医療・介護・福祉・教育

ステークホルダーの対話による教師のCPDの実現―学校現場重視の施策に向けて

子ども・若者支援を専門とする生田氏(奈良教育大学特任教授)と、組織開発・人材育成を専門とする中原氏(立教大学経営学部教授)による対談

2022/07/12 鈴庄 美苗、森芳 竜太、淺田 陽子
教育
変化を捉える【国・地域】

はじめに

一昨年度からシリーズで紹介してきた、国外の教師の学び直し(CPD:Continuous Professional Development)に関する政策研究レポート。本シリーズでは、アメリカ、UK(イングランド、ウェールズ、スコットランド)、オーストラリア、北欧(フィンランド、ノルウェー、デンマーク、エストニア)、韓国、シンガポール、そして国際教育学会の12地域を対象に、それぞれのCPDの特色を確認してきた。

そして昨年度は、学校の業務改善に向けて現場での支援に取り組む妹尾昌俊氏(教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表)と、教師教育および教育政策研究を行う百合田真樹人氏(独立行政法人教職員支援機構上席フェロー)をお招きし、コロナ禍の日本における教師のCPDをテーマとして、政策、現場双方の視点を踏まえた対談にご協力いただいた。

妹尾氏と百合田氏の対談からは、現場の教師一人ひとりの奮闘によって日本の教育現場が支えられていることが改めて浮き彫りになった。また、CPDの文化を構築するひとつの主体として、学校や教師が学校現場や教育のあり方を議論できる体制を整えると共に、教育に関わるステークホルダーが共通理念のもとで協働することが必要であり、そうした取り組みが、日本の強みを生かしたCPD政策の実現につながるという示唆が得られた。

一連のシリーズでは、諸外国を対象とした調査、および妹尾氏、百合田氏による対談を通じ、教育政策、教師教育の視点からCPD政策推進の手がかりを得てきた。ここから先、教師のCPDに係る議論をさらに深化させるためには、子どもに関わる他の専門職から教師のCPDの在り方を考えることや、多忙化を始めとする、教師を取り巻くさまざまな課題の具体的な解決策を探っていくことが必要だと考えられる。

そこで今回は、子ども・若者支援を研究領域とし、専門職養成にも取り組む生田周二氏(奈良教育大学特任教授)、経営学の視点から、民間企業から学校現場までを対象に組織開発・人材育成の研究を行う中原淳氏(立教大学経営学部教授)という、教師政策、教師教育とは異なるバックグラウンドを持つお二人による対談を紹介し、日本におけるCPD政策前進のヒントを考えていく。

 

写真 生田 周二(いくた しゅうじ)

◆氏名 :生田 周二(いくた しゅうじ)
◆略歴 :奈良教育大学特任教授、子ども・若者支援専門職養成研究所代表。京都大学大学院卒。奈良教育大学次世代教員養成センター等を経て、2021年より現職。子ども・若者支援に関する研究を中心に、ユースソーシャルワーカー等専門職育成にも取り組む。著書に『子ども・若者支援のパラダイムデザイン』(かもがわ出版)、『青少年育成・援助と教育―ドイツ社会教育の歴史、活動、専門性に学ぶ』(有信堂高文社)等。

写真 中原 淳(なかはら じゅん)

◆氏名 :中原 淳(なかはら じゅん)
◆略歴 :立教大学経営学部教授、文部科学省中央教育審議会臨時委員。東京大学卒。マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、民間企業から学校現場まで多様な領域における人材育成・組織開発を研究する。著書に『経営学習論 増補新装版:人材育成を科学する』(東京大学出版)、『学校が「とまった」日―ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦』(東洋館出版)等。

※五十音順。以下、本文中は敬称略。
質問者の発言の前には「MURC」と記載。

他分野から見る教師のCPD――専門能力の在り方と、その開発について

―MURC: 本日1は、With/Afterコロナの日本社会における教師のCPDの在り方についてご議論いただければと思い、生田先生、中原先生にお集まりいただきました。日本で教師が学び続けていくために、今後何が必要になるか、先生方からお話を伺えればと思います。

