ブラジル経済の現状と今後の展望~大統領弾劾・罷免による左翼政権退陣で転機を迎えたブラジル経済~

2017/03/28 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○ブラジルでは、2003年以降、左翼の労働者党(PT)が政権を握ってきた。ルーラ大統領(2003年就任)の後継者であるルーセフ大統領は、2011年の就任当初は高い支持率を得ていたが、大統領選挙での不正資金流用疑惑などから議会の弾劾請求を受けてしまった。2016年8月に、弾劾法廷において、ブラジル史上初めて大統領弾劾が可決され、ルーセフ大統領は罷免された。後任の大統領には、中道政党であるブラジル民主運動党(PMDB)出身のテメル副大統領が昇格し、これにより、2003年以来、13年続いたPTによる左翼政権が終焉した。

○ブラジル経済は、2000年代半ばには好調だったが、2010年代になると減速し、2014年はほぼゼロ成長、2015年と2016年にはマイナス成長に陥った。ブラジルの景気後退が深刻化したのは、2015年初頭であるが、そのきっかけは、中銀による急速な利上げの開始であった。政府が財政状態悪化を背景に公共料金を引き上げた影響でインフレが加速し、これに対応するため、中銀が金利を引上げた。

○政府の財政悪化の背景には、PT政権下で実施されたバラマキがあったと指摘されている。例えば、低所得世帯向けの給付金の拡大や、リーマンショック後に打ち出された工業製品税の引下げ等である。PT政権は、バラマキを拡大し景気拡大や人気取りを図る一方で、歳出削減、公共料金値上げ、税制改革といった財政見直しを行わず、財政赤字が拡大する原因をつくってしまったと言える。つまり、PT政権時代のバラマキによって需要が先食いされてしまい、他方、バラマキの後遺症で財政赤字が深刻化し、それがインフレ圧力増大と利上げを招き、足元で景気後退に陥っている。これが、現在のブラジル経済不振の基本的構図であると言える。

○ブラジルの株価と為替は、2015年以降、政治・経済の先行き不透明感などから下落が加速したが、2015年末の大統領弾劾審議入り決定が転換点となり、経済好転に対する市場の期待感の高まりから、回復に転じた。

○ブラジルの輸出は、主力輸出品である鉄鉱石等の一次産品の価格が下落した影響で減少していたが、2016年には資源価格に底入れの兆しが見られ、今後の回復が期待できる状況となった。輸出増加に伴う貿易収支改善により、経常赤字も縮小に向かうと見られる。ブラジルの経常赤字は資本流入によってオフセットされ、外貨準備が減少するような状況ではなく、また、外貨準備の水準にも、対外支払能力等の観点からは特段の問題はない。

○ブラジルは、日本企業の事業展開先として、非アジア地域では一番人気の国であった。しかし、最近は、ブラジルの経済不振や政治混乱などから日本企業の人気が低下し、日本とのEPAを締結したメキシコが、非アジア地域でブラジルに代わって一番人気となった。投資先としてのブラジルは、世界第五位の人口と今後の人口増加が大きな魅力であるが、ビジネス環境には問題が多く、また、小党乱立で政治の安定性に欠けるといった弱点もある。

○テメル大統領は、任期が終了する2018年末に退陣し次期大統領選挙には出馬しないと表明している。 経済界は、2018年の次期大統領選挙でテメル大統領の改革路線を継承する人物が当選するシナリオを期待している。ブラジルの改革路線が定着し、経済が復調すれば、南米経済全体の活性化にもつながることが期待できる。

○しかし、小党乱立のブラジルでは安定多数勢力の形成が難しく、改革路線が議会で主流になるかどうかは予断を許さない。また、改革路線を進めようとしても、規制緩和を実施すれば、ただでさえ大きい所得分配の不平等がますます拡大する恐れがあり、このジレンマが、今後もブラジル経済の成長への重しになる可能性が大きい。

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