中国の海外旅行者数は順調に回復してきた。中国では、2020年の新型コロナウイルス感染症流行後、ゼロコロナ政策が実施されたことにより海外旅行者数は急減した。その後、ゼロコロナ政策が解除された2023年に海外旅行も解禁され、外国人を含む中国の出入国者数は2024年10～12月期にコロナ前の2019年同期の水準を上回った。中国人民銀行のアンケート調査によると、向こう3ヶ月で旅行支出を増やす意向を持つ人の割合は着実に改善しており、コロナ禍で制限された海外旅行需要が戻りつつある。

そうした中、中国人の海外旅行の目的地として日本の人気が高まっている。日本の統計をみると、春節休暇を含む2025年1月の訪日中国人数は急増し、同月として過去最多を記録した。2024年通年では、初めて日本が中国人の最大の旅行先となった（図表1）。中国人訪日客数の回復は他の国・地域からの観光客と比べて遅れたが、2024年には19年の7割強の水準まで戻り、国別訪日客数で韓国に次ぐ2番目となった。中国人の海外旅行意欲は改善が続いているため、日本のインバウンドは中国人訪日客の回復とともにさらなる拡大が期待される。

ただし、日本では近年、観光地での混雑や騒音といったオーバーツーリズムの問題が深刻化しており、インバウンド成長のボトルネックとなる懸念がある。メディアの報道やSNSでは、訪日客数が多い中国人を中心に外国人観光客への反感の声も目立つ。オーバーツーリズムにより、地域住民の日常生活で不便さが高まり、外国人観光客に悪感情を抱くようになれば、インバウンドの持続的成長は難しい。実際、オーバーツーリズムをインバウンド受け入れの課題だと考える観光事業者や自治体はインバウンドの拡大に伴って増えており、インバウンド市場拡大のためにオーバーツーリズムの解消が必要との問題意識が鮮明になっている（図表2）。

国土交通省の『観光白書』で初めてオーバーツーリズムへの言及があったのは2017年だった。その後、コロナ禍で外国人訪日客が激減したため、オーバーツーリズム問題はいったん沈静化したが、昨年のインバウンド急回復を受け、問題が顕在化した。中国人をはじめ訪日客の増加が見込まれる中、同問題への対応は急務となる。2025年1月に京都市が宿泊税を引き上げる方針を示したが、こうした観光関連の目的税を財源に観光地の受け入れ能力の拡大を図るなど、持続的なインバウンド拡大を可能にする仕組みづくりが喫緊の課題であろう。

図表1　国別の中国人観光客数

（出所）日本政府観光局、タイ観光・スポーツ省、韓国観光公社、ベトナム統計総局、
　　　マレーシア政府観光局、シンガポール政府観光局、米国商務省旅行・観光局、
　　　インドネシア中央統計庁、ドイツ連邦統計局、オーストラリア統計局、
　　　フィリピン政府観光庁、ニュージーランド統計局

図表2　観光事業者・自治体のオーバーツーリズムへの問題意識

（出所）日本旅行業協会「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」

米中対立激化で中国の「デフレ輸出」加速の懸念

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