お二人とも本日が初対面とのことですので、まずはご研究内容等について、自己紹介をお願いできますでしょうか。

―生田: 私は現在、奈良教育大学の次世代教員養成センターに所属しています。社会教育や子どもの人権をはじめとする人権教育が主な研究テーマで、近年は子ども・若者支援の研究に力を入れています。子ども・若者支援とは、子どもの権利条約に基づき、家庭や学校とは異なる「第三の領域」から、子ども・若者の自立、個人的・社会的な成長を促す取り組みです。例えば、不登校の児童生徒のため、学校以外の居場所的空間を作る活動等を行っています。こうした取り組みの中では、学校と第三の領域が連携し、それぞれの役割を発揮していくことになるため、「学校だけで頑張ろうとしない」という視点を併せ持つことも重要です。

2013年には、子ども・若者支援に求められる専門性や研修カリキュラム等を検討するために「子ども・若者支援専門職養成研究所」を立ち上げました。子ども・若者支援には、ユースワーカー、ユースソーシャルワーカー、カウンセラーや教職経験者等から、NPO等のスタッフに至るまで、さまざまな専門職が関わります。各専門職が協働し、それぞれの専門性を発揮するうえでは、子ども・若者支援に関する共通の基盤、共通基礎的な知識や技能を形成していくことが必要です。そこで研修やガイドブックの公表等を通じて、子ども・若者支援の専門職を養成していくことにも取り組んでいます。

―MURC: 子ども・若者支援の専門職という、教師とは異なる立場の専門職について、専門性や能力開発の在り方を研究されているのですね。それでは、続いて中原先生、お願いいたします。

―中原: 私は立教大学経営学部に所属しています。専門は企業経営における組織開発と人材育成ですが、認定NPO法人カタリバの理事を務めたり、教育分野の研究者と共同研究を行ったりする等、10年ほど前から教育分野における組織開発や人材育成にも研究を広げてきました。今年度は文部科学省の中央教育審議会『「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会』2(以下、「特別部会」とする。)の臨時委員として招聘され、教師の専門性向上について提言しています。

学校現場の労働環境改善、それとセットとして見直されなければならない教師の専門性・力量向上という点では、正直に言って「どこから手を付けていいか分からない」ぐらい、多くの課題が山積しています。しかし、言い換えれば、「今この段階で手を打てば、まだ間に合うかもしれない」とも思います。今すぐに、やれることがある状況でもあり、まさに今取り組むべき喫緊の課題であると考えます。労働環境が悪化して、人手が採用できない、若手が離職してしまう。さらに労働環境が悪化して、採用力が落ちるというデフレスパイラルに陥ることだけは、止めなくてはなりません。学びが止まります。

Column①:子ども・若者支援領域に求められる専門的能力と、教師との違いについて
―生田氏の既往研究や過去のインタビューから見る―

生田周二(2021)『子ども・若者支援のパラダイムデザイン—“第三の領域”と専門性の構築に向けて—』(第8章「子ども・若者支援領域の言語化をめざして―専門性の欠損への対抗」)(かもがわ出版)や、生田周二(2020)「子ども・若者支援の新たなパラダイム ―専門性の構築に向けて―」では、子ども・若者支援を行う支援者の専門性や養成・研修のあり方が論じられている。本コラムでは簡単に専門職の条件や専門的能力について紹介したい。(詳細は生田氏の文献を参照していただきたい。)

まず、専門職の条件について、日本社会福祉士会の規定等を参照し、(1)体系的な理論、(2)教育・訓練、(3)専門職的権威、(4)倫理綱領、(5)社会的承認、(6)専門職的文化を提示している。

また同著では、こうした専門性を形づくる専門的能力の構成要素について、一般的なナレッジ、スキル、マインドだけでなく、新たにセンス(感受性:社会的ニーズを発見する等、状況の要請に対する必要な感受性)を追加してまとめている。

