○イラク戦争と悪性肺炎「重症急性呼吸器症候群」（ＳＡＲＳ＝サーズ）流行による海外旅行キャンセルの増加が懸念されている。本稿では、イラク戦争・ＳＡＲＳ流行を背景とした海外旅行のキャンセル増加が、旅行取扱額、個人消費などに与える影響を定量的に試算した。

○湾岸戦争（91年1月）や米国同時多発テロ事件（2001年9月）発生後の日本人出国者数は、3ヶ月間程度大幅な減少を続けていた。また米国テロ事件後の各国への訪問者数をみると、テロ発生後に米国を訪問した日本人の数は、他地域に比べ減少幅が大きかった。ＳＡＲＳの流行地域が香港・中国広東省であることなどを考慮すると、ＳＡＲＳの流行は、香港・中国地域の日本人訪問者数を集中的に減少させると考えられる。

○イラク戦争・ＳＡＲＳ流行による海外旅行キャンセルの影響が2003年3～7月に発生するとし、香港・中国の日本人訪問者数の減少率（前年同月比）が、米国テロ事件後の米国訪問者数と同程度、また香港・中国以外の地域への日本人訪問者数は、湾岸戦争後の日本人出国者数と同程度の減少率で推移すると想定した場合、日本人出国者の総数は2002年比121万人減少する結果となる。

○想定される日本人出国者数をもとに、旅行業者の旅行取扱額（海外旅行）を試算すると、約1,700億円（対2002年比7.7％）減少する結果となった。個人消費は約3,500億円減少するが、同時にＧＤＰの控除項目であるサービス貿易の支払が約2,800億円減少するので、ＧＤＰは約730億円（対2002年ＧＤＰ比0.01％）の減少に留まる結果となった。

○とはいえ、旅行業界にとってイラク戦争・ＳＡＲＳ流行による海外旅行のキャンセル増加の影響は大きく、訪日する外国人数の減少も考慮すると、旅行業界の収益環境の変化は避けがたい。さらに本稿での試算結果は、海外旅行への影響のみを対象にしたものであり、ＳＡＲＳによる中国・東南アジア地域の経済成長率の低下などは考慮していない。したがって、日本経済全体への影響が必ずしも軽微であるとは言い切れず、イラク戦争・ＳＡＲＳ流行の動向は今後も注視する必要がある。

イラク戦争・ＳＡＲＳ流行の経済効

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