第3期基本計画に基づく地域スポーツ振興の展望

2022/08/01 大垣 俊朗、大和田 康一
地方創生
スポーツ
自治体経営
自治体

東京オリンピック・パラリンピック大会が終了し、スポーツの推進・振興は次のフェーズに移行する。国の新たなスポーツ基本計画策定にともない、今後地方公共団体においても新たな視点を反映した取組が進むことになる。地方公共団体における地域スポーツ振興の展望及び新たな論点について整理する。

第3期スポーツ基本計画の概要

令和4年3月に国の第3期スポーツ基本計画が策定され、令和8年度までの5年間のスポーツ政策の方向性が示された。第2期計画では「する」「みる」「ささえる」の3つの視点を中心に、スポーツ実施率の向上、共生社会形成、経済・地域活性化などが推進されてきたが、第3期計画では、オリンピック・パラリンピックのレガシーの発展に加え、新たな3つの視点として①スポーツを「つくる/はぐくむ」、②「あつまり」、スポーツを「ともに」行い、「つながり」を感じる、③スポーツに「誰もがアクセス」できる、ことについて方針が示された。

図 第3期スポーツ基本計画の概要

出典)スポーツ庁「第3期スポーツ基本計画の概要(詳細版)

地方公共団体におけるスポーツ推進計画の改定

地方公共団体においては、国の計画を踏まえた「地方スポーツ推進計画」の策定が努力義務となっており、都道府県の91%、すべての指定都市(20団体)、指定都市以外の市区町村の87%が策定(平成30年時点)している。今後、各地方公共団体において、社会情勢や第3期スポーツ基本計画の新たな視点を踏まえ、計画の策定・実行がさらに推進されることが見込まれる。

しかしながら、これまで国の第2期基本計画を踏まえた計画の策定・改定に至らなかった地方公共団体も少なくない。そこで、今後地方公共団体が計画を策定する際に、第3期計画の3つの新たな視点や、地域スポーツ振興の潮流を反映するためのトピックスをいくつか紹介したい。

スポーツを「つくる」を通じた「共生社会の実現」

スポーツを「つくる」ことに際して、新たに共生社会を形成する視点を組み込み、社会情勢・地域の実情に応じた新たな枠組みの構築が必要となる。例えば、障害者のスポーツ参画においては、これまで既存スポーツの実施・普及が主眼となっていたため、施設整備や指導員養成などの障壁があり、十分な進展が見られないことも多かった。

そこで、スポーツを「つくる」を通じた「共生社会の実現」の取組方策として、多様な主体の参加、自立性・自律性などを生かし、新たなスポーツ(アダプテッド・スポーツ)を「つくる」ワークショップを運営するなど、地域・企業・学校などで「ともに」「あつまる」学習・体験の場として提供する施策などが考えられる。スポーツ弱者に配慮した「ゆるスポ」や、最新技術を活用した「超人スポーツ」など、スポーツを通じて交流やコミュニティへの愛着を生み出すクリエイティブな活動が既に展開されている。

eスポーツを活用した地方創生等

基本計画では、VR/ARなどの「デジタル技術を活用した新たなスポーツ実施機会」や観戦機会の創出を通じて、「する」「みる」を推進する方針となっている。関連して、昨今、デジタル技術・DXを利用したeスポーツ大会の開催、eスポーツチームの設置・運営、eスポーツ施設の整備等が行われ、eスポーツを活用して、スポーツツーリズム・教育・健康福祉などの分野と連動させて地方創生に繋げる取組も出てきている

例えば横須賀市では、NTT東日本・NTT e-Sportsと連携協定を締結し、eスポーツ大会の開催、プロチームの招聘にとどまらず、次世代ICT教育施設の整備にまで乗り出している。また川崎市では、障害者向けのeスポーツ体験講座を提供するなど、健康・福祉分野にも活用されている。徳島県では、徳島県eスポーツ協会主導で、ICT×アニメ文化の振興の経験を基礎に、高専などと連携した交流創出などの地域活性化を発信している。

部活動の地域への移行

文部科学省は、学校の働き方改革の一環として、令和5年度以降、休日を中心に中学校部活動を段階的に地域に移行する方針を打ち出した。具体的な推進の方向性として、スポーツ庁は、令和4年6月に運動部活動の地域移行に関する提言を取りまとめた。提言では、令和5年~7年度を「改革集中期間」に位置づけ、休日の部活動の管理・監督を地域または民間のスポーツ団体等に移管することを提言している。

各地域の実情を見ると、谷田部東中学校(茨城県つくば市)では、市民団体を運営主体とする協議会を設立し、全国に先がけて地域移行を推進しているほか、直近では岐阜県や静岡市など多くの自治体で説明会の開催や委員会組成の検討がみられ、提言を受けた動きが加速している。

一方、活動参加費等の徴収に伴う家庭の経済的負担の上昇が懸念されるほか、受け皿となる地域団体も多様に想定され、地域によって担い手・体制の確保、活動場所の確保、学校との調整などの重要論点がそれぞれに存在する。さらに、学校部活動はこれまで学校教育の範疇であり、スポーツ行政が積極的なかじ取りを行いにくい状況も見られる。地域が受け皿となって青少年の多様なスポーツ活動を支えていくためには、地域において民間も含めた多様な関係者を巻き込んだ合意形成・検討がなされるとともに、地域のスポーツ活動を支える人材や組織の育成、新たな仕組みに応じたスポーツ環境の再編・充実などが求められる。

<スポーツ戦略室のご紹介>

地域スポーツ振興に関して多面的なご支援をさせていただくべく、当社では2022年6月に事業開拓組織「スポーツ戦略室」を開設いたしました。スポーツ推進政策の動向や先進事例を把握し、スポーツ政策やビジネス展開に関する最先端のナレッジを蓄積することで、国・地方公共団体のスポーツ推進・振興計画の策定支援や、スポーツ施設の整備・運営の事業化支援など、スポーツの多面的なアプローチにより調査研究・コンサルティングや政策提言を行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

ご相談は以下のメールアドレスより受け付けています。
スポーツ戦略室問い合わせ先:sports_sc@murc.jp


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