これらの点は、教師という専門職に照らしても違和感を覚えない部分ではないだろうか。 他方、2020年12月に実施した生田氏へのインタビュー調査では、子ども・若者支援の専門職と教師との間には、専門職能開発の前提にいくつかの違いがあるとしている。この違いとして、①統一した入職ルートがないこと、②1つの職場に配置される職員数が少なく同僚性を発揮しにくいこと、③安定的な雇用形態でないケースもあり十分な報酬を得にくいケースもあること、④歴史が浅くロールモデルを描きにくいこと等が挙げられた。

教師の専門性が教育分野だけでなく、福祉分野にも重なる形で求められる現在。教師の専門職能開発を検討する際に、こうした前提の違いを理解したうえで、子どもに関わる他の専門職の能力の規定や、能力開発を参照することも有効な手立てだろう。

―MURC: 生田先生は子ども・若者支援、中原先生は経営学と、お二人とも教師養成や学校教育とは異なる研究のバックグラウンドをお持ちということですね。そうしたお二人から見て、学校現場や教師のCPDについて、どのようなことをお感じになられているでしょうか。

―生田: 子ども・若者支援と同様に、「集合的な専門性」という視点を持つことが必要だと感じます。子ども・若者支援に携わる各専門職は、その専門職としての専門性(ナレッジ・スキル・マインド・センス3)を持っていますが、これらを個人が高めていくだけではなく、集合的・組織的に専門性を補完し合っていくことが必要です。教師についても、教師が授業等を中心とする教育指導の役割を担い、他の専門職が支援の役割を担う等、教師の専門性と他の専門職の専門性を掛け合わせていくことが求められると思います。

また、子どもの状況によって登校時間を柔軟に設定する等、子どもと学校との関わり方も多様化してきています。その多様性を受け入れる素地のある学校づくりをしていくことも必要になってくると思います。

―中原: 教師の持続可能な学びを実現するうえでは、さまざまな課題が横たわっています。人材マネジメントや組織開発・人材開発という視点で考えると、課題は大きく分けて、「①環境」「②個人」「③行政」「④学校」「⑤大学」の5つに整理することができます。

まず、「①環境」ですが、これはやはり長時間労働が大きいでしょう。横浜市教育委員会と共同研究4をした際には、「教材研究の時間が足りていない」教師が7割超に上る等、学校現場にゆとりがない状況が浮き彫りになりました。本来であれば、学びを支えるためにヒト・モノ・カネという学習資源が投下されるべきですが、それが行われないまま、学びが教師の主体性任せになっています。

ただ、学習資源があればすべての教師が学ぶかというと、そうではない。これは「②個人」の課題です。教師には、他の専門職と同様に、本来的には、自分の能力開発のオーナーシップは自分にあるという自覚をもって主体的に学ぶことも求められます。しかし長いあいだ、研修は「やらされるものだ」、しかも「研修を受けなければ免許が失効する」という価値観にさらされてきました。また、学ぶための精神的な余裕、経済的支援が不足しており、かつ、学びによるインセンティブがないため、なかなかモチベーションを維持しづらい面もあるのではないでしょうか。長時間労働が横行すれば、学ぶ意欲はいっそう減ります。

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さらに、「③行政」や「④学校」にも課題があります。「③行政」については、「教師の研修受講を管理する、しない」という議論が中心になってしまっており、教師の自主性を尊重する方向性とは言い難い状況です。また、国からのメッセージが学校長レベルまで伝わらず目詰まりが起きてしまっていることや、研修カリキュラムの内容の重複、研修転移(注:研修で学んだことを、現場で実践し、成果につなげること)が生じない内容となってしまっていること等にも目を向ける必要があるでしょう。働きながら、学びやすい環境、例えばオンライン研修を充実させ、教師が学びたい内容をオンデマンドで学べるような体制整備も求められます。

