はじめに

当社が実施した「令和6年度自治体経営改革に関する実態調査報告［¹］」（以下、「実態調査」とする）では、85.1％の団体が自団体が策定した総合計画の概要版等［²］を作成していることが明らかになった。総合計画は、自治体がめざす姿を描くものであり、その実現には、住民等の理解と協力が不可欠であることから、住民等の総合計画に関する理解を広げていくことが必要である。しかし、一般的に多く見られる基本構想および基本計画で構成される総合計画のケースでは、その内容を抜け・漏れなく網羅的に記載した本編が200ページ以上の冊子となることも珍しくない。そのため、住民等が本編を通読するにはハードルが高く、本編のみでは住民等への浸透という目的を達することが難しい。こうした認識から、多くの自治体が概要版等を作成していると考えられる。

本稿では、これから概要版等の作成を控えている自治体への情報提供を目的に、令和7年1月に当社が独自に実施した実態調査の結果を再集計した。総合計画に沿ってまちのめざす姿を住民等とともに実現していくために、各自治体がどのような種類の概要版等を作成し、どのような工夫を凝らしているのか。また、作成した概要版等をどのように活用しているのかについて分析を行った。

総合計画の概要版等のトレンド

① どのような種類の概要版等が作成されているか

まず、自治体において、どのような種類の概要版等が作成されているのか、その傾向を分析した。

図表 1は団体種別ごとの各種概要版等作成団体の割合を示したものである。概要版等は、想定読者を限定せずに住民全体に向けて作成した「全年齢版」のほか、子どもを想定読者とした「子ども版」、外国人等を想定読者とした「多言語版」や「やさしい日本語版」、視覚等に障害がある方も読めるように配慮したものなど、工夫を凝らしたバージョン等を作成している自治体が存在する。特に、「子ども版」（9.7％, 35団体）と「多言語版」（6.1％, 22団体）を作成している自治体が比較的多い。

また、政令指定都市において「多言語版」や「やさしい日本語版」などの外国人等を想定したバージョンや、「視覚等の障害者向け版」を作成している割合が高い。一方で、「子ども版」は、特別区を除いて団体種別による作成割合の差は小さい。

図表 1　総合計画の概要版等の種類（複数回答）

（出所）当社作成

② どのような工夫が凝らされているか

次に、全年齢版以外の概要版等のうち、作成する自治体が比較的多い子ども版と多言語版について、どのような工夫を凝らしている自治体が多いか分析を行った。
図表 2は、「全年齢版のみを作成している団体」「子ども版を作成している団体」「多言語版を作成している団体」（重複あり）について、概要版等における各表現上の工夫が行われている割合を示している。

図表 2　総合計画の概要版等の形式（複数回答）

※ 「子ども版」と「多言語版」の両方を作成している団体（3団体）が存在するため、「子ども版作成」と「多言語版作成」の間には重複が存在する。また、子ども版を作成しているすべての団体、および多言語版を作成している団体のうち18団体は、全年齢版を作成している。

（出所）当社作成

A) 子ども版作成団体
「子ども版」を作成している自治体では、42.9％（15団体）が図やグラフを使用し、51.4％（18団体）が雑誌やパンフレット風に文字、写真、イラスト、図を組み合わせて活用しており、割合はそれぞれ約半数に達している。また、マンガ風の形式を採用している自治体は14.3％（5団体）、絵本風の形式を採用している自治体は8.6％（3団体）であり、いずれの割合も全年齢版より高い。加えて、教材となるように書き込みスペースを設けている自治体も14.3％（5団体）存在する。

B) 多言語版作成団体
「多言語版」を作成している自治体は、27.3％（6団体）が図やグラフを活用し、63.6％（14団体）が雑誌・パンフレット風に文字、写真、イラスト、図の組合せを活用している。いずれも全年齢版のみ作成している自治体における割合よりも高く、特に雑誌・パンフレット風の表現がよく用いられる傾向にある。

