未曾有の大震災からほぼ半年が過ぎた。改めて今回の地震や津波で貴い命を落とされた方、行方不明になられた方に心より哀悼の意を表したい。現在被災地では復旧・復興に向けた取組みが急ピッチで進められている。国の復興構想会議の指摘を待つまでもなく、大震災からの復旧・復興は、地域・コミュニティ主体でなされるべきと考える。筆者も被災地の自治体で復旧・復興に関わる機会を得た。被災地の状況は多様であり、また、筆者の経験が必ずしも被災地を代表するものでもないが、被災後半年を経過しようとする今、復旧・復興に必要なポイントを整理しておきたい。我が国の自治体の再生・発展に何がしかの参考になればと考えるためである。

言うまでもなく復旧・復興の第一のポイントは、そのスピードである。被害の程度が甚大であるからこそ、復旧・復興の過程では迅速さが求められる。復旧・復興が遅れれば遅れるほど、被害は拡大する。できる限り早く市民が震災前に近い生活を取り戻すこと、そのためには市民生活を支える産業を迅速に復旧・復興させることが重要である。仕事・雇用なくして復旧・復興はない。現状は平常時ではなく、有事（緊急時）である。そのような状況認識の下、復旧・復興にあたる自治体関係者が各自の持ち分で発揮するリーダーシップの質が問われる。

第二は、復旧・復興のニーズの的確な把握である。被災自治体において、各種インフラ、雇用、産業復興、保健・福祉、教育、心のケア、防災・減災対策などについて、地域の客観的な状況や住民の具体のニーズを適切に把握する必要がある。その観点において被災自治体のマーケティング力が問われる。ポイントは、これらの情報は役所の中にあるのではなく、常に現場にあるとの基本認識を関係者が共有することである。その上で、各種行政サービスの必要性・緊急性を量りつつ、提供すべきサービスの優先順位を決定することが求められる。現時点では何よりも、土地利用・整備に係る基本方針を提示が優先されるべきであろう。一方で、これまで提供された行政サービスの中から廃止されるものも出てくるはずである。

第三は、必要なサービスの提供の在り方である。被災の程度には違いがあるとはいえ、多少なりとも各自治体は損害を被っている。一方で、各自治体には平常時の行政ニーズに加え、復旧・復興に係るニーズが殺到している。そのような状況の中、多くの自治体関係者の獅子奮迅の、かつ、真摯な対応・努力には敬意を表するが、一方で、自治体の経営資源には限りがあるのも事実である。そのような経営資源の有限性を踏まえて、被災自治体は、市民、経済界、近隣自治体、国・県、ボランティア、そして（場合によっては）外国政府・国際機関・国際ＮＧＯなどとの「連携」の方策を探っていくことが重要になってくると考える。他方で、これらの団体等からの多種多様な協力の申出が多くなされていると聞く。それらを有効に活用すべきであろう。地域・住民の多様・複雑なニーズに対して、自治体内部に加えて外部のシーズを上手くマッチングさせ、必要なサービスを企画・構想・提供していく経営力が問われている。「経営」とは、組織として使える資源を駆使して価値を創出し、組織の外の顧客に安定的に提供すること、である。この意味では、民間企業の専売特許ではなく、広く自治体などの公的機関にも適用できる考え方である。まさしく「公共経営」の実践が試されていると言えよう。

以上、大震災からの復旧・復興に注力する被災自治体の現場に関わった貴重な経験を踏まえて、現時点で復旧・復興に求められるポイントを整理した。並べてみると、筆者個人の限られたものの見方ではないか、ごく当たり前の指摘に過ぎないではないか、との批判もあり得よう。ただ、本稿の目的は、未曾有の大災害から懸命に立ち上がろうとする被災自治体にとって、その復旧・復興が単に震災前の状態への回復に留まるのではなく、より一層の高いステージへ導くプロセスになるべきであることを主張することにある。その観点では、被災自治体にとって、また、日本国全体にとっても、この大震災を契機に、以前から指摘されていた課題をできるだけ解消し、新たな自治体像を実現するという前向きなスタンスで自治体経営の抜本的改革に取り組むことが肝要である。今回の大震災からの回復の後、日本の自治体の新たなモデルが実現することを願って、我々も共に前進していきたい。

東日本大震災からの復興 ～自治体の経営力が鍵～

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