『施策立案に対話文化を』 (1)日本とオランダのフューチャーセンター

2014/07/01 松岡 夏子、家子 直幸
イノベーション

人と人との「対話」から社会や組織を変革するインパクトを生み出そうとする動きが、「フューチャーセンター」というキーワードと共に、全国各地の企業、大学、NPO等で活発になっている。今後期待されるパブリックセクターへの展開可能性について全4回に分けてその可能性と課題を紹介したい。

第1回目は、日本におけるフューチャーセンターの動向とオランダの事例を紹介する。

■フューチャーセンターとは

「フューチャーセンター」(以下、「FC」)とは、多様なステークホルダーによる未来志向の対話から、ステークホルダー間の新たな関係性を構築し、創発的なアイデアと協調的なアクションを生み出していくための「場」である。その実践や理論については、野村(2002)、野中・紺野(2002)が詳しい。

「センター」と呼ばれるが、必ずしも専用の建物があるとは限らず、特定のテーマについてステークホルダーが継続的に集まる「場」をコーディネートする機能を意味している。用意された「場」(=セッション)は「フューチャーセッション」と呼ばれている。

センターの主催は企業、大学、行政、市民団体、個人とさまざまであり、テーマも特定の課題に特化したものから、地域や組織の課題を網羅的に扱うものまで幅広い。セッションの企画は、主催する組織の内部のみに限られる場合と、外部からも受け付ける場合がある。

図表1.フューチャーセンターの概念
図表1.フューチャーセンターの概念
(出典)各種資料を基にMURC作成

FCの特徴は、主催者のアイデアをステークホルダーに説明し、修正を加えて了解を得るというプロセスではなく、その「場」に居合わせた人でアイデアを作るプロセスを重視し、主催者はプロセスの管理者の役割を担うという点にある。アイデアが生まれる「場」に居合わせたことで参加者の主体性が高まり、その後のアクションへの移行が容易になるという効果を意図している。

■日本のFCをめぐる動き

日本におけるFCの実践は、2007年頃から富士ゼロックスや東京海上日動など企業セクターで始まり、この数年は市民セクターにも拡大している。6月上旬には今年で5年目になる「フューチャーセッションウィーク2014」が開催され、企業、NPO法人、個人等の多様な主体が自律分散的に各地でフューチャーセッションを企画した。セッションのテーマは、働き方、まちづくり、子育て、防災など実に幅広く、いわゆる「社会的課題」として行政が所管しているテーマが数多く見られる。企画者はSNS等で参加者を募り、社会人、学生、主婦などテーマに関心を持つ多様なステークホルダーが各々にアクションを生み出すことを意図して行動を起こしている。

一方、行政においては「市民参加」や「協働」が重視されるようになって久しいが、行政側のアイデアをベースとして市民の参加の場を用意しているケースが多く、FCのようなオープンなプロセスの導入は立ち遅れていると言ってよい。

■オランダにおけるパブリックセクターのFCの特徴1

FCの起源は北欧にあり、欧州では官公庁での導入も進んでいる。特にオランダでは、多くの国や地方自治体の組織がFCを設置している。例えば、道路水利庁が所有するFC「LEF」は、2002年から運用が開始された施設で、同庁の業務改善や事業立案のために活用されている。年間のセッション数は約370回に上り、7人の職員がFCの活用を希望する同庁職員をサポートする形で、外部のファシリテーターを起用し、ステークホルダーを招いたセッションを開催している。セッションの企画は職員のみに限られており、外部からの企画は受け付けていない。

ここで特筆すべきは、「いかに効率的にイノベーションを創出するか」という視点に基づいたハード面での工夫である。施設内には照明や家具が異なる複数の部屋・空間があり、ファシリテーターが意図する雰囲気を喚起するための画像が室内のスクリーンに投影されている。この画像は、MRI装置を用いて特定の画像が人間の脳のどの部分に作用を及ぼすのかを分析し、それによってもたらされる意識を(1)「収束」と「発散」(2)「個人」と「社会」の2軸で整理した調査に基づいて選択されている。例えば、人々がダンスをしている画像は「社会」を意識させる一方で、花火などの人が映っていない画像は「個人」を意識させるという結果が報告されている

図表2.LEFの室内の様子(左)とスクリーンに投影された画像例(右)
図表2.LEFの室内の様子(左)とスクリーンに投影された画像例(右)

実際に、火災が発生した化学工場の汚染土壌の回復方法とその後の利用方法を扱った事業では、3回のセッションにより1カ月以内に課題解決の方法の策定に至ったというスピーディな成果が報告されている。 このようなハード面でのファシリテーション技術は国税庁が所有する「Shipyard」にも見られる。施設内には趣の異なる13の部屋と食堂がある。例えば、音が遮断された部屋「de stilte」に入ると、自然と心が静まるような感覚がもたらされる。ディレクターのErnst de Lange氏によれば「参加者が日常を離れてセッションへと気持ちを切り替えるためのよい導入になる」という効果を期待している。

図表3.Shipyard内の様々な部屋
図表3.Shipyard内の様々な部屋
(出典)Shipyardより入手

■オランダに学ぶ日本のFCへの期待

社会的課題を扱うFCについて日本とオランダの状況を比較すると、日本はNPOや市民の発案でセッションが企画され、ステークホルダーと出会い関係性を構築する場としての発展を見せている。一方で、オランダに見られる効率的なイノベーション創出のための対話環境のノウハウには学ぶところが多い。これらをうまく取り入れることで、日本のFCがアクションにつながるさらに効果的なセッションへと発展していくことが期待される。

図表4.社会的課題を扱うFCの特徴
図表4.社会的課題を扱うFCの特徴
(出典)現地調査及び各種資料よりMURC作成

*1 LEF及びShipyardの情報は2013年10月に現地で行ったインタビューに基づくものである。
*2「視覚的雰囲気に対する認知感度 fMRIで測定された写真に対する自動反応」(LEF)

<参考文献>
「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」(野村2012)
「知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論」(野中、紺野 2012)
フューチャーセッションウィーク2014 https://www.ourfutures.net/groups/17

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