部活動の地域移行は実現するのか。地域内の合意形成を図るアプローチ

2023/07/14 大和田 康一、鈴庄 美苗
スポーツ振興
文化
学校
教育

令和4年、スポーツ庁および文化庁から、学校を拠点とする部活動を、地域クラブ活動など地域を拠点とする活動へ移行する方針が示された。

本方針を踏まえて、全国各地において、積極的に地域移行を推進すべきという意見と、拙速に推進するのではなく現在の部活動の実態を踏まえ慎重に議論をすべきという意見が混在し、いまだ十分な合意形成に至っていない状況がうかがえる。

部活動の地域移行に関する混乱はなぜ起こるのか。本稿では、部活動の地域移行に関する地域内での混乱の構造を紐解き、地域内の合意形成を図るためのアプローチを紹介する。

部活動の地域移行に関する地域内の混乱はなぜ起きているのか

令和4年6月、スポーツ庁から運動部活動[1]について、文化庁[2]から文化部活動について、部活動の地域移行に関する提言(以降脚注1,2の提言をまとめて「提言」と表記する。)が発表された。

提言では、「まずは休日の部活動から段階的に地域移行していく」とされ、その達成時期は「令和7年度末」までと設定された。(なお、地域移行に関する議論は、提言が出された令和4年に突如生まれたものではない。平成31年1月の中央教育審議会答申をはじめ、教職員の負担軽減や働き方改革の潮流を受け、3年以上前から論点として明確に提起されてきたものである。)

提言に対して、さまざまな関係者が多岐にわたる論点(たとえば、地域移行のパターン、生徒の大会参加資格や卒業後のキャリア形成、指導者の確保、活動環境の地域格差等)について改善要望を提出した。(茨城県[3]や岐阜県[4]などの地方公共団体の舞台でも、地域移行や活動時間に関するガイドラインの公表に対して、不安や反対意見などが出され、混乱が生じる様子が報道されている。)

これらの改善要望を受け、政府は令和4年12月に、学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン[5](以下「総合的なガイドライン」という。)を公表した。総合的なガイドラインにおいては、提言時の「改革『集中』期間」の表現を「改革『推進』期間」に、地域移行の達成時期については「地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指す」という表現に変更された。全国各地の地域内における混乱の状況を受けて、取組の推進力をトーンダウンせざるを得なかったと言えよう。

部活動の地域移行をめぐる混乱の構造は、「部活動のステークホルダーの不安・懸念の混在」にあると考えている。【図表 1 部活動の地域移行をめぐる現場の混乱の構造図】に示すとおり、生徒・保護者、学校現場の教職員、部活動指導者、競技団体、自治体、それぞれが部活動の地域移行に関する不安・懸念を抱え、部活動の地域移行に関する論点や課題なども異なるため、地域内の合意形成が進みづらい構造がある。

図表 1 部活動の地域移行をめぐる現場の混乱の構造図
部活動の地域移行をめぐる現場の混乱の構造図

(出所)スポーツ庁ウェブサイト「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言について:スポーツ庁 (mext.go.jp)」・文化庁ウェブサイト「文化部活動の地域移行に関する検討会議提言について | 文化庁 (bunka.go.jp)」等を参照し三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

地域内の合意形成を図るアプローチ1:
長期的な視点で捉える「持続可能な部活動のあり方」のロードマップの共有

地域内の合意形成を図るアプローチとして、地域の実情を踏まえ、長期的な視点で捉える「持続可能な部活動のあり方」を見える化し、共通認識を持つことが有用である。これは、それぞれのステークホルダーの立場を超えて、わがまちの実態を長期的・客観的に捉え、共有財産としての部活動の長期的なあり方をみんなで語ることである。

【図表 2 長期的な視点で捉える「持続可能な部活動のあり方」のロードマップイメージ】に示す通り、地域の学校数、指導者数、生徒数といった、部活動を取り巻く重要な要素(「重要指標」)を捉え、その長期的な推移を見通すことで、部活動の活動環境の長期的な環境変化も浮かび上がってくる。それにより各部活動における危ぶまれる状況を予見し、危ぶまれる状況を克服するための対策や方法をイメージすることができる。まさにこの、危ぶまれる状況を克服するための対策や方法こそ、地域内において部活動の地域移行に求められるものである。そして、各部活動において、将来のどのタイミングまでにどのような状況を整えていく(現状の延長線では不足していく人材・活動環境等を地域で受け止める)必要があるのか、も見える化できることになる。