「④学校」は日々の学びの場として、最も重要です。ただ、かつては充実していた校内研修・授業研究も形骸化しています。また、教師は保護者対応や学級運営等、授業力以外の部分で悩んでいるのではないかと思いますが、それを学ぶ機会も確保できているのかどうか分かりません。そして、先ほどお話したように多忙なので、日々の省察や教師同士のコミュニケーションの時間がとれなくなっています。

また、現場での学び、教師の育成のためには、管理職によるマネジメントが必要ですが、今の管理職登用の仕組みはマネジメントの資質を測定できるものになっていません。標準化されたテストで管理職のマネジメント能力を測定することは極めて厳しい、というのが採用研究の常識です。また、各種の職場調査や従業員調査があまり行われておらず、職場環境がブラックボックス化しており、何かが起こっていても、介入できません。なかには、心理的安全性が失われている職場があると思いますが、外側からそれが見えないので、マネジメントできません。「イメージできないものは、マネージできない」のです。

最後に、「⑤大学」については、伸ばさなければならない教師の資質や能力、スキルとカリキュラムの対応を整理いただく必要もあるかと思います。実証研究が少ないのも気になります。例えば職員室に、どの程度、心理的安全性が担保されていて、どのようなピープルマネジメントが行われていれば、どのように教師の成長実感につながるのか等が、なかなか分かりません。よってデータやエビデンスをもって施策展開ができない状況です。教師の同僚性、専門性というこれまで通説とされてきたレトリックも大いに議論をいただきたいです。ですが、実際の施策展開にはより一歩議論をすすめ、解像度を高めた施策を打たなければなりません。そのための基礎データが不足しています。

新任教師にも求められる入職後の学びの機会

―MURC: CPDの障壁を解消し、さらには教師が他職種との関わりの中で、どのような役割を果たしていくかも問われているということかと思います。ここまで、それぞれお話を聞いていかがでしょうか。

―生田: 中原先生から研修の話がありました。以前、小学校の校長や大学の副学長等を務めていた時に、研修カリキュラムのプログラム策定等に携わっていましたが、教師の研修を機能させるのには苦労しました。初任者研修(以下、「初任研」とする。)について考えると、その期間はクラスを離れて研修を受けることになるため、入職間もない教師は「その時間があれば子どもたちと関わっていたい」と考えることもあります。また、目指したい学級経営の在り方があったとしても、初任研の指導教師によっては側面援助や理解をしてもらえず逆に制約を受けることもあるようです。このように、初任研ひとつとっても、教師のニーズを受け止めきれていない制度設計になっている面が否めません。こうした課題については特別部会で議論されているのでしょうか。

―中原: 初任研の課題については、特別部会ではまだ議論されていないように思います。ただ、個人的には、3月まで学生だった人が4月になるといきなり先生と呼ばれる立場になって、学びながら一人前の教師として、担任をもって働くこともあり得るという今の仕組みは、とても過酷だと感じています。例えばシステムエンジニアが、まだプログラミングを学んでいるのに、同時にコードを書いてシステムを組み上げることを求められているような状況です。他の業界だったらとても考えられません。入職1年目が非常にしんどい状況に置かれやすいと言えます。教師養成を担う大学でも既に取り組んでいるとは思いますが、解決のためには、学生のうちに十分な学びを得られるようにするしかないのではないでしょうか。ただしそれには、「教員養成系大学には、ヒト・モノ・カネが足りていない」と思います。また、現場経験を積ませるということは、現場にもそれを支えるリソースが必要だということです。これまでどおりのリソースで、今の疲弊する教員養成大学に、学生を現場に連れ出して、経験もさせて、リフレクションまで回させるのは難しいと思います。案はいいのですが、リソースが足りていません。「案はいいけど、それ誰やるの?」というお話です。

―生田: 教師養成段階にある教育実習は、その期間が短いという課題もあります。自身の所属する奈良教育大学では近隣の学校と協力して、教員養成課程にある大学生がスクールサポーターとして学校現場と定期的に関われる機会を作るようにしています。ただ、受け入れ側のキャパシティに限界があることも課題です。教師養成段階での体制整備に加え、入職後のケアの在り方の見直し、両輪での取り組みが求められると思います。