③ 作成した概要版等をどのように活用しているか

概要版等は、住民等の総合計画の内容理解を促進することを目的に作成されるものである。そのため、「どのような概要版等を作るか」だけでなく、「概要版等をどのように活用して理解を広めるか」という観点も重要である。そこで、どのように活用しているかについても分析を行った。

自治体による資料の公表と聞いてまず想定されるのは、自治体のホームページ（以下、HP）上での公表であろう。そこで、全年齢版と想定読者を設定したバージョンの別に、HP上での公表のみを行っている自治体と、それ以外の活用方法も行っている自治体の割合を分析した。

図表3は、HP上で公表する以外の概要版等の活用を行っている団体の割合を示している。全年齢版のみを作成している自治体のうち、「HP上での電子データの公表」以外の活用をしている自治体は80.1％（233団体）であった。一方で、想定読者を設定したバージョンを作成している自治体での同割合は92.1％（58団体）であり、12ポイント高い。このことから、想定読者を設定した場合には、それに合わせた活用が行われる傾向にあることが伺える。

図表 3　HP上での公表以外の概要版等の活用を行っている団体の割合

（出所）当社作成

次に、「全年齢版のみを作成している団体」「子ども版を作成している団体」「多言語版を作成している団体」（重複あり）の別に、具体的にどのような活用方法を採用しているか、傾向を分析した。

図表 4は、作成している概要版等の種類別に、概要版等の活用方法を示している。「子ども版」を作成している自治体の65.7％（23団体）が自治体内公立学校への配布を行い、60.0％（21団体）が自治体内公立学校の授業などで活用している。自治体内の公立学校への配布または授業等での活用のうち、少なくとも一方の取り組みを行っている自治体は85.7％（30団体）に上り、概要版等の作成が活用と結びついている自治体が多いことがわかる。

一方、「多言語版」を作成している自治体は、68.2％（15団体）が冊子の無料配布を行っており、その割合は「全年齢版」のみを作成している自治体よりも22.8ポイント、「子ども版」を作成している団体よりも28.2ポイント高い。

図表 4　概要版等の活用方法（複数回答）

※ 「子ども版」と「多言語版」の両方を作成している団体（3団体）が存在するため、「子ども版作成」と「多言語版作成」の間には重複が存在する。また、子ども版を作成しているすべての団体、および多言語版を作成している団体のうち18団体は、全年齢版を作成している。

（出所）当社作成

まちのめざす姿を伝える工夫と活用法

実態調査の結果の分析を通して、概要版等の作成に当たっては、本編から要点を抜粋することで情報量を減らす工夫にとどまらず、想定読者の設定や読者に合わせた概要版等の構成・デザインの工夫、周知方法の工夫など、自治体によって多様な工夫が行われていることが明らかとなった。

以下では、実態調査で得られた概要版等の工夫の傾向を振り返りつつ、住民等の理解促進のためのさらなる取り組みの方向性について検討する。

① 多くの自治体において、住民等に内容を浸透させるためのさまざまな取り組みが進められている

回答団体の約85％が概要版等を作成し、多くの団体が構成やデザイン、使用する言葉などの工夫を行っていることがわかった。また周知方法についても、想定読者を設定したバージョンで9割以上、想定読者を設定しない「全年齢向け」概要版等でも約8割の自治体が、「HP上での電子データの公表」以外の活用の取り組みを行っており、多くの自治体において、概要版等を住民等に周知するための工夫が進められていた（図表 3）。

総合計画の「HP上での電子データの公表」は、多くの住民等がアクセス可能で、かつ自治体の負担が少ない周知方法である。しかし、自治体HPへの掲載は住民等の自発的なアクセスを前提とした公表手段であるために、情報のリーチ先が元から行政情報に関心のある住民等に限定され、広く住民等に浸透させることは難しい。こうした問題意識から、各自治体がHP上での公表以外の周知方法も採用していると考えられる。概要版等の作成目的に照らし、住民等に総合計画の内容が浸透するよう、自治体の状況に応じた作成・周知の工夫を引き続き進めることが重要である。

