今月のグラフ(2021年11月) 中国と欧州間の鉄道貨物輸送(中欧班列)の現状と課題

2021/11/04 土田 陽介
今月のグラフ
海外マクロ経済

「中欧班列」(Trans-Eurasia LogisticsまたはChina Railway Express, CRE )と呼ばれる中国と欧州を結んでユーラシア大陸を横断する貨物列車がある。これは、習近平政権が掲げる「一帯一路」の物流面での中核を担うものと言える。列車の起点になる中国の都市は中西部を中心に既に60以上に達し、欧州15ヶ国の50以上の目的地に向かっているとされる(服部(2019)、p. 25)。

中欧班列には「西」「中」「東」「南」4つのルートがある。うち南を除く3つのルートが、必ずどこかでロシアの鉄道に接続することになる。現状、最も利用されているルートは西ルートとされており、これは中国西部の新疆ウイグル自治区にある阿拉山口またはホルゴス(コルガス)国境からカザフスタンを経由し、ロシア、ベラルーシを通過してポーランドに至るルートである。

中国商務部の発表によると、2020年の「中欧班列」による車両便数は12,400便と一万便の大台を超えた模様である(図表1)。同様に輸送量も113.5万TEUと過去最高を更新、新型コロナウイルスの感染の拡大に伴う世界的な景気悪化にもかかわらず、中欧班列を通じた物流が着実に拡大していることが示された。とはいえ、中欧班列による物流は3つの大きな課題を抱えている。

1つ目が、中欧班列を用いて中国から欧州への物流が増えたとしても、欧州から中国からの物流が増える展望が描き難いことである。図表2が示すように、中国の対欧州貿易は現状、圧倒的に中国の輸出超過(貿易黒字)である。こうした状況の下、中国から欧州に向けた車両には荷物が多く積載されていても、欧州から中国へ向けた車両には荷物が少なく、コンテナが「空」で運行されることも少なくない。航空や船舶とは異なり、機材の別航路への転用が極めて困難という鉄道の構造的な弱みも容易に改善されない。

2つ目が、中欧班列が事実上、中国の地方政府の補助金頼みの事業だという点である。中国の地方政府は、フォワーダー(貨物利用運送事業者、自らは輸送手段を持たずに荷主と直接契約して貨物輸送を行う事業者)や荷主に補助金を提供して、この中欧班列ブームを盛り上げてきた。一方で、習近平政権側は地方政府による巨額の補助金を問題視、中国財務省も2022年までにフォワーダーらへの補助金をゼロにする方針を決めている。その結果、中国発の輸送価格が上昇するため、競争力が低い路線は廃止される見込みである。

3つ目が、各国の鉄道の整備状況に物流が大きく左右されることである。特にボトルネックとなっているのが、ベラルーシとポーランドの間の鉄道輸送能力の低さである。とはいえ改善のための投資支援は、欧州とベラルーシ(とロシア及び中国)との政治的な対立を考えると容易ではない。そもそも、中国と欧州の鉄道の軌道は標準軌(1,435mm)であるが、旧ソ連は広軌(1,520mm)であるため、国境を超える際に台車の交換作業が行われる必要があり、こうしたことも輸送能力の制約となっている。

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