東日本大震災後、日本のエネルギー政策の方向性に関する議論が、様々な場面で、活発に行われている。議論の内容は、一見、混沌化しているように見えるが、大きな方向性に関しては、国民の間で合意が取れつつあるとの印象を受ける。それは、エネルギー（電力）供給に占める原子力の割合を減少させ、自然エネルギーの割合を増加させるということである。但し、その時期、及び、その程度に関しては、意見が大きく分かれているのが現状である。
さて、今後、電力供給に占める原子力発電の割合が減少していくとして、その減少分の全てを、今すぐ（もしくは近い将来において）、自然エネルギー（による電力供給）により補填することは不可能に近いと言えるであろう。従って、しばらくの間、減少分の多くを火力発電（石油、天然ガス、石炭）、自家発電、揚水発電等により補填せざるを得ないと言えよう。
この中で、特に注目されるべきは、天然ガスを燃料とする火力発電であると考える。理由としては、以下のことがあげられる。

自家発電、揚水発電の発電量を増加させるにしても、能力的に限界があり、能力増強が比較的容易である火力発電に頼らざるを得ないこと。
火力発電に使用する化石燃料の中で、天然ガスが最も地球環境に優しい（二酸化炭素排出量が少ない）こと。
石油（原油）は、世界的に価格が上昇傾向にあるとともに、電源としてではなく、輸送用燃料や石油化学原料として使用される趨勢にあること。

また、原子力発電による供給を減少させ、火力発電による供給を増加させることのデメリットとして、二酸化炭素排出量が増大することの他に、発電コストが増加し、電力料金が上昇することが、よく指摘される。しかしながら、天然ガスの調達コストをもっと低下させ、火力による発電コストをより減少させる余地は、十分にあると考えられる。
一昨年から昨年にかけて、世界のエネルギー業界に衝撃を与えた出来事として、「シェールガス革命」という現象があった。これは、技術革新によって、今まで高コストでしか産出できなかった「シェールガス」と称される非在来型天然ガス（通常の油田・ガス田以外から生産される天然ガス）を、低コストで産出できるようになったという現象である。この結果、米国やカナダを中心に、天然ガスの生産量が飛躍的に増大し、世界的に、天然ガスの価格は、大きく低下するようになった。
震災後、天然ガスの価格は上昇する傾向にあるとはいえ、「シェールガス革命」は現在も進行中であり、今後、欧州や中国等においても、シェールガス等の非在来型天然ガスの生産量が大きく伸びると予想されている。
日本は、これを好機ととらえ、活用すべきである。但し、そのためには、乗り越えるべき二つの課題がある。一つは、海外における天然ガス田の権益をより拡大し、なるべく有利な条件で天然ガスを調達していくこと。もう一つは、長期的・固定的な契約のみに頼るのではなく、契約内容を柔軟化させるとともに、スポット市場における天然ガス調達を増大させることである。折りしも、天然ガス田の開発計画は、在来型、非在来型を問わず、まだ多く存在しており、また、「シェールガス革命」の進行により、スポット市場も拡大しつつある。
いくつかの日本企業は、すでに、海外ガス田の権益確保等に乗り出しているが、今後は、官民が一層協力し、天然ガスを安価に調達できるよう、様々な努力をしていくことが望ましい。そうすることが、我が国の電力危機を救い、電力料金を低下させることにつながるとともに、原子力から自然エネルギーへのシフトを、円滑に進めていく（その間の日本経済・地球環境への打撃を最小限に留める）ことに貢献するのである。

震災後のエネルギー政策における天然ガスの役割

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