韓国・雇用許可制はブローカーを排除できているのか

2021/05/14 加藤 真
雇用・労働政策
韓国

本稿では、韓国の低熟練外国人労働者の受入れ制度である雇用許可制(Employment Permit System:EPS)に関して、国内外から高い評価を受ける「ブローカーの排除に成功した」という点について、これまで日本語文献ではほとんど扱われてきていない韓国現地をはじめとする海外における調査・統計等から示唆される実態を整理する。
※なお、本稿以外の観点も含む、韓国・雇用許可制の実態の把握と日本への示唆については、以下のレポートを参照されたい。

1. 雇用許可制が評価されるポイント

韓国では、2003年以前まで、日本の技能実習制度をベンチマークした産業研修制度を運用していた。だが、韓国国内での人権侵害、劣悪な労働環境等が問題となった結果、2003年の大統領選では与野党候補ともに同制度の廃止と新制度の設立を公約に掲げた。その結果、2004年から実習・研修といった建前をやめ、外国人を名実とも労働者として扱い、外国人労働者の雇用を希望する企業に政府が雇用許可を与える制度(雇用許可制)を開始した。
雇用許可制の制度詳細は別稿を参照されたいが(佐野 2017、労働政策研究・研修機構2018、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2019)、雇用許可制で就労する外国人労働者数は、2020年末時点で約23.7万人おり、長期在留者の14.9%、外国人労働者の29.6%(2020年5月15日時点)を占め、韓国における主要なグループを形成している。国籍は、多い順にカンボジア(3.3万人)、ネパール(3.1万人)、ベトナム(3.1万人)、インドネシア(2.4万人)、フィリピン(2.1万人)でそれぞれ全体の10-15%程度を占めている(法務部2020a、2020b)。 雇用許可制は国際的に高い評価が与えられている。2007年には国際移住機構(IOM)のマッキンリー事務総長が「雇用許可制は良いシステムで多くの国にとって良いモデルになる」と評価し、2011年には国連の「公共行政における腐敗の防止との戦い」分野における最も権威のある賞である「国連公共行政大賞」を受賞した。
特に評価されているポイントが「ブローカーの排除に成功した」という点である。日本では、特に技能実習生がブローカーを利用し、多額の借金を背負って来日する事例が問題視されている一方、韓国の雇用許可制では、送出しから受入れまでの過程を政府間(Government to Government)で行う、いわゆる「G-to-G」の形のため、ブローカーの介在を阻止し、過剰な仲介斡旋費用はかからず、借金を背負った状態での入国は起きえないとされる。
この点について、国内外の先行研究においても、「ブローカーによる中間搾取が排除されている」(指宿 2018:92)、「営利的事業者(ブローカー)の仲介プロセスは排されている」(宮島 2019:62)とされ、「雇用許可制下での労働者が負担する仲介斡旋費用は極めて小さい」(ADBI・OECD・ILO 2019:32)、「中間搾取を取り除くことに成功」(澤田 2020:261)しているなどと評価されている。

2. 実態はどうなっているのか

このように、国際機関、学術界、ジャーナリズム等から高い評価を得ている雇用許可制であるが、我が国では韓国の政府や研究機関等をはじめとした海外での調査・統計等が十分にフォローされていない、もしくは批判的検証であってもエピソードベースのものが多いことから、全体として断片的な制度理解にとどまっているのではないか、という課題意識を筆者は持っている。そこで以降では、韓国政府や海外調査で明らかにされている実態を整理する。

雇用許可制は、韓国政府・雇用労働部が主幹しており、実際の海外現地の送出しから韓国入国までの実務は雇用労働部傘下の韓国産業人力公団が担当している。 韓国産業人力公団では、数年に一度雇用許可制で就労する外国人労働者本人に対して調査を行い、韓国入国までにかかった費用を費目ごとに把握している。結果をまとめたものが以下の表である。

図表1 雇用許可制で韓国入国までにかかった費用(2010年、2013年、2015年)

グラフ 雇用許可制で韓国入国までにかかった費用
(出所)韓国産業人力公団(2015)、法務部(2013)、法務部(2010)をもとに作成
(出所注)1)各項目のケースの数と平均は0と欠損値を除いた有効回答のみ算出したもの。ただし、総費用は各項目の合計であり、全ケースが含まれる。2)すべての項目、F値はp <0.05レベルで有意。
(注)調査対象年の雇用許可制下で在留する外国人労働者を対象とした調査結果(2015年:n=1,975、2013年:n=1,234、2010年:n=654)

結果からは、1)雇用許可制下において、色付けした「非公式費用(賄賂・斡旋手数料)」や「民間ブローカー費用」が発生しており、ブローカー等は排除できていないこと、2)出身国によってかかる費用の違いが大きいことの2点が指摘できる。特にベトナムやミャンマーからの入国では、他国からに比べて標準偏差が大きく、金額に幅があることがわかる。
上記の2点に関して筆者らが行った東南・南アジア等の労働力送出し国での移住経路に関する研究結果からは、地方出身者では、送出し国現地に設置されている韓国政府の出先機関にたどり着くまでに複数の仲介者・送出し機関・語学学校等が介在しており、最終的に発生する費用や金額に違いが生じている可能性が示唆されている(是川他2020、2021)。こうしたインフォーマルな仲介者の存在は、ベトナムでフィールドワークを行った巣内(2019)も指摘している。

