働き方改革によるわが国旅行分野への影響や効果(2)50代への訴求が旅行消費拡大の鍵

2020/07/30
観光
独自調査
働き方改革
旅行

前稿では、働き方改革による旅行分野への影響について「①観光産業の労働生産性向上」と「②生み出された余暇時間の旅行への配分増」という2つの視点に整理した上で、特に後者の視点から、働き方改革によって労働時間が減少すれば余暇時間(3次活動1)が増加することを示し、この増加した余暇時間が新たに旅行へ振り分けられることで、最終的には旅行消費額の増大が促されるという仮説を提示した。
この旅行時間の増加パターンとしては、新たに生み出された余暇時間の一部を旅行に振り分けるものに加え、余暇時間をまとめて確保できたことで、これまでは旅行以外の時間に充てていた時間を新たに旅行時間に投入することによる増加も考えられる。

働き方改革が旅行時間・消費額増加をもたらすフロー

本稿では、当社の独自調査「働き方・休み方改革の観光への影響に関するアンケート2」(令和元(2019)年10月実施)をもとに、働き方改革の本格開始から半年間(平成31(2019)年4月~同年9月)で、労働生産性の向上を計る上で重要な要素である労働時間が、観光産業において減少したか確認するのにあわせ、働き方改革によって労働時間が減少した層、すなわち旅行への時間配分の増加が見込まれる層は、どのような属性を有しているのかを示す。

当社独自調査「働き方・休み方改革の観光への影響に関するアンケート」の概要

実施時期 令和元(2019)年10月
対象者 全国の20歳~64歳の就業者(パート・アルバイトを除く)450人
標本の割付 働き方改革による効果の違いを世代別に比較するため、20代、30代、40代、50代については各100票、60代前半はその半数となる50票の世代別割付を行って回収した。
ただし、回収後の点検作業で、半年間の1日あたり平均睡眠時間ゼロ、1日あたり平均労働時間24時間など、明らかな誤答と判定された回答が77票あったため、これを除外して再度、不足分を回収したところ、最終的な世代別回収数は下記の通りとなった。

回収数
20代 103
30代 96
40代 89
50代 107
60~64歳 55
合計 450
 実施手法 ウェブアンケート
設問項目

・働き方改革前後での労働と余暇、消費金額

※平均就労日数、平均就労時間、通勤時間

※余暇時間とその内訳(平日、休日)、それぞれの消費金額

・余暇時間が増えた場合や新たに有給休暇が取得できた場合の時間の使い方

・今後の旅行に対する意向 等

1. 働き方改革による労働時間の変化

回答者のなかには、労働時間が極端に長い方や短い方が含まれており、変化量をそのまま集計すると、結果に大きな影響が出ることが懸念されたことから、働き方改革前または後の労働時間が3時間以内もしくは17時間以上の方は集計対象から除外した。また、派遣社員が正社員になった、育児休暇を取得した等の、働き方改革とは異なる理由で労働時間が変化したと考えられる方も含まれていたため、働き方改革前後での労働時間変化率が50%以上の方についても、やはり集計対象から除外した。
残る429人の回答を対象として、働き方改革による効果を検証した結果、働き方改革前後3で労働時間が減少、すなわち働き方改革の効果を享受していると考えられる人は、約4.4%であった。
以下では働き方改革前後で労働時間が減少した人を、世代別、企業規模別、産業区分別、居住地別で示し、どのような属性を中心に、働き方改革による効果がもたらされているのかを確認したが、世代別では50代に効果が集中しており、企業規模別では規模の大きな企業ほど、産業区分別では第2次産業従事者において効果がみられたが、地域別では大きな差違は見受けられなかった。

(1)世代別

働き方改革によって労働時間が減少した人の割合を世代別にみると、50代のみが全体平均(4.4%)を上回っており、特に大きな効果が現れている。
一方、60~64歳では労働時間が減少した人はいなかった。これは、60歳を境に、再雇用制度等で嘱託社員等として働く人が多くなっていることから、働き方改革による効果が発現する余地が小さかったためと考えられる。

