プラスチック関連企業における欧州政策への対応と方向性

2023/09/04 長谷川 賢、富田 愛梨
サステナビリティ
サーキュラーエコノミー
グローバルビジネス
ヨーロッパ

【概要】

欧州連合(EU)において、2021年に非リサイクル性プラスチックに対する課税の方針(通称:EUプラスチック税)が立てられた。スペインでも2023年1月から同様の課税が開始され、他のEU加盟国も追随する流れにある。本稿では、プラスチックを素材・包材等に用いる多くの日系企業が、今後、どのように対応すべきか、その指針を述べていきたい。

欧州では、循環型経済を考慮し、プラスチックのライフサイクル全体を通じて持続可能な利用を目指すためのプラスチック政策が進行している。まずは欧州連合(EU)において、2021年に非リサイクル性プラスチックに対する課税の方針(通称:EUプラスチック税)が立てられた。それを受けたEU加盟国のスペインでは2023年1月から同様の課税を開始し、他のEU加盟国も追随する流れにある。欧州以外の各国政府・関連団体も自地域での政策の参考にすべく、欧州各国のルールメイキングに注目している。このようなグローバル動向の中で、プラスチックを素材・包材等に用いる日系企業がどのように対応すべきか、その指針を述べていく。

1.グローバルのプラスチック政策の最新動向と今後の見通し

(1)欧州委員会(European Commission)で法規制案検討、2025年以降本格始動

世界でいち早く環境政策を推進してきた欧州では、SDGsの流れを受け、近年、プラスチック廃棄物のリサイクル政策も進んでいる。

欧州委員会は1994年に、リサイクル難易度の高いプラスチック包材廃棄物(以下、「プラ包材」)において、「容器包装と容器包装廃棄物に関する指令」を制定した。2018年に定められた目標値では、EU各国一律で、2025年までにプラ包材のマテリアルリサイクル率50%、2030年までには55%を達成することが設定されている。また、欧州委員会は「欧州グリーン・ディール」、「欧州新産業戦略」、その行動計画である「新循環型経済行動計画」を2020年に公表した。本計画では、EUが循環型経済モデルに移行し、従来よりも包材の設計や製造、再利用可能な代替品素材の使用を含むライフサイクルに焦点を当て、2030年までにすべての包材を再利用やリサイクル可能とすることを目指している。

こうした流れを受け、これまでは目標ベースで掲げていたプラ包材に関して、2022年には「包装及び包装廃棄物規則(EU)」の改正案が出され、2025年以降、全包装を再利用又はリサイクル可能にする規制整備が進行中である。上述の包装廃棄物指令において2018年に定められたリサイクル率の目標値からの変更はないが、包装形態・材料カテゴリーごとに、再生材料の最低含有率やリサイクル可能性評価の枠組み(包材の設計方法等)を詳細に決定する予定とされている。例えば、再生プラスチック(以下、「再生プラ」)に関して食品プラスチック包材の再生材料の最低含有率(重量ベース)は、2030年以降25%、2040年以降50%であることが規定されている。

また、材料構成等に関してもリサイクル性が求められ、2030年以降のリサイクル性70%未満の包材が、実質的に禁止される予定である。なお、リサイクル性は、材料構成や包装デザイン・インク印刷等、リサイクル可能な割合が総合的に判断される。

現在、廃プラスチックのリサイクル手法として、「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」の3つに大別されるが、欧州におけるリサイクル手法としては、マテリアルリサイクルが推奨されている。ケミカルリサイクルは推奨されておらず、統計上のリサイクル率の定義にも含まれていない。だが目下、法規則で検討されるリサイクル性に対し、食品・製薬業界団体等からは目標自体の見直しに加え、ケミカルリサイクルも対象とした技術展開の必要性も謳われている。そのため、今後の動向を注視していく必要があるだろう。

(2)欧州以外の国・地域は欧州に追随

欧州で先進的に環境対応が進んでいる中で、それ以外の国も欧州に追随する形で進んでいる。例えば、米国では、国のルール形成にも関わるプラスチック業界団体のU.S. Plastics Pactが、欧州のルールメイキングにも携わるエレンマッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation)の2025年の目標に追随する形で、2025年に向けたロードマップを策定している。

