幸福度に対する関心の高まり
近年「幸福度」に関する関心が高まっている。幸福というと、これまでは所得や資産の多さなど、経済的な要素が基準になるとされてきたが、そういった要素だけではなく、安全・安心や生活環境、人々とのつながりといった非経済的要素も大きな影響を与えている可能性が指摘されている。
当社は、平成25年度から26年度にかけて、大阪府門真市における「幸福度策定指標」の検討業務を受託し、京都大学の諸富教授を、門真市民も参画した門真市幸福度指標策定委員会の委員長に迎えて「門真市幸福度指標」の検討を支援させていただいた。
本稿では検討にあたって留意した点や、策定に際して実施したアンケートの結果などから、地方創生の潮流などを踏まえつつ、住民の幸福度の向上に向けて、基礎自治体が取り組むべきテーマについて考察を行う。
基礎自治体に相応しい幸福度指標とは
基礎自治体における幸福度指標については、東京都荒川区や、京都府京丹後市などで、既に策定事例がある。「幸福」とは個人ごとに異なる主観的な感覚であり、それを「幸福度」として指標化するためには、市民アンケートを行い、市民の意識を調査する必要がある。
まず、市民アンケートにおいて、内閣府などの過去の調査にならい、各人の主観的な「幸福度」を10点満点で回答していただくことにした。その上で、人の主観的な幸福につながる要因を「構成要素」と「決定要因」に分けた。
「構成要素」とは、健康状態や経済環境、人とのつながりなど、総合的な「幸福」という感情をもたらし、幸福度の高低に影響を与えていると考えられる各要素のこととした。それに対して、その健康状態や経済環境、人とのつながりといった構成要素の状態を決定づけている項目を「決定要因」とした。健康状態であれば睡眠時間や朝食摂取の有無、経済環境であれば所得や就労の状況、人とのつながりであれば、近所づきあいの状況、といった事項である。
その上で、門真市の施策によって、住民の幸福度の向上につながるような指標となるよう、「構成要素」と「決定要因」を門真市第5次総合計画(以下「総合計画」という)の施策体系に則して検討し、関連する状況についての市政への評価とともに調査票に反映することにした(図1)。総合計画と関連付けることで、基礎自治体の取り組みによって幸福度の向上につながる可能性を担保する、というのが検討にあたって特に留意した点である。
図1:「構成要素」と「決定要因」をもとにした幸福度指標策定のための市民意識調査の構成
幸福度調査の結果から見えてきたもの
上記のような考えのもと、市民意識調査を行った結果、主観的な幸福度については10点満点で5点と回答した人が最も多い(図2)。性・年齢別に見ると35歳未満の男性が、自分は「不幸だ」と感じている比率が最も高いことがわかった。また、家族形態別に見ると、男女とも「夫婦と子どもと親」という三世代世帯において、自分は「幸福である」と感じている人の比率が最も高くなっている(図3)。
図2:主観的な幸福度の分布状況
図3:性・年齢別、家族構成別の主観的幸福度
その他、結果の詳細は、門真市ホームページの「門真市幸福度指標について」において公開されている報告書をご覧いただくとして、「幸福度」を中心にしたアンケート調査により、これまでの基礎自治体におけるアンケート調査からは見えにくかった、特徴的な結果とそこから得られる示唆について述べてみたい。
たとえば、今回の調査では、「地域コミュニティとのつながりがあると感じられる」や「まちづくりを担う一員になっていると感じられる」といった要素については、「そう思う」という回答の比率が、幸福という人と不幸という人の間で大きな差が生じている(図4)。同時期に実施した総合計画の進行管理に係るアンケート調査では、「自治会活動や市民活動が活性化するような環境ができていること」という項目は、「満足度」と「重要度」の回答結果から算出した評価指数において、46施策中34番めの順位であった。つまり、市民参加や地域コミュニティの活性化は、市政への「満足度」や今後の「重要度」を測るこれまでの施策評価の結果からは、それほど重要な施策として注目されることのない分野であった。しかしながら、幸福度の向上という見地からは、注目すべき要素となり、施策を検討する上での新たな切り口を示している。一方で、門真市に限らず各地で関心が高い「安全安心なまちづくり」に関連する項目として挙げられる「犯罪にあう不安」や「事故にあう不安」の感じ方については、幸福度の高低による差はほとんど見られない(図4)。
また、今回の調査において、幸福度の低さが目立った属性として「35歳未満の男性」「単身男性」「ひとり親家庭の男性」「非正規雇用の男性」が挙げられる。一方で、幸福度の高い属性として男女とも高かったのは、「夫婦と子どもと親」という三世代同居している人であった。男性、とりわけ若い男性は、健康で体力も経済力もある存在として、行政による支援施策の対象とされにくい属性であり、三世代同居については、少子化対策の観点からここにきてやや注目が高まっているものの、これまでは政策的なテーマとして必ずしも注目が高いものではなかったであろう。ただ、今回の調査結果では、これらの属性は他の属性に比べてかなり異なる幸福度を示しており、幸福度の向上を図っていくための検討材料となるだろう。
図4:構成要素ごとの幸福度の比較
(資料)門真市「門真市幸福度指標について(概要版)」平成27年3月 52ページの図に一部加筆
「門真市幸福度指標」の策定
このような市民意識調査の結果と、アンケート項目間の相関関係や今後の門真市における取組の方向性などを考慮しつつ、委員会における検討を経て「門真市幸福度指標」が策定された。(表1)
「門真市幸福度指標」は「概念指標」と「モニタリング指標」の二層構造となっている。「概念指標」は先述の「構成要素」の考え方を背景としており、「これらの要素が市民の幸せにつながっているのではないか」という観点で策定したものである。「モニタリング指標」は、「概念指標」におけるやや抽象的な「概念」を具体的な行動等に落とし込み、検証可能なものにするために設定した指標である。これらは、アンケート調査において構成要素や幸福度との間に有意な相関があった決定要因や、決定要因に関連する既存統計のデータ、門真市の総合計画における「達成度を測る指標」などを参考に設定した。
現在、地方創生に向けた総合戦略が各地で作成されているが、その際に設定が求められているのが、取組の成果を図る重要業績評価指標(KPI)である。地方創生の目的は、地域の魅力を高め、若い世代の仕事と出産・子育てに関する希望を実現させることであるが、その先に目指す究極的な目標としては住民の幸福度の向上があるだろう。
主観的な幸福度だけでなく、市政とのつながり、策定後のモニタリングも意識して策定された「門真市幸福度指標」は門真市の総合戦略「門真市まち・ひと・しごと創生総合戦略」のKPIの一部にも活用されている。先の地域コミュニティへの評価のように、「幸福度」を切り口にすることで、従来の行政評価のアプローチからは見えてこなかった検討課題が明らかになる可能性もある。他の自治体でも同様の検討を行うことによって、住民の幸福度向上に繋がる有効な指標が開発されることも期待される。
表1:門真市幸福度指標
参考文献
https://www.city.kadoma.osaka.jp/shisei/gijiroku/kohukudo_sihyo.html
門真市「門真市幸福度指標について 報告書」2015年
門真市「門真市幸福度指標について(概要版)」2015年
門真市「門真市第5次総合計画中間見直しにかる市民意識調査報告書」2015年
門真市「門真市まち・ひと・しごと創生総合戦略」2015年
内閣府社会総合研究所「生活の質に関する調査(世帯)の結果について」2013年
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