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映画作品は、いじめ・不登校への共感を高めるか― 共感性を高めるプログラム開発者へのインタビュー ―

2022/05/13 増田 康介
教育
メディア

はじめに:映画作品と共感性

これまで当社では、子どものいじめ・不登校などの困難を扱う映画監督へのインタビューを行ってきました。そこではシンクタンクとして私たちが発信する政策提言レポートとは異なる、映画作品による表現に注目して、大人が子どもたちの困難に、どのように向き合うことができるかを検討してきました。

(詳しくは、前作「こうなりたいと思える子どもを描きたい」不登校と自立支援施設のリアルとドラマ」、前々作「フィクションだけど生々しい。映画がいじめと「向き合う視点」を拡げる」をご覧ください。)

そのような中で、実際に映画を使った共感性向上のプログラムを開発した有識者として、西村多久磨先生、村上達也先生にお話を伺いました。ここからは、映画作品を見ることのかかわりを通じて、いじめ・不登校といった困難に対する共感性を高めることができるかという点について、インタビュー記事形式で紹介します。

以下、本文中は西村先生、および村上先生と記載
質問者の発言の前には「MURC」と記載

―西村先生・村上先生による「共感性を高める教育プログラム」とは―
■プログラムの特徴 -共感性プロセスモデルの教育プログラムへの活用-

・葉山ほか(2008)の共感性プロセスモデルを活用して、教育プログラムを作成した。この理論を用いることにより、共感性の認知的側面から感情的側面に影響を与えることが想定されている。また、この共感性プロセスモデルは、「個人内の共感性発現のメカニズムに沿った介入が可能(西村・村上・櫻井 2015:454)」という利点から、教育プログラム開発において有用であるとされている。

■プログラム内容とそれにおける映画鑑賞の位置づけ

・共感性プロセスモデルの考え方に基づいて、プログラムは6つのセッションで構成されている。

・冒頭では共感性プロセス以外の要素として、プログラムへの動機づけや参加者間の関係づくり、ルール・マナーの共有等を目的に、講義のほか、「ひたすらジャンケン」・「なんでもバスケット」などのエクササイズが取り入れられている。中でも映画鑑賞は、「他者の視点に立ち、相手の気持ちを理解できるようにする」という「視点取得」に繋がるワークとして設定されている

映画作品を「見る」ことは、他者の視点を取得することにおいて重要な役割を持つ

―MURC: 今回インタビューをさせていただくきっかけでもあります、おふたりが中心となって開発された人々の共感性を高めるプログラムの中には、映画を扱って参加者の共感性を高めるものがありました。映画作品を活用したプログラムが持つ、共感性にもたらす役割は、どのようなところにあるのでしょうか?

―西村先生: そもそも映画を共感性プログラムに用いるようにしたきっかけには、既存のプログラムに対して、やや硬い印象を持っていたことにあります。学校現場ではワークシートを用いて、相手の気持ちになって考えた結果を書くといったことが頻繁に行われています。そのような背景の中で、映画を視聴することは、共感性の中でも頭で考えるような認知領域の1つである「視点取得」、つまり相手の立場になって考えるという共感性の一要素を高めることを目的としたワークとして、プログラム全体の中に位置づけられています。
ただ、本プログラムでは、映画を視聴することで得た登場人物への視点をしっかりと参加者間で共有できるように、働きかけをしています。また、映画以外にもフルーツバスケットで遊ぶなど、グループで行うさまざまな活動を組み合わせることで、共感性を高めるグループ・ダイナミクスを重視しています。私自身もいじめ・不登校の問題を研究する中で思うのは、どちらの問題も個人と集団との関係性やマッチングの視点が重要ではないかということです。いじめられている子どもについては、本人の変化というよりも、クラスが変わったことでいじめられ始めたといったような、本人を取り巻く環境の要因も考慮しなければならないため、個人に介入すると同時に、グループ・ダイナミクスにより、集団で問題にアプローチすることが、いじめ・不登校を防ぐことにより繋がるのではないかと思います。

映画作品がいじめ・不登校の共感性において果たす意義・留意点

―MURC: 映画は共感性に対して、他のメディアとは異なる影響があるのでしょうか?また、共感性を高める映画の特徴とは、どこにあるのでしょうか?