学びの機会の不在による影響――教師同士のケアの文化の喪失がもたらすものとは

―MURC: 新任教師に対しても、無理なく専門性開発ができるようにサポートする必要がうかがわれました。もし教師に学ぶための機会が十分に担保されない、あるいは機会があっても、十分に機会を活用できない状況に陥ってしまうと、どのようなことが生じ得るとお考えでしょうか。

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―中原: 学ぶことができないということは、新たなことができないということです。また変化に対応できない、ということです。そのしわ寄せは、すべて最終的には子どもに向かいます。GIGA、道徳、英語……やらなければならないことは増えているのに、リソースが足りません。学び直す時間もありません。それは、最終的には、子どもの学びの貧困さに向かいます。

また、あらゆる対人接触のある職業がそうであるように、教師が成長実感を得たり、やりがいを感じたりできないままだと、結果として子どもに伝播してしまうでしょう。苦虫をかみつぶして、苦痛のなかで仕事をする先生の先に、子どもの笑顔はないのです。だから、この問題を「先生の問題」と考えてはならないのです。この問題は「私たちの子どもの将来の問題」であり「みんなの課題」です。

おそらく、このまま状況を放置していれば、臨時採用教員は、ますます採用できなくなります。教師を目指す人も少なくなり、採用倍率は下がります。それでも枠を埋めなければならないので、「本来、まだ教壇にたつスキルや資質が揃っていない人」でも、教壇に立たせるほかはなくなります。さらには、今いる人材でさらに頑張らなければならず、管理職がマネジメントにかける時間がなくなり、いっそう現場が疲弊するという悪循環に陥りかねません。

未来への影響を考えると、ヒト・モノ・カネを投じ、教師の学びを持続可能なものにするのは喫緊の課題です。自分の能力やスキルを高める意欲、仕事ができる状態であることは自分の責任であるという感覚を、教師に伝えていかなければなりません。

―MURC: かつては学校現場で授業研究の機会があり、専門性開発のひとつの基盤となる等、教師同士がサポートし合う関係性が充実していたように思います。今は、そうした教師同士の関係性、お互いをケアし合う文化もみられなくなってきているのでしょうか。

―生田: 私の周囲で休職・退職した若手教師の実例を紹介すると、いきなり中学校3年生の担任として配置される等、学校現場に余裕のないケースが多かったです。周りの教師にも若手の教師をサポートするだけの余裕がなく、その中で若手は一人悩み、疲弊していってしまうようでした。また、初任研の指導教師に相談しても、適切な支援を受けられないケースもあるようです。こういった状況を踏まえると、学校現場が多忙化を極める中で、教師の同僚性が揺らいできているという問題は考えなければなりません。

また、以前は教師同士のサークル活動がありました。こうした自主的な活動も減ってきており、学ぶことに意欲のある教師が孤立し、学びづらい環境に置かれている状況もあります。

―中原: 昔は、遅くまで職員室に残っている先生同士が教育談義をしたり、話し合ったりする等、インフォーマルな関係性、相談の機会がありました。OJTという言葉が無くても、先輩が後輩をサポートするというのは当たり前のように行われていたことです。しかし、保護者からの要望やクレームが増したこと、教育内容が増えたり、個別対応が必要な案件が増えたことで、学校現場が忙しくなり、そうしたリソースや教員同士の関係性が失われてきています。ひとつの代替策となるメンター制度も、整備している学校とそうでない学校がありますし、離職調査が行われていないため、教師同士の関係性が失われていることがどのように影響しているかも明らかではありません。学校現場の忙しさは、教師が一生懸命仕事をしていることの表れだと思いますが、このまま教師がウェルビーイングを感じられずにいると、先ほどお話したような将来的な悪影響は計り知れないと思います。

