昨今、女性活躍推進に積極的に取り組む企業を評価し公共調達における受注機会の増大を図る等、特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組が積極的に進められている。サーチ・ナウ『女性活躍推進等に向けた公共調達の活用』（2014年10月7日）では、このように公共調達を活用する取組が積極的に進められるなか、「公共調達を活用した取組の事前・事後の有効性の検証」が重要であると問題提起した。そこで、本稿では、公共調達を活用した取組の検証事例を紹介し、今後の検証方法についての視点を提示する。

1．公共調達を活用した取組の状況等

特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組としては、例えば、中小企業の受注機会の確保に向けて公共調達を活用することを定めた「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」（昭和41年6月30日法律第97号、以下「官公需法」という。）等がある。最近では、第187回国会（平成26年9月29日～11月21日）において、新たに、創業10年未満の企業及び個人（新規中小企業者）の受注機会の確保が盛り込まれた官公需法改正案が提出された（衆議院可決後、参議院で審議未了）。

このように公共調達を活用した取組が積極的に推進される一方、特定の政策目的を達成するためには、税制優遇等、公共調達以外の様々な政策手段が考えられ、なぜ公共調達を選択するのか、少なくとも、公共調達を活用することの有効性を明確にするとともに、公共調達を活用した結果、政策目的がどの程度達成されたのかを明らかにする「公共調達を活用した取組の事前・事後の有効性の検証」が重要と考えられる。そこで、以下では、公共調達を活用した取組の検証事例を紹介する。

2．公共調達を活用した取組の検証事例

公共調達を活用した取組の検証事例として、例えば、Pickernell et al（2011）が挙げられる。Pickernell et al（2011）では、英国の公共調達における主目的は、あくまでValue for Money（支払に対して最も価値の高いサービスを供給すること）の達成であるものの、近年、中小企業の成長に向けて公共調達が活用されている状況等を踏まえ、英国中小企業連盟2008年調査（調査方法：アンケート調査。調査対象：英国中小企業連盟企業約20万社、有効回答5,425社。なお、回答企業は小規模事業者が93.1%、業種ではサービス業が74%）を活用し、ロジスティック回帰分析等により、公共調達の効果等を検証している。具体的には、①公共調達は革新的な中小企業の成長を促進しているか、②公共調達は（革新的というよりは）地域に根差した企業の地域の雇用を促進しているか等である。

検証の結果、公共調達と企業の成長（売上高伸び率）との関係について有意な結果は得られなかったものの、一口に公共調達に参加する企業といっても、広域の公的機関（中央政府、エージェンシー等）を主なターゲットとする中小企業と、地域の公的機関（地方自治体、学校、NHS等）を主なターゲットとする2つのグループが存在し、広域の公的機関を主なターゲットとする企業ほど、知的財産を所有し研究開発費を支出する企業（革新的な企業）が多く、地域の公的機関を主なターゲットとする企業ほど、地域の雇用確保に貢献している傾向が示された。つまり、公共調達を活用して中小企業の革新性を向上させることを重視するならば、ある意味、広域の公的機関に発注を集約化（革新的な企業へ集中的に発注）する政策オプションが有効であると考えられるものの、地域の公的機関を主なターゲットとする企業は地域の雇用確保に貢献していることから、公共調達の参加者として2つのグループが存在しそれぞれ違う役割を果たしていることを踏まえた有機的な調達政策が重要であるとしている。

上記のような定量分析以外にも、例えば、Cabinet Office（2014）では、公共調達を活用して企業がどのように成長したかを定性的に検証（事例調査）している。一つの事例として、Oxbridge Pharma社が取り上げられており、同社は小規模な医薬品会社であったが、2年間のNHSからの受注実績により、安定した事業計画の策定が可能となり、国際市場への展開を検討している等の事例が紹介されている。

このように、英国では、学術論文や公的機関の年次報告書において、公共調達を活用した取組の事後的な定量・定性分析が行われているのである。

3．最後に

我が国でも、国等の契約実績や中小企業向け契約実績等はホームページ等で公表されており、その実態は一定程度明らかにされている。しかし、近年、これまで以上に、特定の政策目的を達成するために公共調達を活用する取組が進められているなか、例えば、企業の属性（公的機関の主なターゲット等）に照らして公共調達の効果を検証する等、企業属性を踏まえたより詳細な定量・定性分析を行い、検証結果を積み上げていくことは重要ではないかと考えている。

【参考文献】
Pickernell D, Kay A, Packham G, Miller C（2011）”Competing agendas in public procurement: an empirical analysis of opportunities and limits in the UK for SMEs” Environment and Planning C：Government and Policy, volume29, page641-658
Cabinet Office（2014）”Making Government business more accessible to SMEs : Two Years on”
川澤良子（2014年10月7日）サーチ・ナウ「女性活躍推進等に向けた公共調達の活用」

公共調達を活用した取組の有効性の検証

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