最近の地価の動向と今後の見通し ~足元上昇も先行きに懸念、中期的には人口減少が重しに~

2019/09/30 藤田 隼平
調査レポート
国内マクロ経済

○バブル崩壊による「土地神話」の終焉とその後の長期的な地価の下落は日本の失われた20年を象徴する現象のひとつであった。しかし、近年、三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)や地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の公示地価が前年比で上昇に転じるなど、地価には明るい変化の兆しがみられている。
○地価の決定理論である「収益還元モデル」に基づけば、こうした地価上昇の要因として、①景気回復の長期化やインバウンド(訪日外国人)需要の増加による土地の収益改善、②日本銀行による異次元の金融緩和による超低金利が挙げられる。
○地価上昇は担保価値の増加を意味するため、かつては家計や企業の借入可能額の増加を通じて消費や設備投資を刺激し、GDPを押し上げる効果があった。しかし、近年は不動産を担保とした銀行貸し付けの割合が低下したことでプラス効果は限定的となっており、地価の動向は景気回復の勢いや広がりを表す経済の体温計としての性格の方が強くなっているとみられる。
○地価の先行きには悪材料が多く、短期的には米中貿易摩擦や消費税率引き上げによる景気悪化懸念の高まりや金利の低下余地の縮小等が地価の伸びを抑制するとみられる。都市部や観光地の地価はインバウンド需要の増加が下支え役となり底堅く推移するものの、インバウンドの恩恵が相対的に小さい地方圏の地価は厳しい状況が続くことになるだろう。
○さらに中期的には、人口の減少基調が強まる中で、地価の下落圧力は一層強まる見通しである。都市部と地方圏との格差だけでなく、同一圏内においても交通の利便性や住環境の優れたエリアとそうではないエリアとの格差が拡大していくと考えられる。
○この様に日本が本格的な人口減少社会に突入する中で、近年の土地政策は、空き家や空き地、所有者不明土地を活用するための法整備や、そうした土地をそもそも増やさないための仕組み作りに力点が置かれている。2020年には新たな総合的土地政策の策定と土地基本法の改正が予定されており、人口減少による様々な悪影響を抑制しつつ、土地の持つ価値を最大化できるような施策の実現に向け、建設的な議論が進むことに期待したい。

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