また、世界銀行の移住に関するシンクタンクであるKNOMAD(The World Bank’s Global Knowledge Partnership on Migration and Development)は、2014年から数年間にわたり「移住コスト研究プロジェクト」を実施し、パイロット調査として、ベトナム・インドネシア・タイから韓国へ雇用許可制で入国した119名の労働者に対するインタビュー調査を行った(Abella & Martin 2014)。
その結果をみると、1)雇用許可制では認められていない仲介斡旋費用を支払っている者が27名(約23%)おり、その金額は900USドルから2,200USドルまで開きがあり、特にベトナム出身者の総額の散らばりが大きい。また、2)韓国入国・就労のために借金をした人は、47名(約40%)おり、最高8,000USドルの借金を背負い韓国に入国していることが明らかになっている(下記図表参照)。

図表2 韓国入国時点の借金総額、調査時点の残りの借金(単位:USドル)

韓国入国時点の借金総額 調査時点での残りの借金総額
平均値 1,973 886
中央値 1,551 337
最小値 19 0
最大値 8,000 4,850
標準偏差 1,732 1,248
件数(人) 47 46

(出所)Abella & Martin(2014)より作成、調査対象119名

さらに、韓国国家人権委員会(2013)が雇用許可制下で農畜産業に従事する外国人労働者に実施した調査によると、ほとんどの国の出身者が、雇用労働部が把握している国政監査資料の数値よりも高い費用を実際には支払って韓国に入国していることを明らかにしている。特にベトナム出身者については、雇用労働部が把握していた入国費用は平均788ドルであったが、上記調査(個人インタビュー、グループインタビュー)に応じたベトナム出身者のほとんどが、10,000USドル(約100万円)以上を払って来韓したと語っている。

図表3 雇用許可制で働くベトナム人労働者のインタビュー抜粋

  • 韓国に来るために、ブローカーに支払わなければならない費用がとても高いです。私が来るときは、10,000ドルでした。…その個人が出した10,000ドルのうち、500ドルが地方の人材紹介会社の分け前になります。残り9,500ドルのうち5000ドルは、中央労働部に行き、4500ドルは、地方労働部がもらいました。…もしハノイから離れた地方で申請する場合、さらなるブローカーや送出会社の段階を経る必要があります。そのようなステップが複数回あるほど多くのお金が必要になります。
  • ベトナムでブローカーを介さず韓国に来られる方法はありません。ブローカー費用は少なくても6〜700万ウォン(筆者注:約60~70万円)、通常は1,000万ウォン(筆者注:約100万円)以上です。もし個人的に、ベトナムの労働部に直接申請をしようとすれば、はなから申請を受け付けてくれないか、申請を受け付けても処理をしてくれません。製造業でも、農業でも、漁業でも同様です。ブローカーは「出国するとき、空港で、お金をいくら必要だったか聞かれたら、1,000ドルだったと答えろ。そうでなければ出国できない。」と言います。だからみんな、実際に支払った費用を隠すでしょう。

(出所)韓国国家人権委員会(2013)、下線・赤字は筆者追加

3. 調査結果からの示唆

韓国・旧労働部(2007)の調査によれば、旧産業研修制度時代の2001年の平均入国費用が3,509USドルであったが、その後2007年には平均1,097USドルへ減少しており、こうした結果に基づき雇用許可制は国内外で一定の評価がなされてきた。ただし、この数値は全体平均値であり、また、本当の金額は労働者本人が隠している可能性も示唆されていることを踏まえると、政府間による「G-to-G」の送出し・受入れが、すべての問題を解決するわけではないといえる。
また、今回みたいくつかの調査結果から示唆されることとして、入国前の仲介斡旋費用やブローカーの発生、さらには借金の有無については、送出し国による違いが大きいことが指摘できる。
前掲の図表1では、雇用許可制で働く外国人労働者が韓国入国までにかかった費用を整理したが、国によってブローカーや非公式費用の発生有無、金額のばらつきが異なっていた。弊社が2020年秋に日本において介護分野で働く外国人労働者に対して行ったアンケート調査でも、来日費用の工面方法として、借金をしている割合が国によって大きく異なっている(下記図表4)。特に、ミャンマー(47.1%)、ベトナム(31.1%)では費用工面方法として借金をしている割合が高い。反対にフィリピンでは14.5%にとどまっているが、背景には、送出し機関が移住労働者本人から仲介斡旋費用を徴収することを、フィリピン政府が原則禁止していることが影響していると考えられる(借金の14.5%は航空チケット等の実費が中心と推察される)。

図表4 介護分野で働く外国人労働者の来日費用の工面方法

グラフ 介護分野で働く外国人労働者の来日費用の工面方法
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2021)をもとに再集計
(注)回答者の全体(n=2,472)の在留資格は多い順に、技能実習62.2%、特定活動(EPA):21.9%、介護:8.9%、特定技能:3.4%、無回答:3.6%

