民間宇宙ベンチャーによる事業がテイクオフ

2012/09/28 五味 崇
宇宙ビジネス
イノベーション
次世代技術

現在、米航空宇宙局(NASA)の探査機キュリオシティによって火星探査が行われている。このように、これまでの宇宙関連の取り組みはNASA等の国の宇宙機関によるものがほとんどであったが、近年、ベンチャー企業による取り組みがテイクオフしつつある。
実用化まで到達した例として米国スペースX社がある。同社の無人宇宙船ドラゴンは2012年5月に国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに民間宇宙機としてはじめて成功した。これまでISSにドッキングした宇宙機は米国、ロシア、日本、欧州のいずれも宇宙機関によるものしかなかった。
ドラゴンは10m3の与圧カプセルと14m3の非与圧トランクをもち、ISS等が回る低軌道(LEO)まで最大6,000kgのペイロードを輸送する能力と、低軌道から地球に最大3,000kgのペイロードを持ち帰る能力を有している。
同社はスペースシャトル退役後のISSへの貨物輸送(商業軌道輸送サービス)についてNASAと契約を締結した。最低12回の輸送の総額16億ドルの契約であり、追加のミッションにより最大31億ドルまで契約金額が増えるオプションが付いている。2012年10月には、ISSへの最初の貨物輸送が行われる予定である。
また同社は2012年8月にNASAと宇宙飛行士の輸送に関する4.4億ドルの契約も締結した。宇宙飛行士の輸送に向け、ドラゴンに7人の宇宙飛行士用の座席や脱出システムの搭載等が行われる予定である。

また、英国のベンチャー企業であるバージン・ギャラクティク社は2013年に宇宙旅行を開始する予定である。米国のニューメキシコ州のスペースポートから出発し、4分間の無重力体験が行えるというものである。宇宙旅行の費用は事前に必要な3日間の訓練費用も含め、一人あたり20万ドルとなっている。
宇宙旅行に使われる宇宙船SpaceShipTwoには6人の乗客と2人のパイロットが乗ることが可能であり、個々の乗客には側面と頭上に大きな窓が用意される。SpaceShipTwoは、ジェット航空機により高度15km(50,000フィート)まで運ばれて分離された後、ハイブリッドロケットで高度110kmに到達する。2012年5月には米国連邦航空局から高度100kmへの飛行試験の認可を得ており、2012年末までにはロケット推進による飛行試験が行われる予定である。

米国のベンチャー企業であるプラネタリー・リソーシズ社は2012年4月に小惑星の資源採掘事業について発表した。同社によれば比較的容易に到達できる小惑星だけでも1,500以上あり、白金等のレアメタルや水を含んでいるものがあるとしている。
同社は、まず低軌道上に宇宙望遠鏡LEOを打ち上げる。LEOは高精度のイメージングシステムを備え、地球に近い小惑星の観測等を行う。次いで、宇宙望遠鏡LEOに推進機能や追加的な科学機器、深宇宙レーザ通信機能等を加えた宇宙船を開発する。地球から遠い小惑星まで宇宙船を飛ばし、小惑星の形状や密度、地表等に関するデータを収集する。白金や水等が豊富な小惑星を探査し、小惑星の資源の採掘事業を起こす計画である。はじめは水を多く含む小惑星を開発する。小惑星から得た水を分解して得た酸素と水素をロケット燃料として補給基地にストックする。これらをNASAの宇宙船等に販売することも計画している。小惑星の水資源開発が成功した後には、白金等のレアメタルをロボットによって採掘し地球に持ち帰る計画である。

日本では、東大発のベンチャーであるアクセルスペース社が、超小型人工衛星の設計開発事業を行っている。同社は、北極海域の海氷観測を行う超小型人工衛星WNISAT-1をウェザーニューズ社、東京大学、千葉大学とともに開発している。WNISAT-1は1辺27cmの立方体形状の重さ10kgの超小型衛星である。機能を絞り込むことで開発期間を短縮、低コストで開発することを可能にしている。WNISAT-1は2012年9月に打上げられる予定である。地上500mの分解能をもつ光学カメラを備え、北極海航路の海氷の状態を観測し、ウェザーニューズ社が北極海航路を通過する船舶への情報提供事業に観測データを活用する計画である。

このように民間ベンチャーによる宇宙への取り組みが活発に行われてきている。国の宇宙機関による取り組みと比べ、民間ベンチャーでは、これまでに開発されてきた宇宙技術をベースとした安価で効率的な技術を活用しながら、採算性を重視つつこれまでにないサービスや事業を創造している。我が国においても、より一層、民間ならではの自由な発想によって新たな事業に繋がる取り組みが進むことが期待される。

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