働き方改革が旅行時間・消費額増加をもたらすフロー

本稿では、当社の独自調査「働き方・休み方改革の観光への影響に関するアンケート2」(令和元(2019)年10月実施)をもとに、働き方改革の本格開始から半年間(平成31(2019)年4月~同年9月)で、労働生産性の向上を計る上で重要な要素である労働時間が、観光産業において減少したか確認するのにあわせ、働き方改革によって労働時間が減少した層、すなわち旅行への時間配分の増加が見込まれる層は、どのような属性を有しているのかを示す。

働き方改革前後で労働時間が減少した人の割合(年代別)

(2)企業規模別

働き方改革関連法は大企業、中小企業と段階的に施行されるため、現時点では、労働時間が減少した人の割合は企業規模が大きくなるほど高い。2020年以降、中小企業および小規模事業者においても働き方改革の関連法案が順次適応されていくことになっているが、中小企業においても調査時点で一定程度の効果が見られたことは特徴的である。今後は小規模事業者においても更なる効果発現が期待できると考えられる。

働き方改革前後で労働時間が減少した人の割合(企業規模別)

(3)産業区分別

産業区分別にみると、設備をまとめて止める等、経営者による働き方改革を実践しやすい第2次産業の従事者では、第3次産業従事者に比べて労働時間が減少した人の割合が高い。

働き方改革前後で労働時間が減少した人の割合(産業区分別)

(4)居住地別

居住地別でもみたが、地域別の差はほとんど確認できなかった。
東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)では労働時間が減少した人の割合が4.9%と、そのほかの地域と比べると僅かに高いものの、大きな差にはなっていない。

働き方改革前後で労働時間が減少した人の割合(居住地別)

2. 働き方改革による観光産業の労働生産性変化

働き方改革によって労働時間が減少した人の割合を産業別にみると、労働時間の減少効果が出ている産業と出ていない産業に区分されるが、観光産業の代表格である「宿泊業、飲食サービス業」は労働時間の減少効果が見られる側に属している。
調査時点においては、観光産業は全般に、インバウンド効果を受けて業況が好調とされており、労働生産性の分子にあたる、産出サービス量が減少したとは考えにくい。そのため、労働時間の減少は、労働生産性の向上を示していると考えられ、他業種に比べて、働き方改革による労働生産性の向上効果が大きい可能性を指摘できる。

働き方改革前後で労働時間が減少した人の割合(産業別)

回答者数が5人以下となった産業区分(「電気・ガス・熱供給・水道業」、「農業、林業」)は表示を省略した。

弊社の独自調査の結果から、働き方改革前後で、観光産業でも生産性が以前より向上している可能性が指摘できた。
また、前稿における統計分析からは、労働時間の減少はそのまま余暇時間の増加につながっているが、調査結果からは、わが国の就業者20人に対しておよそ1人の割合で、働き方改革前後で労働時間が減少しており、余暇時間が旅行へと配分されることで、旅行消費の拡大も期待できる。特に、世代別では50代、働き方改革が法律で義務付けられた大企業と、第2次産業従事者において、特に労働時間が減少した人の割合が高かったため、旅行消費の増大をもたらす層として期待される。
そこで、最後の第3部では、働き方改革前後での旅行時間の変化を把握し、旅行種別ごとの変化に基づいて、生じている経済効果を試算する。その上で、労働者による休暇取得の現状等をふまえ、働き方改革によって旅行分野へ生じている効果を今後一層大きくするための方策について提言する。

(第2部了)


1 総務省統計局「社会生活基本調査」では、睡眠、食事など生理的に必要な活動を「1次活動」、仕事、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動を「2次活動」、これら以外の活動で各人の自由時間における活動を「3次活動」と定義している。
2 全国の20代~60代の就業者(パート・アルバイトを除く)450人を対象にしたウェブアンケート調査である。尚、本調査では、「余暇」を、「睡眠、食事等の生理的に必要な時間も含め、仕事(通勤時間を含む)以外の時間を全て含むもの」として定義している。
3 本アンケートでは、2019年4月(働き方改革の関連規制適応開始)~9月を働き方改革実施後、2018年以前を働き方改革実施前と設定している。

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