ベトナムは1990年代初めから半ばにかけて外国からの直接投資（ＦＤＩ）ブームに沸いたが、その後、ブームの反動もあり、アジア通貨危機後の1998年にはＦＤＩ認可額・件数とも前年を下回った。しかし、2001年以降、ベトナムへのＦＤＩ認可件数は再び大幅に増加しており、足元では、1990年代半ばのピークを大きく上回る水準に達している。ただし、ＦＤＩ認可額は依然として低水準にとどまっており、最近のＦＤＩは小型投資が中心になっていることがうかがえる。この傾向は、日本からベトナムへのＦＤＩにもあてはまる。
最近、ベトナムへのＦＤＩ件数が増加している背景として、まず、ベトナム自体の投資環境が改善していることがあげられる。日本や国際機関のＯＤＡによる電力・輸送インフラの改善や、米越通商協定発効（米国の対ベトナム輸入関税が大幅に低下）に伴う対米輸出生産基地としての魅力の向上などである。
一方、周辺ＡＳＥＡＮ諸国の投資環境の変化や、投資が中国に集中しすぎたことに対して日本企業の間で懸念が生じたことも、企業の目をベトナムに向けさせる背景となっている。タイ、マレーシアでの人件費の上昇や、インドネシアの政情不安は、低賃金で政治情勢が安定した投資先として、改めてベトナムが注目される原因となっている。また、中国の景気が過熱の様相を呈するなか、リスク分散という意味でベトナム投資に目が向くようになっている面も見られる。
もちろん、ベトナムにも、周辺諸国に比べて裾野産業が未発達であり、法制度整備が遅れているといった問題はある。また、こうした問題の改善には時間を要することも事実である。したがって、ベトナムへの投資が今以上に加速し投資ブームが起こるとは考えにくい。しかし、低賃金で政治社会情勢が安定したベトナムは、日本企業にとって、先行組のＡＳＥＡＮ諸国や巨大な中国、そしてインドへの投資を補完する「もうひとつ」の投資先として、有望な選択肢のひとつであるといえよう。

「もうひとつ」の投資先として注目されるベトナム

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