～　「業績予算」によるルールの変革とありがちな誤解　～

「業績予算」の考え方と問題の所在

「業績が上がると予算は増えるのか、減るのか？」という問いは、政策評価・行政評価の結果と予算とを関連づける「業績予算」を議論する際に、必ずと言って良いほど示される問いである。残念ながら、この問いに対する最も適切な回答は、「増えることもあれば、減ることもある。業績から自動的に決まるものではない。」ということであろう。業績予算に関連する取組みが国や地方自治体で広がりつつある中、これまでの発想や行動原理を見直す必要性が生じている。

業績予算の考え方は、これまでのような毎年度の「予算獲得」から議論が始まるのではない。逆に、国や自治体として達成したい「成果目標」（解決すべき課題）から、その議論が始まる。その成果目標の達成を実現しうる適切な手段に対して、その実施に必要な資源を各年度にて配分するというのが、業績予算の考え方である。（図表1）

ある事業が目覚ましい業績を上げて、成果目標の達成に貢献したと仮定しよう。そのこと自体は非常に素晴らしいことであり、担当者の努力は十分に報われる必要がある。しかし例えば、1)その事業がすでに一定の役割を果たし終えたと考えられ、たとえ継続してもこれまでと同様の業績が見込めないような場合、2)今後も同様の業績が見込めるとしても、同時に実施している他の施策・事業の方が成果目標に対してより大きく貢献しうると考えられる場合、3)（同様のコストで）同じ水準以上の成果目標を達成しうる別の新しい施策・事業が形成しうる場合、4)外部環境の変化により、達成したいと考える成果目標自体が変化する場合、5)自治体や政府全体の優先度合いが変化して当該成果目標や事業の優先度が下がる場合、などにおいては、いかに目覚ましい業績を上げた事業であっても、次年度・次々年度以降の予算は減っていく（もしくは廃止される）可能性がある。（図表2）

このような業績予算の考え方に対しては、「業績を上げても予算の増加（もしくは維持）につながらないのであれば、行政職員が事業に真剣に取組むインセンティブや、評価に関連して正確に業績情報を収集して報告するインセンティブが低くなる。」との懸念が示されることが多い。これは、業績予算に対する誤解を前提とする懸念であるが、予算獲得を重視するというこれまでの行政職員の姿勢を踏まえると、理解しうものである。

ゲームのルールが変わる

しかし、大事なことは、「ゲームのルールが変わろうとしている」ということである。業績予算では、事業の予算獲得や実施を基点に考えるのではなく、国民（市民）に対する成果目標の達成を基点にする。つまり、インプットで議論しているのではなく、アウトカムで議論しているのである。そこでは、ルールが以下のように変わる。職員のインセンティブのあり方も、それに伴って変わっていくことになろう。

まず予算の単位が変わり、事業レベルではなく施策レベルや成果目標そのものが予算の単位になることが多い。もしくは枠予算のように、組織が予算の単位になるケースもある。その下で、実際にどのような事業を形成して展開するかは、現場の裁量（＝責任）となる。現場にて、施策や成果目標の責任を負う幹部層には、組織の「経営」（ここでは、組織が価値を生み出して組織外に提供できるようにすることを経営として捉えている）についての能力や業績も問われるようになる。

そして、「良い事業」の意味も変わる。目新しい事業や組織内外で目立つ事業、国民（市民）に対する「何らかの」成果を説明できる事業やこれまでの「経緯」を説明できる事業が良い事業なのではなく、国民（市民）に対する「特定の」成果目標（＝解決すべき課題）の達成に具体的に貢献しうる事業が良い事業になる。

更に、行政職員に求められる能力や実績が変わる。案件形成できる（予算獲得ができる）能力やその実績に加えて、特定の成果目標を達成しうる事業を形成して実施できる（そしてその目標達成に貢献できる）能力や実績が求められるようになる。そして、既述のように幹部層には、「経営」の能力・実績も求められるようになる。

最後に予算査定のあり方も変わる。予算査定を行う際にも、その考え方やプロセスが大きく変わることとなる。従来のような一件査定、個別の（性質別）経費の査定から、より大きな「括り」（施策・政策や組織）での査定、成果目標の視点からの査定へと変化していくこととなる。

現実的な対応策は

このような業績予算の考え方の下で、現場にて事業に携わる職員が今の時点でなしうることは、前年度の業績の良し悪しに係わらず、1)自らの担当する事業にて業績を上げることが如何に成果目標の達成に貢献しうるのかを、（これまでの業績の推移、他の関連事業の業績の推移、ロジック・モデル(施策体系図)などを駆使して、）積極的にかつ客観的に説得すること、2)他の新規事業の方が成果目標達成の点でより大きな見込がありそうな場合には、早々にそちらに切り替えてそちらの貢献可能性を熱心に説くこと、などであろう。職員にとっては、自らが現在担当している事業に拘ることが必ずしも良いわけではない。特定の成果目標に貢献しうるより良い事業を立案してそれを案件化（予算化）して実施できれば、組織としても職員自身としてもより良いこととみなされる。（もちろん、これらの活動は予算獲得の可能性を高めはするが、その結果を保証しうるものではない。）

今後、予算獲得を重視するというこれまでの姿勢そのものが変わっていくことが望ましいが、それは一朝一夕になしうるものではなく、中期的な展望が必要となる。まずはこのように、成果目標志向の業績予算の考え方と、これまでの予算獲得重視の考え方を組み合わせることで、現実的な改革の第一歩にしうるものと考える。

図表1　業績予算の考え方（1）

業績予算の考え方（1）

図表2　業績予算の考え方（2）

業績予算の考え方（2）

業績が上がると、予算は増えるのか、減るのか？

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