目標に関しては、2025年までにすべてのプラスチック包装を再利用可能、またはリサイクル可能、堆肥化可能なものにする、という野心的な戦略となっている。しかしながら米国の環境対応は、あくまで目標ベースを中心に設定されており、欧州に比べて5~10年ほど遅れているのが実情といえる。現在、プラ包材導入に関する国全体の法規則はないが、エレンマッカーサー財団の目標を国の指針にして、中長期的に欧州と同じ目線で進んでいくと想定される。

【図表1:欧米におけるプラスチック政策の見通し】
欧米におけるプラスチック政策の見通し
(出所)欧州委員会の各種法規制、U.S. Plastics Pact、エキスパートインタビュー等を基に当社作成

2.欧州のプラスチック関連のプレイヤー構図

(1)プラスチック関連業界団体が業界プレイヤーの意見を先導

プラスチックリサイクルをめぐる欧州動向は、欧州委員会から発せられた法規制に対応すべく、業界団体が業界プレイヤーの意見を取りまとめながら、ガイドラインを策定している状況である。EU全体方針を基に国内法で具体的な課税をする際、そのガイドラインが基準となっているケースが多い。業界団体内における検討がそのままロビー活動にもつながるため、包材メーカーやリサイクル事業者といった業界の各プレイヤーが業界団体に積極的に委員を送り込んでもいる。

欧州における関連業界団体は複数あるが、CEFLEX(Circular Economy for Flexible packaging)とPRE(Plastics Recyclers Europe)が現時点でのガイドラインを主導しているように見える。ほかにも関連団体は種々あるが、その団体における考え方を辿っていくと、上記2団体に行き着くことが多い。

(2)将来的には欧州標準化委員会が集約整理する見込み

法規制によるプラスチックリサイクルが大多数のEU加盟国において義務化にまで至っていない現時点では、前項のような業界団体が影響力を有している。一方、2025年頃までには多くの国で義務化される見通しであり、それに伴って欧州標準化委員会(Comité Européen de Normalisation:CEN)がCEFLEXやPRE等の業界団体の基準を基に標準化を図ることが見込まれている。その後、CENの基準が国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)等との協働を通じてグローバル展開されていく見通しで、プラスチック関連企業にとって当面の重要モニタリング機関はCENである。

【図表2:プラスチックリサイクルをめぐる欧州関連機関の構図】
プラスチックリサイクルをめぐる欧州関連機関の構図
(出所)エキスパートインタビュー等を基に当社作成

3.日系のプラスチック関連企業への示唆

(1)事業継続にあたり関連機関の動向モニタリングは必須

法規制によるリサイクル対応の義務化に備えて、短期的にはCEFLEX等の業界団体の基準や動きを捉えながら、中長期的には欧州の標準策定機関であるCENの動きにも注視していくことが必要である。このような関連機関の動向をモニタリングしていくことが、現地で生産・販売活動を継続する上で必須である。また、欧州の法規制動向がいずれISO等を通してグローバルスタンダードとなり得ることを考えると、欧州で事業活動を行う企業に限らず、プラスチック関連のすべての企業が考えるべきことであろう。具体的には、企業自らが欧州に情報収集拠点をつくり関連業界団体に属して活動を行うことも可能だが、自社単独の取り組みには限界がある。そのためには、欧州動向の情報収集能力がある他の企業や団体とのアライアンスを上手く活用することも有効である。

(2)欧州でサステナビリティ対応を果たし、全世界に展開

新法規制に対応したパッケージ開発に際して、関連機関の動向に目を配り、その基準に即した技術開発を行うには、数年単位の期間と巨額の投資が必要となる。プラスチック関連企業の中には、非リサイクルパッケージへの課税に備えて、すでにサステナビリティや循環経済の視点を中長期目標に据えて、開発に取り組んでいる企業も存在する。そのような企業において、欧州市場は、適合製品を開発・導入し、市場テストを受けて改善を繰り返す絶好の実験場ともいえる。世界的なサステナビリティのトレンドに追随するために、欧州で培った新技術やビジネスモデルをその他の国・地域に展開することは、日系企業が取り得るひとつの方向性になるであろう。

※本稿は三菱UFJ銀行会員制情報サイト「MUFG BizBuddy(2023年7月31日)」からの転載です。

執筆者

  • 長谷川 賢

    コンサルティング事業本部

    社会共創ビジネスユニット グローバルコンサルティング部

    マネージャー

    長谷川 賢
  • 富田 愛梨

    コンサルティング事業本部

    社会共創ビジネスユニット グローバルコンサルティング部

    コンサルタント

    富田 愛梨
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