さらに、海外におけるDilip Ratha & Genesh Seshan (2018)による研究では、主にアジア各国(ベトナム、フィリピン、インド、ネパール等)から中東やマレーシアへ向かう労働者の移住費用とそのなかで借金の占める割合を調査しており、ここでも、同じ目的国であっても出身国によって借金の割合が異なる実態が明らかになっている。特にベトナムからマレーシアへの移動ルートでは借金の割合が調査対象国中最大であり、ベトナム人労働者の8割弱(内訳は無利子の借金49%、有利子の借金29%)が借金を背負った状態で移動していることがわかっている。
ベトナムにおける労働力の送出し事情について、筆者らが行った研究に基づくと、一口に「送出し機関」といっても、1)国営の送出し機関、2)民間の大規模な送出し機関(自力で人材募集・訓練が可能)、3)民間の小規模の送出し機関(自力では人材募集・訓練ができず、ブローカーや外部語学学校と提携)、4)違法状態の送出し機関(政府認可の送出し機関ライセンスが得られないため、ライセンスを有する別の送出し機関に人材を紹介して仲介斡旋費用を得る)などバリエーションがあり、どの機関・ルートを使うかよって、目的地が同じでも最終的にかかる費用総額には大きな違いが生じることが明らかになっている(是川他 2020)。
つまり、移住労働に伴うブローカーや借金の発生は、受入れ国の制度だけでなく、送出し国側の制度も反映して決まるといえる。そのため、受入れ側の日本の制度自体の見直しと平行して、送出し国側の制度や実態にも目を向け、各国の移住の構造や、仲介斡旋費用が発生するメカニズムを詳細に把握する作業が求められる1


1 例えば是川(2020)では、送出し国における仲介斡旋費用の発生について、労働者から高い費用を徴収しようとする悪徳な送出し機関というイメージに基づくモラルの問題として扱うのではなく、経済学的なメカニズム(より高い仲介斡旋費用を払う労働者に職を斡旋するオークション状態にあること)により金額の高騰が起きていると指摘している。

参考文献
<日本語文献>

  • 指宿昭一, 2018「外国人労働者受入れ制度の新方針」『世界』(915)岩波書店:86-94.
  • 是川夕, 2020「誰が日本を目指すのか?『アジア諸国における労働力送出し圧力に関する総合的調査(第一次)』に基づく分析」国立社会保障・人口問題研究所『人口問題研究』76-3:340-374.
  • 是川夕・松下奈美子・横山重宏・南田あゆみ・加藤真・伊藤瑞萌, 2020「アジア諸国からの労働力送出し圧力に関する総合的研究(第一次)報告書」国立社会保障・人口問題研究所.
  • 是川夕・横山重宏・南田あゆみ・加藤真・栗山智帆・伊藤瑞萌, 2021「アジア諸国からの労働力送出し圧力に関する総合的研究(第二次)報告書」国立社会保障・人口問題研究所.
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 2019「外国人労働者の受入れによる労働市場への影響に関する調査研究事業報告書」.
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 2021「介護分野に係る特定技能等の受入れの実態に関する調査研究事業報告書」.
  • 宮島喬, 2019「外国人労働者のフロントドアからの受入れを」宮島喬・藤巻秀樹・石原進・鈴木江理子編『別冊 環』24, 藤原書店:54-64.
  • 労働政策研究・研修機構, 2018「諸外国における外国人材受入制度――非高度人材の位置づけ」.
  • 佐野孝治, 2017「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」日本政策金融公庫編『日本政策金融公庫論集』36:77-90.
  • 澤田晃宏, 2020『ルポ技能実習生』筑摩書房.
  • 巣内尚子, 2019『奴隷労働――ベトナム人技能実習生の実態』花伝社.

<外国語文献>

  • Abella、M. & Martin, P., 2014, ”Migration Costs of Low-skilled labor migrants : Key Findings from Pilot Surveys in Korea, Kuwait and Spain”.(英語)
  • ADBI・OECD・ILO, 2019 “BUILDING PARTNERSHIPS FOR EFFECTIVELY MANAGING LABOR MIGRATION : Lessons from Asian Countries”.(英語)
  • Dilip Ratha & Genesh Seshan 2018, “Worker-paid-recruitment-costs”.(英語)
  • 韓国国家人権委員会, 2013「農畜産業移住労働者人権状況実態調査」.(韓国語)
  • 韓国産業人力公団, 2015,「外国人労働者雇用許可制満足度調査」.(韓国語)
  • 法務部,2010「在留外国人実態調査-雇用許可制と訪問就業制外国人の就業と社会生活」.(韓国語)
  • 法務部,2013「在留外国人実態調査-雇用許可制と訪問就業制外国人の就業と社会生活」.(韓国語)
  • 法務部,2020a「2020年移民者滞留実態と雇用調査結果」.(韓国語)
  • 法務部,2020b「出入国者と滞留外国人統計」.(韓国語)
  • 労働部, 2007「外国人雇用許可制施行3周年評価と制度改善方案研究」.(韓国語)

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