はじめに

本稿は、岡本主席研究員の「2011.09.12東日本大震災からの復興～自治体の経営力が鍵」（2011年09.12号）の続報である。今回は、復興支援の内容を公表できる状況となったため、具体的な内容について報告したい。
当社では、「シンクタンクの社会貢献」として、「被災した基礎自治体を対象に、当該自治体のニーズを反映する形での復旧・復興支援を具体的に行う」との会社方針が示され、社長直轄の震災対応プロジェクト「Beyond0311」が立ち上げた。そのとっかかりとして、東京・大阪のメンバーを中心に復興計画の作成支援を実施したのは、宮城県気仙沼市。具体的な支援に動き出したのが、６月中旬から。そして、気仙沼市震災復興計画が議会の承認を得たのが１０月７日。まさに４カ月ほどの短い期間ではあったが、現地に若手研究員を常駐要員として交代配置しながら、ボランティアで計画作成の支援を行うといった通常業務と異なる貴重な経験となる４カ月であった。本稿で、その経験の一端を紹介する。なお、我々が支援させていただいた成果の一端は、以下のHPからご覧いただける。

気仙沼市震災復興計画
気仙沼市震災復興市民委員会の提言

東日本大震災からの復興の課題

大阪の研究員として阪神大震災に遭遇し、いくつかの復興計画や防災計画の経験をした者として、今回の大震災からの復興に関する課題を比較的に整理すると以下のことが言える。

（1）生活の復興と産業の復興

阪神大震災時は働く場に関しては問題となるほど大きな被害はなく、生活する場を奪われた市民が多かったために、住宅の再建復興が大きな課題となったのに対して、今回の大震災では、生活する場である住宅ばかりでなく、農業や水産業、水産関連業などの働く場も壊滅的な被害を受けた地域が多く、産業の復興も同時に進めないと被災者の生活再建ができないという点が大きな課題となっている。

（2）大都市の都市の復興と地方部の広域復興

阪神大震災時は、神戸市とその周辺の都市を中心とした「都市の復興」がテーマであり、今回の大震災は東北の３県の沿岸部を中心とした「地方部の広域的な復興」がテーマとなっている。このことから、前者では多くの自治体が平常時に作成してあった都市計画マスタープランをもとに、自治体の意思で復興計画を作成することができたが、今回の被災自治体は総じて財政力に乏しく復興事業を行う財源が少ないため、国の財源などを前提に国の方針をにらみながら、ベースとなる都市計画も十分に準備されていない中で、白紙と言ってもいい状態で復興計画を作成することが求められたのである。

（3）繰り返す災害への対応

三陸地方はこれまでも何度か大きな津波に襲われた経験があり、1960年のチリ地震の時にも大きな津波により被害を受けており、当時を記憶する人々が多く現存している点が阪神大震災時と大きく異なっている。このことから、今回の復興計画では、再度同じような地震や津波が来たときにどうするかという点が、住民の大きな関心事にもなっているように感じられる。

水産業の早期復興が決め手となる

産業の復興が大きな課題となった今回の大震災において、気仙沼市の場合は水産業の復興が決め手であり、水産業の復興と都市基盤の復旧・復興が表裏一体となって同時に進めることが求められた。

（1）気仙沼の「水産業コンプレックス」

気仙沼の水産業は、世界有数の漁場の近くに位置していることもあって、養殖漁業から、沿岸漁業、かつお・まぐろの近海漁業、まぐろの遠洋漁業に至るまで、幅広い漁業がおこなわれてきた。この特徴に加え、餌の養殖を行う業者、魚や餌を冷蔵する冷蔵庫・冷凍庫の事業者、取引を行う市場、仲買商、水産加工業、漁船の修理や艤装を行う造船業、関連業、船に燃料を供給する燃料業など、多くの関連産業が集積している「水産業コンプレックス」を形成していることが特徴である。こうした点が多くの漁船がこの港に集まってくる要因ともなっている。しかし、一方でこうした産業コンプレックスが、漁港を中心とした沿岸部に集積立地しているため、一旦津波の被害を受けると、全ての関連産業がストップしてしまうといったリスクを抱えていることになる。特に多くの水産加工業者や冷蔵庫業者が被災したため、加工や冷蔵によって量が捌けないことから、漁船の水揚げそのものを抑えざるを得ない状況にあると言われている。

（2）地盤沈下とインフラの被害

今回の震災で市内の約８割の漁船が損壊を受け、漁業そのものがストップした上に、漁港施設も被災して漁船の接岸が制約されざるを得なくなっている。さらに、沿岸部で最大74ｃｍの地盤沈下が起こり、魚市場を含む広い範囲で土地の嵩上げが必要となった。また、水産加工業などからの排水を浄化していた下水道の終末処理場が流され機能停止状態となっているため、事業所を復旧するには自前で排水処理を求められることになっている。

（3）工場再建と建築の制限

今回の震災で浸水した市街地では、今後の復興を計画的に進めるために建築基準法によって建築制限が課せられ、市の復興の方向が定まるまで本格的な建物を建設することが禁止されている。そのため、多くの水産業関連事業所が再建したくても再建できない問題を抱えることになった。

（4）復興方針の明確化

早期に復旧・復興していくためには、復興のまちづくりの方向を早く示す必要がある。ところが一方で、行政は２度と同じような被害が出ないように計画作りには慎重にならざるを得ない。たとえば、津波被害を軽減するための防波堤の高さと土地の嵩上げの高さはトレードオフの関係になり、また、漁港周辺の産業集積エリアを産業に特化したエリアにするか、人が住むことも認めるエリアにするかによって、土地利用の計画や規制のあり方も変わってくる。こうした点は、全て土地権利者や住民・事業者が利害関係者になるため、合意形成がないと計画も定まらない。

複雑な課題を整理する課題関連図

気仙沼水産業の復旧・復興に関する課題関連図

　このように、気仙沼の水産業の復興と、防災まちづくりの方針の明確化、都市基盤の復旧・復興という課題が密接不可分に結びつく中、復興のスピードが遅いと判断されれば、別の港で水揚げをする漁船や、市外で工場を建てる水産加工業者が出てくるといった、非常に切羽詰まった状況になっているのが現状である。
こうした複雑に絡み合った問題の解決の糸口を見出し、市民や事業者にもわかりやすく説明する必要から、復興市民委員会メンバーの要請を受けて、以下の課題関連図を作成した。水産業に関しての素人がこの課題関係図を作成することができたのは、市民委員会メンバーの熱い思いを背景に、多くの水産業や水産加工業の従事者の意見を聞き、復興計画を作成する行政当局内の議論に参加するといった恵まれた環境が与えられたからこそと、感謝している。

東日本大震災からの復興 ～産業復興のスピードがカギ～

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