2025年春闘では、人手不足や物価上昇等を背景に、2年連続で高い賃上げ率が実現する見込みとなっている。他方で、賃上げ余力には企業規模によって差があることから、1990年代半ば以降、賃上げ率には大企業と中小企業の間で明確な差が生まれており、連合の集計（2025年5月2日時点の第5回回答集計）によれば、2025年も全体の賃上げ率の5.32%に対し、300人未満の中小企業に限れば4.93%にとどまっている（図表1）。

こうした大企業と中小企業の賃上げ率の差は小幅ではあるものの、大企業が三大都市圏に集中していることを踏まえれば、賃金の地域間格差の拡大にもつながっている可能性がある。そこで、図表2は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に、男性一般労働者の直近10年間における賃金の推移について、三大都市圏とそれ以外の地方圏の年収の差分を示したものである。

まずコロナ禍前の動きに着目すると、三大都市圏と地方圏の間には2014年時点で約130万円の賃金格差が生じており、その後も緩やかながら格差は拡大傾向で推移していることが分かる。しかし、コロナ禍で景気が悪化すると、一転して三大都市圏と地方圏の賃金格差は縮小へ向かい、2021年には約120万円まで小さくなった。これは、コロナ禍で全国的に経済活動が停滞する中、大企業と中小企業との間で春闘の賃上げ率の差が小さかったこと、三大都市圏の方が大企業は多いもののコロナ禍で特に打撃を受けたサービス産業従事者の比率が高いこともあって賞与（ボーナス）の減少幅が大きかったことなどから、40～50歳代を中心に三大都市圏と地方圏の賃金格差が縮小したことを反映したものとみられる。

もっとも、こうした格差縮小の動きは一時的な現象にとどまり、景気が回復へ向かう中で、直近2024年には三大都市圏と地方圏の賃金格差はコロナ禍前の水準にまで戻っている。2024年以降、大企業と中小企業間の賃上げ率の差がコロナ禍前よりも広がっていることもあり、今後、賃金の地域間格差は再び拡大していく可能性が高い。こうした賃金格差の拡大は若者を中心とした労働力人口が地方圏から三大都市圏へと流出する一因となることから、地域経済の担い手の減少に拍車が掛かり、地方圏では人手不足が一段と深刻化していく恐れがある。

図表1　春闘の賃上げ率の推移

（注）平均賃金方式での賃上げ状況。中小企業は組合員300人未満

（出所）日本労働組合総連合会「2025春季生活闘争第5回回答集計結果」を基に当社作成

図表2　三大都市圏と地方圏の賃金格差（男性労働者）

（注1）埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県を三大都市圏、それ以外を地方圏として集計

（注2）男性一般労働者の概算年収（きまって支給する現金給与額×12＋年間賞与その他特別給与額）について、三大都市圏と地方圏との差分を表したもの

（出所）厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に当社作成

今月のグラフ（2025年6月）再び拡大局面に入った賃金の地域間格差

執筆者

お問い合わせはこちら

テーマ・タグから見つける

テーマ

タグ