―村上先生: 漫画や文学作品などとは異なり、映画は映像ですので、得られる情報の質がより強いと考えています。その意味では有効ですが、強すぎるネガティブなものを見たときに、「個人的苦痛」として、共感性に繋がる視点の取得が止まってしまうことがあります。つまり、共感性を高めるためには適切なレベルでの情動に繋がる映画作品というのが、大事なのだと考えています。

―西村先生: プログラムで取り扱った映画の内容は、10分間ほどのショートストーリーで、小さい子どもが、しばらくの間離れて暮らすことになるお母さんに寂しい気持ちを伝えられずにいるのですが、髪の毛を切ってもらうときに抑えていた気持ちが溢れ出てしまうというお話です。そのほかにも候補はあったのですが、重すぎず、子どもの寂しさという共感をしやすい題材を選びました

―MURC: さきほど、「重すぎず、共感をしやすい」映画を選ばれたというお話を伺いました。では、いじめ・不登校を扱う映画は、共感性を高められるかどうか、お考えはありますでしょうか?

―村上先生: いじめ、不登校の問題は背景が異なるため、それぞれ別で考える必要もあると思いますが、例えばいじめっ子が最後にひどい目にあうような勧善懲悪のストーリーの構成があるとして、そのストーリーの中で、どの視点で共感を高めるかという部分の明示が重要なのだろうと思います。また、共感できるからこそ、相手が嫌がることをすることもできてしまいます。その意味で、本当に共感がいじめ予防に繋がるかどうかは、やはり共感させるポイントを向社会的メッセージとして、明確に教示することが重要なのだと考えています。例えば、向社会的なメッセージとして、「正義感」といった価値観を入れていくことが重要であると思います。

―西村先生: いじめを題材にした映画でも、不登校を題材にした映画でも、ただ見せるだけでは共感は高められないと思っています。見せる側としてどういうところに共感を持ってもらいたいか働きかけ、明示をする必要があると思っています。また、共感には先ほど挙げた「視点取得」という認知の部分と、同情をするといった感情の部分で、どちらがいじめ予防に重要なのかは、まだ研究蓄積の中でも分かっていない部分があります。そして、その感情の部分でも、いじめ・不登校に対して、ポジティブな感情か、ネガティブな感情か、どちらがいじめ予防に繋がるかは、今後も検討する必要があります。

映画作品に関連して、「演じる」ことにより、いじめ・不登校への共感性を高める可能性がある

―MURC: お話をいただいた中で、映画鑑賞はプログラムにおいてただ「見る」だけなく、「他者の視点に立ち、相手の気持ちを理解できるようにする」と定義される視点取得へ繋がるよう、働きかけが重要だということが分かりました。また、これまで当社では、映画監督へのインタビューを通じて、映画に参加した役者が、親・いじめる子ども、いじめられる子どもの立場から、考えが変わったり、役の中での立場に悩んだというお話を伺いました。それにより、映画を「見る」ことだけではなく、「演じる」ことにも、いじめ・不登校への共感性に繋がる鍵があるのではないかと感じていますが、いかがでしょうか?

―村上先生: 私自身もこれまでの映画監督へのインタビューを読ませていただき、大変興味深く感じました。特に、実際に役割を演じることが共感性の向上に繋がるということが、最近の研究でも明らかにされています。映像を受動的に見るよりも、役を実際に演じることで感情の揺れ動きを体感することができるため、困難に対するコミットメントが強くなります。そのため、実際に他者を排斥してみると罪悪感が芽生えて、いじめへの共感性を向上させる、ひいてはいじめを予防するといったことに繋がっていて、私自身としても実感できる部分だと思います。ただ、マネジメントがしっかりしていないと、いじめのような子どもにとって生々しい問題は、収拾がつかなくなる危険性も十分ありますので、情動レベルとしても誰でも対処できるような水準で、プログラムを設計することが重要になるかと思います。

―西村先生: 共感性のプログラムでは、認知成分と感情成分を分けてトレーニングする構成としています。ネガティブな感情に対して、いじめ・不登校といった状況についてロールプレイングをすることは、共感性に繋がると思いますが、扱っている内容が強烈な場合、共感することへの抵抗が生まれてしまい、感情の揺さぶりに繋がらなくなってしまいます。私どもが開発した共感性プログラムでも、共感を行うというロールプレイングが組み込まれていますが、やはり共感性の育成には実際に経験することが大切です。ロールプレイングでも、内容については適切な情動の強度を考えなければいけないと思います。

