａ版に加えて、新たにイメージ図により判定ができる調査票Ｂ版（簡易版）が作成された。

損傷程度の例示

●使いやすい構成

実際の災害時の用いられ方を踏まえ、被害認定の概要と損傷程度の例示の構成とし、構造別（木造・プレハブ／非木造）となった。
調査時に使いやすいよう、各部位の掲載順について、調査票の順番と同一となった。

●災害別ダウンロードへの対応

災害時の持ち運びの利便性等を考慮し、木造・プレハブは災害毎にダウンロードできるようになった。

●事例の充実

写真が増え、提示されている損傷が充実した。

事前の備えの重要性

このように、被災した自治体が活用できるツールは充実しつつあるとはいえ、被災した際、迅速に円滑に復旧・復興するためには、平時から対応方策を検討しておくことが不可欠である。大規模災害時に、市町村職員は所属部署にかかわらず復旧・復興業務にあたることになり、住家の被害認定も無関係ではない可能性がある。
前回も事前準備の重要性を述べたが、依然、都道府県や市町村の取り組みには地域による差がみられる。一部の都道府県では、大規模災害時に市町村が実施する住家の被害認定について、市町村職員の研修会を開催したり、市町村支援マニュアルを策定したりしている。一方で、地域防災計画にも位置づけられておらず、市町村への支援も明確でない都道府県もある。市町村においても、被害認定やり災証明書の発行について、独自のマニュアルを策定している市町村がある一方で、地域防災計画に位置づけられていない市町村も多い。
改めて、自治体において、事前対策や事前研修等が充実することで災害時に円滑に住家の被害認定が実施され、自治体の過度な負荷とならずに住民の速やかな復旧・復興が行われることを願うが、現時点では、個々の職員が、平時に調査票や損傷程度の例示について、一読しておくことも大きな助けになると考える。

参考情報

内閣府災害復旧・復興担当「災害に係る住家の被害認定」のHP
：　以下の資料のほか、住家の被害認定に係る各種資料が掲載されている。

本稿で紹介した資料

＊住家被害認定調査票（上記HPから構造別・災害別にダウンロード）
＊調査票の使い方
＊災害に係る住家の被害認定基準運用指針参考資料（損傷程度の例示）
＊災害に係る住家の被害認定基準運用指針（平成21年6月改定）

大規模災害と住家の被害認定

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