② 子ども版では、書き込み形式の採用や授業での活用等が行われている。

想定読者を設定しているもののうち、特に「子ども版」では積極的な工夫が多く見られた。デザインの工夫ではイラストや図を組み合わせて作成している自治体が半数に上るほか、マンガ風や絵本調、書き込み式などの工夫を行う自治体も一定程度見受けられ、工夫の種類も多岐にわたっている。またその活用方法として、自治体内公立学校への配布や学校の授業等での活用を行っている自治体は約6割と他の概要版等と比べて高い割合であった（図表 4）。

このことから、「子ども版」では、想定読者が概要版等を手に取り、理解を深めることを促すための取り組みが積極的に行われており、他の概要版等に比べて実際に活用されていると言える。

例えば、大阪府泉南市では書き込み式の子ども版を利用して、同市に関する知識や関心の醸成を目的に、市内小学校における出前授業を実施している（図表 5、図表 6）。

このように、概要版等に住民等がアクセスできる状態になるだけでなく、その内容を深く理解してもらうために、「子ども版」での取り組みのような、概要版等の活用に向けた検討を進めることが次の一手であると言えよう。

図表 5　第6次泉南市総合計画（子ども版）

（出所）泉南市「第6次泉南市総合計画（子ども版）」
https://www.city.sennan.lg.jp/material/files/group/4/kodomobannhmihiraki.pdf（2025年7月16日最終閲覧）

図表 6　小学校での出前授業の様子（泉南市HPより抜粋）

（出所）泉南市HP
https://www.city.sennan.lg.jp/kakuka/gyouseikeiei/seisakusuishin/seisaku/seisakukeikaku/sogokeikaku/1455072819355.html（2025年7月16日最終閲覧）

③ 自治体の進むべき方向

これまで見てきたように、総合計画の概要版等は8割以上の自治体で作成されているほか、想定読者の設定やデザイン、配布方法、活用方法など多岐にわたる工夫が行われている。一方で、概要版等が総合計画に対する住民等の理解促進・関心の醸成を目的としていることを踏まえると、概要版等を住民等が読み、その内容を十分に理解している状態をめざす必要がある。

実態調査の分析から見えてきたのは、概要版等作成の目的を実現するために自治体が次に取り組むべき一歩は、住民等が概要版等を活用するための取り組みを行うことである。こうした取り組みを進めていくには、関係者の労力や費用がかかるものであるから、当該取り組みによる総合計画の認知度・理解度の向上に対する効果を定期的に測定し、改善を行うというPDCAサイクルを回していくことも重要である。例えば小田原市は、総合計画に関する市民意識調査において総合計画の認知度や市の情報収集手段について調査を行い、総合計画等に関する市民の認知状況の把握に取り組んでおり、PDCAサイクルのC（Check）を行っていると評価できる。（図表 7）

図表 7　総合計画や2030ロードマップの認知度
（第6次小田原市総合計画市民意識調査報告書＜概要版＞）

（出所）「第6次小田原市総合計画市民意識調査報告書＜概要版＞」
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/global-image/units/513639/1-20211209214154.pdf（2025年7月25日最終閲覧）

実態調査および本稿が、これから概要版等の作成を考えている自治体の参考となれば幸いである。

［ 1 ］「令和6年度自治体経営改革に関する実態調査報告」（https://www.murc.jp/library/report/seiken_250903/）
［ 2 ］当該調査では、「概要版等」を総合計画の内容を簡略的に記載した資料と定義している。総合計画の内容を抜け・漏れなく網羅的に記載した本編とは別に作成される資料を指し、「概要版」や「ガイドブック」、「読本」等、その名称は問わない。

地方自治体における総合計画の概要版等のトレンドまちのめざす姿を伝える工夫と活用法

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