インタビュアーによる振り返り

いじめや不登校などの子どもの困難に対して共感をする、というのは非常に難しいですが、今回のインタビューで、映画鑑賞が他者の感情に対する視点取得に繋がるよう、適切な働きかけが必要だという示唆を得ました。適切に働きかけることで、映画を見ることによってもたらされる効果は、それ単独の価値だけでなく、いじめ・不登校への共感性を高めていく重要なステップの1つになりうると思います。

また、インタビューを通じて、身のまわりにいる子どもに問題があったとき、「共感できるか」だけでなく、共感が困難の解決に向けた「行動に繋がるか」が重要だということを、改めて感じました。インタビューにご協力いただいた西村先生・村上先生、ありがとうございました!

先生のご紹介

写真 西村 多久磨

氏名:西村 多久磨
略歴:筑波大学大学院人間総合科学研究科心理学専攻(博士後期課程)にて博士号(心理学)を取得。現在は福山市立大学、教育学部、講師。子どもの学校適応の問題、動機づけ、ソーシャルスキル、共感性等の研究に携わる。

写真 村上 達也

氏名:村上 達也
略歴:筑波大学大学院人間総合科学研究科心理学専攻(博士後期課程)にて博士号(心理学)を取得後、高知工科大学准教授を経て、現在、順天堂大学スポーツ健康科学部准教授。児童期から成人期までの向社会的行動、ソーシャルスキル、アタッチメント、共感性等の研究に携わる。

【引用・参考文献】
西村多久磨・村上達也・櫻井茂男, 2015,「共感性を高める教育的介入プログラム: 介護福祉系の専門学校生を対象とした効果検証」, 『教育心理学研究』63(4):453-466.
葉山大地・植村みゆき・萩原俊彦・大内晶子・及川千都子・鈴木高志・倉住友恵・櫻井茂男, 2008,「共感性プロセス尺度作成の試み」, 『筑波大学心理学研究』36:39-48.


西村・村上・櫻井(2015:454)によれば、葉山らの作成した共感性プロセスモデルとは、「他者感情への敏感性」、「視点取得」、「ポジティブな感情の共有」と「ポジティブな感情への好感」、「ネガティブな感情の共有」と「ネガティブな感情への好感」で構成された、共感性のプロセスの理論であるとされている。「他者感情への敏感性」とは「他者の感情に関心を持ち、敏感に察知する傾向」を指している。「視点取得」とは「他者の視点に立って物事を考える傾向」を、「ポジティブな感情の共有」とは「他者のポジティブな感情と同じ感情を持つ傾向」を指している。「ポジティブな感情への好感」とは「他者のポジティブな感情に対する他者指向的反応を持つ傾向」を指している。「ネガティブな感情の共有」とは「他者のネガティブな感情と同じ感情を持つ傾向」を指している。「ネガティブな感情への好感」とは「他者のネガティブな感情に対する他者指向的反応を持つ傾向」を指している。
前掲西村・村上・櫻井(2015:455)によれば、プログラムは共感性プロセスモデルの考え方に基づき、6つのセッションで構成されている。映画鑑賞の他にも、「他者感情への敏感性」を高めるために顔写真から感情を推測する「感情識別トレーニング」等が設定されている。「ポジティブな感情の共有」、「ポジティブな感情への好感」に繋がるメニューとしては、ポジティブな仮想場面での温かい・冷たい言葉かけ、ポジティブな場面を想定したロールプレイングやグループのリーダーによる自己開示、そして参加者同士の自己開示がある。「ネガティブな感情の共有」と「ネガティブな感情への好感」に繋がるメニューとしては、ネガティブな仮想場面での温かい・冷たい言葉かけ、ネガティブな場面を想定したロールプレイングやグループのリーダー、参加者の自己開示等が設定されている。
映画の詳細については、ぴあフィルムフェスティバル, 「382(サンパツ) 監督:久保田裕子」.
https://pff.jp/jp/collection/382.html (最終閲覧日 2022年4月18日)を参照。

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