日EU・EPAの利用状況と関税減少額

2020/05/25 中田 一良
調査レポート
海外マクロ経済

○日本がEUと締結した日EU・EPAは2019年2月に発効した。日EU・EPAでは、日本の関税撤廃率(関税が無税である品目の割合)は94%(品目数ベース)であり、最終的にはほとんどの品目で関税を撤廃する。このうち鉱工業品については96%、農林水産品については54%の品目で関税が発効時に撤廃されている。

○EPAの直接的なメリットとして輸入関税の負担軽減があげられるが、そうしたメリットはEPAが発効すると自動的に得られるわけではなく、輸入者がEPAを利用することによって得られる。日EU・EPAの発効後1年間にEPAを利用してEUから輸入された金額は約1.5兆円である。その品目構成をみると、動物・食料品が約6割を占めており、化学製品・プラスチック製品、木材関連製品を合わせると8割を超える。動物・食料品の中では、たばこ、豚肉、ワインなどの金額が大きい。

○日EU・EPAがEUからの輸入にあたってどの程度利用されているのかを計算すると54%であった。他方、包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ(CPTPP)協定が発効して、日本と初めてEPAを締結することになったカナダ、ニュージーランドからの輸入におけるEPA利用割合は80%を超えている。品目別の利用割合は、日EU・EPA、CPTPP(カナダ、ニュージーランド)のいずれにおいても、動物・食料品や木材関連製品といった農林水産品で高い一方、それ以外の品目で低い傾向がみられる。ただし、EUからの輸入ではEPA利用割合が相対的に低い工業製品のシェアが大きく、こうしたことが日EU・EPAの利用割合が低い原因となっている。つまり、EPA利用割合の差は、品目別の利用割合だけでなく、輸入品目構成の違いから生じていると言える。

〇日EU・EPAの利用により減少した関税額(2019年2月から2020年1月までの合計)は629億円と試算され、同時期の日本の関税収入全体の約6%に相当する。日EU・EPAでは今後、関税の引き下げが進むことから、発効からの経過年数が大きくなるほど関税減少額は大きくなると考えられる。

○英国は2020年1月末にEUから離脱した。移行期間終了後に日本と英国はEPAを締結する方針であるが、締結が遅れる場合、英国からの輸入にEPA特恵税率が適用されなくなる。そのような状況が関税減少額に与える影響を検討すると、英国からの輸入ではEPAを利用した輸入額がそれほど大きくないことから、全体としては限定的であるが、EPAを利用した英国からの輸入額が大きいニッケルで影響が現れる可能性がある。

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