現場重視のCPD実現に向け、求められるステークホルダー間の対話

―MURC: 教師同士がお互いをケアし合う関係性が、若手教師からベテランまで徐々に失われてきているということでした。学校現場の余裕がなくなる中、CPDの実現を現場の教師個人の主体性だけに委ねるのではなく、政策的に対応することが必須になってきているかと思います。一方、冒頭で中原先生から提起いただいたように、教師のCPDにはさまざまな課題が存在しています。まず何から取り組んでいけばよいでしょうか。

―中原: 人材開発という視点からは非常にシンプルで、目指すべき姿と現状を認識し、そのギャップをひとつひとつ埋めていくことが求められます。この「目指すべき姿」や「現状」を正しく設定できないと、具体的な取り組みの議論に至ることができません。教師の専門性開発の議論になると、専門性とは何かという議論に終始してしまいがちで、職場環境の見直しや現場での取り組みの見直しといった議論を十分に深められていないように思います。教育現場の教師の学びを語る、新たな言葉と概念が必要なのです。教師のCPDにおいて何を目指すのかを定め、そのためにどのような取り組みを進めていくのかまで、ステークホルダー同士で議論を発展させていく必要があります。

―生田: 「チーム学校」が謳われ始めてから約7年が経ちました5。学校現場では、課題について議論するためのコーディネート役は教頭になりがちで、他の業務とあわせて負荷が集中しています。これではシステムとして機能不全になってしまうでしょう。だからこそ、システムとして持続的に機能させるために必要な人材や、時間配分について考えなければなりません。

私が取り組む不登校の児童生徒の支援では、第三の領域側がイニシアティブをとり、学校管理職や担任、親とともに、子どもをどのように支援するかを考えるカンファレンスを設定する場合もあります。これを学校での研修に引きつけて考えてみると、必ずしも学校が主導する必要はなく、さまざまなマネジメントのパターンがあってもよいのだと思います。そういった意識醸成を行っていくことも必要ではないでしょうか。

―MURC: お二人から、ステークホルダーの対話の必要性をご指摘いただきました。アメリカや韓国では、専門職団体や研究機関が行政や実践家と対話しながらCPDを推進していますが、日本ではまだまだステークホルダーの関与も進んでいないように思います。今後、CPDの議論を深めていくうえで、何が求められるでしょうか。

―中原: 教師が多忙を極め、継続的に学び続けることもかなわない現在の状況は、マルチステークホルダーの問題です。行政や学校現場だけでなく、大学、教師個人等、各主体の課題が絡み合っていることを認識するのが第一歩だと思います。課題はたくさんあるものの、やるべきことは明確です。国際的にも高く評価される日本の教育を、これまで以上に良いものとしていくためにも、持続可能な働き方・学び方について本腰を入れて議論する時が来ていると思います。

―生田: 子ども・若者支援の専門職養成の中で、教師の学習指導や生徒指導を相対化することの重要性を感じています。教師の専門性をどこに焦点化するか、教師が専門性を発揮する部分以外を、誰がどのように担っていくかを議論することも欠かせないのではないでしょうか。こうした視点と、働き方改革やシステム全体の見直しを組み合わせることで、子どもたちや現場の状況にフィットする議論ができるのではないかと思います。

―MURC: 異なる研究のバックグラウンドをお持ちのお二人から、日本のCPDの進展に必要な視点をたくさんいただきました。本日は、ありがとうございました。

Column②:CPDの発展における関係機関との「対話」

妹尾氏、百合田氏の対談記事に引き続き、国外におけるCPDの発展に向けたステークホルダーの対話・協働の様子を確認していく。本コラムでは、アメリカと韓国における関係機関・団体の状況を簡単に紹介する。

(北欧、英国については、教師個人の自律性、奮闘を生かすため、協働で行うCPDへ 学校業務改善に向け現場で支援を行う妹尾氏と、教師教育の国際比較研究を行う百合田氏による対談(2022年1月31日)参照)

