○2017年4月に予定していた消費税10%への引き上げを2019年10月まで2年半延期する政府の方針が正式に公表された。この決定は、日本経済にさまざまな影響を与えるが、特に金融市場では、格付会社が日本国債を格下げし、日本国債の信用度がさらに悪化することが懸念されている。
○日本国債はこれまで段階的に格下げされ、足元においてはA格レベルとなっている。さらに格下げされた場合、BBB格レベルも視野に入ってくる。BBB格レベルは、G7各国と比較した場合、欧州債務危機時に金融市場の混乱の影響を大きく受けたイタリアと同格のレベルである。G7メンバーであるイタリアにおける欧州債務危機発生時を参考にすると、日本国債がBBB格レベルまで格下げされ、日本の危機的財政状況が顕在化した場合、「長期金利上昇幅3%、企業の資金調達コスト上昇幅6%」がメルクマールになる。
○日本の金融機関にとって、一番影響が大きいのは、保有円債の価格下落であろう。金利上昇幅が3%の場合、金融機関全体で保有円債の時価が19.3兆円下落するが、業態別にみると、大手行は6.2兆円の下落であるのに対し、地域銀行は7.6兆円の下落と推定され、地域銀行の方が影響は大きい。しかし、自己資本対比の保有円債時価下落額は、大手行、地域銀行ともに自己資本を大幅に毀損するレベルである。仮に金利が3%上昇しても、各行、最低所要自己資本比率基準は達成すると見込まれるが、看過できない問題であろう。
○日本国債は、日本国内のみならず、欧州においてクロスカレンシー・レポ(担保証券と異なる通貨建てのレポ取引)での活用が拡大している。日本国債は現在、国際的に見て安全性の高い優良資産の一つとみなされており、海外の金融機関も担保として受け入れている。しかし、こうしたレポ取引では本来、高い担保性を有すると評価されるのは、「ダブルA」格以上の格付けであり、今後さらなる格下げが相次いだ場合、海外において追加担保を請求されたり、担保としての受け入れを拒否されたりする事態が起きる可能性は否定できない。
○日本企業・金融機関の外貨の資金調達にも影響を及ぼすと思われる。日本企業の外貨資金調達額60兆円の34%は外銀に依存しており、外銀の動向に大きく影響される。また、邦銀は外銀より約21兆円調達している。日本国債の格付け引き下げにより金融市場が混乱し、市場金利が上昇すると、日本企業・金融機関の資金調達コストが3.4兆円も上昇する可能性がある。
○また、急激な上昇の場合、調達コスト上昇よりは、むしろクレジット・クランチに繋がるリスクのほうが大きいであろう。実際、リーマンショック時においては、優良企業と言えど直接金融市場から資金調達が難しくなり、民間銀行のみでは対応困難となったため、政府が各種の支援を実施し乗り切っている。
○イタリアにおいて、長期金利や資金調達コストが急騰したのは、格付けがまだA格を維持している時期である。つまり、財政状況の改善が見込みにくい状況下で、外的ショック(イタリアの場合、ギリシャ問題発生)があった場合、金利や調達コストの急上昇が発生しやすいことを示唆している。日本についてもA格を維持していても金融市場で混乱が発生する可能性はある。
○以上のように、国債格下げで金融市場が混乱した場合、日本企業や金融機関についても悪影響は甚大である。日本政府の2020年のプライマリーバランス黒字化に向けた政策の実行力が今後問われよう。
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