FRBの金融政策正常化と米国の個人消費~ 金融環境の変化が個人消費の減速圧力に ~

2014/12/10 土田 陽介
調査レポート

○米連邦準備制度理事会(FRB)は2015年中頃にも金融危機後初となる利上げを行い、肥大化したバランスシートの縮小に着手する見通しである(金融政策の正常化)。本レポートは、個人消費の周辺環境の現状を整理することを通じて、FRBの金融政策正常化に伴う金融環境の変化が景気に与える影響を展望する。

○雇用・所得情勢に注目すると、雇用が改善する一方で賃金上昇が滞っている。背景には、非正規雇用化が進み、低賃金産業に従事する人々が増えたことがある。こうした環境の下で所得格差も拡大しており、消費のすそ野を担う中・低所得者層の所得環境が厳しさを増している。足元、労働需給の改善を受けて賃金上昇テンポは加速しつつあるが、労働市場の構造変化を考慮すれば、その程度は金融危機前よりも鈍くなろう。

○家計部門の負債の状況をみると、所得環境が厳しいなかで、家計は教育ローンと自動車ローンを中心に消費者信用への依存を強めている。前者の場合、授業料の上昇が顕著であるなかで、家計の負担はかつてよりも重くなっている。後者の場合、サブプライム層に対する貸し付けも増えており、信用リスクの高まりが警戒される。政策正常化により家計の債務負担は増えるため、個人消費への下押し圧力も強まるだろう。

○資産の状況をみると、価格調整圧力が常に付きまとっている。株価は割高感を強めており、政策正常化を受けて投資家が利益確定売りを進める可能性が存在する。住宅価格は人口動態上の動きもあってかつてのようなハイペースでの上昇が見込み難く、政策正常化を受けて金利が上昇すれば価格下落圧力も強まるだろう。調整が深刻化すれば、その分だけ個人消費へのブレーキもきつくなるだろう。

○以上の検討から明らかなように、所得の伸びが過去よりも低めに留まるとみられるなか、FRBの金融政策正常化に伴う市場環境の変化は、負債・資産の両面から個人消費に下押し圧力をかける公算が大きい。金利が急騰したり、株の調整が深刻化したりすれば、個人消費の失速を通じて米国景気が下振れする可能性が高い。そうなった場合、グローバルな経済・金融調整が発生する恐れがあることにも注意を要しよう。

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