～費用削減だけがその方策ではありません～

本稿では、行政機関の効率性をいかに高めていくかについて、議論したいと思います。当たり前の話ではありますが、効率性は「分数」で表す指標です。具体的に、産出（アウトプット）を投入資源（インプット）で割って算定します。

効率性	＝	産　出（アウトプット）

		投入資源（インプット）

効率性を高めようとするとき、どうしても分母である「投入資源の削減」に目が行きがちです。もちろん、それは非常に重要な視点です。しかしそれに加えて、分子である「産出」を「いかに大きくするか」も、同時に大事な視点になります。同じ投入資源の量で産出量が増えた場合にも、確実に効率性は向上します。
例をみてみましょう。ブレア首相時代の英国で、首相府の強いイニシアティブによりこの効率化問題に取組んだことがありました（2003年～）。その時に、設定された効率性は、「5つの定義」から構成されていました（下記を参照）。そこでは、分母である投入資源の削減に加えて、分子である産出の拡大もその考え方に明確に反映されていました。そしてこの何れもが効率性を高める取組みであるとして、推奨されたのです。

英国での取組み（効率性の５つの定義）

「分母」の削減（２種類）
- サービス提供の質は維持しつつ、投入資源（人的・財的資源）の量を削減
- 同様に、サービス提供に必要な資源を購入する価格の低下
「分子」の拡大
- 同一の投入資源で提供サービスの質量が増加
「分母・分子」双方の変化
- （双方が変化した結果として）単位投入量当たりのアウトプットの増加
「配分の効率性」向上
- 同一投入でより大きな目標の達成ができるよう複数案件の予算バランスの変更

（出典）英国政府「政府の資源をフロントラインへ」（ガーション・レビュー）2004年を基に作成

　このうち、最後の「配分の効率性」とは、事業への予算配賦そのものの効率性のことであり、通常複数ある事業の実施案（代替案）のうち、少しでもより多くの成果（アウトカム）が見込める最適な事業に予算を付与すること意味します。
英国政府では、効率化をこのように定義した上で、分母（投入資源）の削減に着目する効率化を「現金化が可能な効率化」、分子（産出）の増大に着目する効率化を「現金化が不可能な効率化」として、各省庁がこの双方の観点から効率化を追求して、省庁ごとに設定された効率化の目標値を達成するように求められたのです。
なお、取組みに当たっては、民間の経営コンサルタントの参画を得て専門チームを組成して、このような枠組みを構築しています。専門チームは、各省庁へのヒアリングを実施して、その合意の上で、省庁ごとの効率化目標を設定しました。本稿で述べている効率化の定義や省庁ごとの効率化目標をまとめた報告書は、参加した民間コンサルタントで専門チームの委員長であったピーター・ガーションの名前をとって「ガーション・レビュー」と呼ばれています。

英国での取組み（現金化の可能性の視点）

現金化が可能な効率化：　現金支出の削減を伴う効率化
現金化が不可能な効率化：　現金支出の削減を伴わない効率化

（出典）英国政府「政府の資源をフロントラインへ」（ガーション・レビュー）2004年を基に作成

　英国政府の各省庁でも、効率性をこのように広めに理解してその向上策を模索することについて、当初は戸惑いもあったようですが、この取組みは数年間にわたって継続的に実施されました。このうち、分子（産出）の増大については、業務プロセスの改善、政策実施手段の見直し（規制の改善、など）、外部委託の改善（枠組み・内容・量の見直し、モニタリング手法の改善など）、などが実施されました。
この取組みが重要なのは、自らの予算を減らしたくない（＝投入資源の削減をしたくない）行政職員に対してもインセンティブとして機能しうる点です。英国では、省庁の裁量性のある支出枠組みに対してこのような効率化目標が設定されましたので、行政職員にとっては自らの予算を過度に削減することなしに、自らの工夫によって「効率化の目標」に加えて「業績の目標」の達成も目指すことができたのです。（なお、各省庁への予算総額の規制がなされている中での取組みですので、このような取組みにより予算総額が増えることもありません。）
「配分の効率性」が確保されている（＝最適な事業に予算が付与されている）という前提であれば、そして外部委託先などに不適切に過度な要求を行わないという前提であれば、この分子への着目による効率性の強化は十分に機能します。
国債など債務残高の対GDP比がOECD加盟国中で群を抜いて高い日本において、個々の事業に使う予算額そのものを予算編成のプロセスを通じて減らすことに議論や関心が集中しがちであったことは理解できます。しかしそのような取組みにも限界があり、依然として財政の健全化が喫緊の課題であることを考えると、今ここで視点を変えて、予算の総額規制や裁量枠などの下で、現場の工夫に重点を置いて、多様な視点から効率性を高めうるように挑戦することが、とても意味があります。

行政機関の「効率性」向上策

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