マレーシア経済の現状と今後の展望~ASEAN屈指の堅固で安定した経済だが、中長期成長戦略は転換局面に~

2017/09/07 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○マレーシア経済は5%前後の成長率で堅調に推移している。1990年代前半の経済成長は、投資と輸出の拡大に牽引されていたが、近年の経済成長は個人消費の拡大に支えられている。ただ、個人消費の先行きには不透明感も漂っている。その背景には、通貨リンギの為替相場下落や、家計債務増加、さらには英国のEU離脱など国際経済環境不安定化への懸念から来る消費者マインドの悪化、といった要因がある。

○マレーシアでは、2010年頃から、景気拡大、低金利、所得上昇期待などを背景に、家計が積極的にローンを利用する傾向が強まった。家計債務残高の増大を警戒した中銀は、銀行の個人向け融資への規制を強め、その影響で、2017年に入ると、住宅ローン申請の半数が却下されるという状況になった。家計債務が調整局面を迎えたことは、今後の個人消費拡大への重しになる可能性がある。

○マレーシアの物価は周辺諸国と比べて安定しており、金融当局の主な関心は、物価の安定よりも、むしろ為替相場の大幅な変動を抑制することにあるようだ。経済のファンダメンタルズが良好なのに、それが為替相場に反映されずリンギ安が進んだことを問題視するマレーシア中銀は、2016年12月に、突然、新たな為替管理制度施行を発表し、その中で、輸出企業は輸出代金の75%以上をリンギに両替することを義務付けた。これは、いわば、民間部門の輸出収入を強制的にリンギ買い支えに使おうとするに等しい措置だと市場から指摘された。また、外資系企業等からは、この為替管理規制強化によって為替リスクのヘッジがしにくくなったとの声も上がっている。

○マレーシアの一般政府部門の財政赤字対GDP比率は近隣諸国に比べて高く、また、政府部門債務残高の対GDP比も近隣諸国よりも高くなってしまった。これを踏まえ、マレーシア政府は、2009年以降、財政規律を重視するようになっている。

○マレーシアの輸出は、1980年代半ば以降、電機関連を中心とする工業製品の輸出増に主導されて急拡大してきた。最大の輸出品目は集積回路であり、その最大の輸出先は中国である。近年、集積回路の輸出はあまり減っていないが、第2位の輸出品目であった天然ガスは、その最大の輸出先である日本向けが大幅に減ったため、輸出額は2014年からの2年間で1/3に急減した。

○2000年代半ばには、マレーシアの経常黒字の対GDP比率は15%を超え、ASEAN主要国な中でも飛びぬけて高かった。しかし、2012年以降は、主力輸出品のひとつであるパーム油の価格下落の影響で輸出が減少、また、2015年以降は、天然ガスや石油関連の輸出減少に影響されて輸出がさらに減少、それに伴い、貿易黒字も、経常黒字もともに縮小した。

○マレーシアの一人当たり名目GDPは既に10,000ドルに近く、EU加盟国のルーマニアにほぼ並ぶほど高い。これだけ所得水準が高くなると、1980年代のような低コスト生産の強みを生かした工業製品輸出拡大に依存するのは不可能である。今後の成長戦略として重要になってくるのは、産業の高付加価値化やマレーシアの優位性を活かせる独自の産業分野を発展させることであると言えよう。今、マレーシアの強みが活かせる有望分野のひとつと注目されているのがイスラム関連ビジネスであり、その代表格が、イスラム金融である。

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