自社内で基礎研究から応用研究、事業化までの全てを一貫して行う「自前主義」には限界が生じてきているとして、社外の経営資源を社内の経営資源と同様に活用する「オープンイノベーション」の重要性がますます指摘されるようになっている。しかし、これまで報告されている事例の多くは、情報通信や電子部品、医薬品等の消費財が中心である。工作機械、建設機械、産業用ロボット等の機械工業でのオープンイノベーションの実態はどうなっているのか? 日本および日本と同様に機械工業が盛んな欧州において、各製造品目における業界トップクラスの企業を調査対象として、オープンイノベーションに対する考え方や取組実態・事例、課題等を調査した。
機械工業におけるオープンイノベーションに対する考え方や実践事例を分析整理すると、日欧両方で一定程度はオープンイノベーションが行われているものの、他産業に比べるとあまり活発ではない。特に、日本の機械工業では、長期取引慣行を土台とした”摺り合わせ”型・垂直統合型の開発・生産が現在も主流であることや、急速な技術進歩は起こっていない成熟産業でありイノベーションニーズが逼迫していないこと、一貫ラインでの導入が基本であるため一部を担う技術が開発されても導入されにくいことなど、オープンイノベーションを困難にしている課題がみられる。
しかし、新興国において技術力・生産力が急速に進展し、地球環境問題へのより一層の対応が求められる中、日本の機械工業が今後も強い国際競争力を維持・強化していくためには、社内の資源のみならず社外の資源を活用するオープンイノベーションへの取組みが重要になると考えられる。
今後、機械工業においてオープンイノベーションを促進するには、まずはイノベーションを促すことが必要である。自社に無い新たな技術を、共同研究やライセンス、提携、合併や買収(M&A)等で取り込むのがオープンイノベーションの代表的な形態であるが、それには、まずは新たな技術開発を推進することが必要である。そのためには、完成品メーカーが技術ニーズを開示し、中小・ベンチャー企業を含む企業や大学・研究機関等におけるイノベーションを促すことが必要である。その際には、自社の競争領域と非競争領域を明確に区別し、競争領域では技術を秘匿するなどして競争力を担保した上で、非競争領域においてイノベーションニーズを開示することが重要である。具体的にオープンイノベーションに適した領域としては、環境問題対応や安全性向上のための技術などが挙げられる。技術開発では、公的研究資金により共同で技術開発を推進することも有効である。
また、ロボットでは、従来ロボットが利用されていない分野でのロボットの活用可能性を検討してもらい、そこでロボットによるサービスを提供するために必要となる技術を開発していくことで、新たな用途に用いられるロボットおよび新たな市場を開発することが構想されている。マーケットでの販売という事業化段階において、ユーザーや、ユーザーとメーカーの間に立つサービスプロバイダー等と連携するこの取り組みも、オープンイノベーションである。
その他、オープンイノベーションを促進させる方法としては、新規技術を開発した企業や大学・研究機関等と完成品メーカーを結び付ける仲介者として、ベンチャーキャピタルや商社を活かすことが考えられる。
※本調査は、(財)JKAからの競輪の補助金を受けた(社)日本機械工業連合会から委託を受けておこなったものである:「平成22年度機械工業のオープンイノベーションに関する調査研究」。
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