2024年のベトナムの実質GDP成長率はASEAN5の中で最も高い7.1％となった。ベトナムの高成長をけん引するのが輸出である。2019年以降、米中貿易対立やコロナ禍でのサプライチェーン混乱をきっかけに海外企業の脱中国のための生産移管が進み、ベトナムにおける製造業の集積が進展し、輸出活動が一段と活発化した。
ベトナムの輸出を生産に必要な生産要素別に分類すると、2020年以降、資本集約的品目の輸出が増え、特に高い技術水準を必要とする品目の輸出が増加した。こうした品目の生産・輸出が増加した中、製造業の労働生産性も上昇した。これには製造業関連のFDI流入の増加も寄与したと考えられる。もっとも、製造業の労働生産性の上昇ペースは他の業種の平均よりも低位にとどまる。
また、ベトナムの経済成長を、労働投入、資本投入、全要素生産性（TFP）の３要因に分解すると、資本投入が経済成長を大きく押し上げている。この背景にも大規模なFDIの流入が寄与している可能性が高い。
ベトナムへの企業進出が活発化した要因として、企業に対するアンケート調査によると、成長性や安価な労働力に加え、中国でゼロコロナ政策による混乱が起きた2021年以降、「他国のリスク分散の受け皿として」との回答も目立つ。特に製造業では、中国国内のサプライチェーンから生産工程の一部をベトナムに移管する計画が多く、部品供給の面から中国に近接するベトナムが有力な進出先となっている。
資本投入増加率と全要素生産性（TFP）上昇率を足し合わせたものが労働生産性上昇率であり、ベトナムの労働生産性の上昇はFDIを含む資本投入が支えてきた。しかし、いずれ生産移管ブームが終われば、近年堅調に増加しているFDI流入が減少し、資本投入の伸びを押し下げる可能性がある。このため、ベトナムの持続的成長の課題として、資本投入に頼らない生産性上昇を目指す必要がある。
持続的成長に向けた生産性引き上げのために、まず、許認可や手続きに時間がかかったり、それを賄賂で解決する事業慣行など不透明な法制運用の改善が求められる。また、労働者のスキルを向上させ、より付加価値の高い工程を担う必要もある。さらに、近年の電気自動車（EV）生産の取組のように、開発工程から製造業に携わる国内企業が増えることにより、外国資本に依存しない成長の実現が求められよう。ベトナム政府には中進国の罠に対する危機感があり、高い成長を目指す中、生産性向上に必要な変革をどれだけ貫徹できるかが、ベトナムが先進国入りできるかの分かれ道となろう。

続きは全文紹介をご覧ください。

ベトナムの高成長の要因と持続的成長に向けた課題

執筆者

お問い合わせはこちら

テーマ・タグから見つける

テーマ

タグ