◆アメリカ:専門職能団体と現場実践の強力な結びつき◆

アメリカでは、教員の専門職基準(スタンダード)等、全米規模の統一基準が教員養成アクレディテーション協議会(Council for Accreditation of Educators Preparation:CAEP)や州間教員評価支援機構(Interstate Teacher Assessment and Support Consortium:InTASC)といった専門職団体主導で開発・運営されている。各州が専門職団体の主導した基準等を参考にしていることで、州間でのばらつきを解消しつつ、各州が自律的に教員に対して求める基準を作成することに寄与していると考えられる。

また、専門能力開発に関する実証研究が研究機関等において数多くなされ、その研究成果も踏まえてCPDの活動が設計される等、研究と現場実践とのつながりが強いことが特徴である。(詳細は 政策への架け橋(専門職団体、実証研究)が機能するアメリカの教育専門能力開発―諸外国の継続的専門能力開発(CPD)から見る シリーズ 第5弾(2021年8月17日)参照)

◆韓国:地方公共団体・学校現場経験者のCPD政策への関与◆

韓国では、「中央政府による政策方針提示―地方公共団体による政策運用・実行」というトップダウン型の構造を基盤としつつも、近年は地方公共団体や学校の自律性を重視する方針が示される等、地方公共団体の裁量も高まっている。教員個人のニーズに応じたオーダーメイド型研修の強化等、先進自治体における取り組みが国レベルの政府方針にボトムアップ的に反映され、それが他の自治体に波及していくケースもみられ、地方自治体・現場が政策決定に影響する様子も確認されている。

加えて、学校現場を経験した教育研究士・奨学士が教員研修プログラムの開発に携わっており、政策で示された内容を現場の実態に合わせてプログラムを調整することができている点も特徴である。 (詳細は 教職スタンダード不在の韓国。行政からの信頼に下支えされた、教員の主体性・多様性重視のCPDの在り方とは。―諸外国の継続的専門能力開発(CPD)を見るシリーズ 第6弾(2021年10月1日)参照)

インタビュアーによる振り返り

前回の妹尾氏、百合田氏の対談に引き続き、今回の生田氏、中原氏の対談からは、教師のCPDを実現することは、日本の教育を持続可能なものとするために必須であるという点が改めて浮き彫りになった。対談の中では、CPDの障壁として、教師の多忙化をはじめ、「①環境」「②個人」「③行政」「④学校」「⑤大学」という5つの課題が提示されている。課題は多く、政策レベルから個人のレベルまで様々なレイヤーでの取り組みが求められるものの、それぞれの課題は明確であり、解決のために一歩ずつ動きを進めることで、教師のCPDが実現すると期待された。また、特に政策的に課題解決に取り組む中では、単に現行のシステム・制度を見直すだけではなく、それが現場教師のモチベーション向上に資するものであるかどうかも熟慮していくことが求められる。今後、行政や学校現場、また大学や他の専門職等、ステークホルダー間の対話が促進されることが不可欠であり、対話のための場づくりに対する要請もいっそう高まるであろう。

1 対談は2021年12月20日に実施した。

2 特別部会の詳細は文部科学省ホームページを参照。(2022年7月1日最終確認)

3 生田(2021)は、専門性を構成する要素として、ナレッジ(知識)・スキル(技能)・マインド(価値観)・センス(感受性)を挙げ、著書の中で次のように定義している。

ナレッジ…「社会制度や資源、子ども・若者に関わる問題についての知識」

スキル …「課題に向かうための技能……個人・グループ・システムに働きかける」

マインド…「活動を支え、方向づける、基盤となる理念・思想・哲学」

センス …「社会的ニーズを発見する等、状況の要請に対する必要な感受性」

(出所)生田周二(2021)「子ども・若者支援のパラダイムデザイン―“第三の領域”と専門性の構築に向けて―」かもがわ出版

4 横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室 共同研究(平成29年度)「~教員の「働き方」や「意識」に関する質問紙調査の結果から~」(2022年7月1日最終確認)

※中原氏の所属は当時のもの。

5 中央教育審議会「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」(平成27年12月21日)(2022年7月1日確認)

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