図表 2 長期的な視点で捉える「持続可能な部活動のあり方」のロードマップイメージ
長期的な視点で捉える「持続可能な部活動のあり方」のロードマップイメージ

(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

地域内の合意形成を図るアプローチ2:
立場を超えた対話手法のすすめ~危ぶまれる状況の克服に向けて

それぞれのステークホルダーの立場を超えて、わがまちの実態を長期的・客観的に捉え、共有財産としての部活動の長期的なあり方をみんなで語り、現状の延長線では不足していく人材・活動環境等を地域で受け止めるための対策や方法を立てていくためには、立場を超えた対話手法が求められる。

そこで、(1)対立のある場面での対話の工夫や、(2)学校統廃合の協議事例について紹介したい。

(1)対話のある場面での対話の工夫を

組織内の議論においては、往々にして、「プロブレム・トーク(問題の指摘)」に陥りがちだが、「AI(Appreciative Inquiry[6])」が有効と言われており[7]、部活動の地域移行を巡る地域内の語りにおいても、AIを主軸にした対話を薦めたい。また、対立のあるシーンであっても、「どちらかの立場が正しい」ということを決めることにアプローチするのではなく、「相反する意味の領域同士を接近させるには、どうしたらよいか」を検討することが重要で、有効な実践例の一つとして、パブリック・カンバセーション・プロジェクト(The Public Conversation Project)が有効であることも指摘されている[8]。

(2)学校統廃合の協議事例からの示唆

部活動の地域移行を巡る議論と近しい事例として、学校統廃合の競技事例が挙げられる。平成23年頃から各地域で協議が進む学校統廃合について、ある事例では論点を明確にする(「統廃合=過疎化に拍車をかける」という議論ではなく、あくまで教育環境の整備に論点を絞る)ことの重要性が示されている[9]。部活動の地域移行に関する議論においても、おそらく多くの地域で取り上げられるであろう、部活動の拠点校方式や合同部活動化などを検討するにあたって、大いに参考となる視点ではないだろうか。

部活動の地域移行の実現にむけて

部活動の地域移行は目的でない。部活動の地域移行は、地域の貴重な財産・資源である部活動を持続的なものとして活用していくための手段である。そして、部活動を通じて、地域の実情をより詳細に捉え、地域の長期的なあり方を共有し、わがまちの営みを再考するための貴重な機会でもある。

全国各地のそれぞれの地域において、「わがまちの誇る部活動の将来」が大いに語られることを期待し、そしてそのための効果的で実践的なサポートに努めていきたい。


[1] スポーツ庁ウェブサイト 運動部活動の地域移行に関する検討会議提言について:スポーツ庁 (mext.go.jp)(2023年4月25日最終確認)
[2] 文化庁ウェブサイト 文化部活動の地域移行に関する検討会議提言について | 文化庁 (bunka.go.jp)(2023年4月25日最終確認)
[3] 朝日新聞デジタル(2023年3月11日 10時45分)「茨城公立高の部活時間「上限」設定 新3年生の引退まで延期へ」 茨城県地域クラブ活動ガイドライン(いずれも2023年4月25日最終確認)
[4] 岐阜新聞Web(2023年1月12日 11:30)「どうなる?部活動の地域移行 実行性は?課題山積、解決策は? 岐阜の関係者の本音に迫る岐阜県中学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(いずれも2023年4月25日最終確認)
[5] スポーツ庁ウェブサイト学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドラインについて:スポーツ庁 (mext.go.jp)  (2023年4月25日最終確認)
[6] 「肯定的な問い」の意。問題を抱える箇所ではなく、組織にとって重要となる「強み」と「リソース」に焦点化した対話手法を指す。
[7] ガーゲン,ケネス・J./ガーゲン,メアリー(著)/伊藤 守(監訳)/二宮 美樹(翻訳統括)(2018)『現実はいつも対話から生まれる―社会構成主義入門』
[8] 上掲7
[9] 文部科学省ウェブサイト小・中学校の設置・運営に関する事例研究 (mext.go.jp) (2023年4月25日最終確認)

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