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高校と地域の協働が、生徒の資質能力の向上と人口減少の緩和に効果

〜地域社会と教育現場をつなぐ人材・体制と地域みらい留学がもつ可能性〜

2022/03/10

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:池田 雅一)は、社会に開かれた魅力ある教育環境の実現を目指す一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム(所在地:島根県松江市、代表理事:岩本 悠)と、地域との協働による高校教育改革(以下、高校魅力化)の効果を検証する目的のもと、2017年より共同調査を実施しています。

今般、以下のとおり3つの調査結果がまとまり、レポートを公開しましたのでお知らせいたします。

本調査の位置付けと意義〜なぜ今、魅力ある高校づくりが必要なのか〜

2019年11月に当社と地域・教育魅力化プラットフォームが共同発表した前回の調査※1では、魅力ある高校づくりを全国に先駆けて行ってきた島根県の高校を事例とした調査で、高校魅力化により地域の総人口は5%超増加し、地域消費額は約3億円増加、歳入も約1.5億円増加することが判明しました。今回は、前回からの継続的な調査結果に加えて、2019年以降3年間の経年調査により新たに判明した高校魅力化の教育的効果についてご報告いたします。

日本の高校教育は現在、大きな転換期を迎えています。2022年4月から高校の学習指導要領の改訂や、「新時代に対応した高等学校教育に関する制度改正」をもとに、「高校教育改革」が本格化します。新しい学習指導要領では、持続可能な社会の創り手となる資質・能力を育むことが求められており、その実現のためには地域・社会と高校が協働し魅力ある教育環境を構築することが重要です。

調査結果概要

1. 高校存続が人口減少の緩和に寄与〜魅力的な高校の存在が、高校生以外の転出抑制や転入増加も促す〜

全国の高校統廃合と人口動態との関係性について、高校消滅群、高校存続群に加えて、高校魅力化に取り組んでいる「地域みらい留学校群」との比較もふまえて考察を試みた。その結果「地域みらい留学」は、高校生の転入だけを誘発するものではなく、魅力的な高校が立地していることによる中学生以下のいる世帯の転出抑制や転入増加といった形で人口動態に影響を及ぼす可能性を示唆した。

  • 高校存続群においては、高校生世代(15-17歳人口)の減少が緩やかである傾向が、前回の調査に続いて確認された。
  • 今回実施した調査では高校存続群のうち、地方創生の観点から高校の魅力化に取り組んでいる高校(市町村)として「地域みらい留学」参加校を抽出。これを「地域みらい留学校群」として、高校存続群全体との人口動態の比較を行ったところ、地域みらい留学校群では、2015年から2020年にかけての高校生世代減少率が高校存続群全体に比べて緩やかだった。
  • 15歳未満人口においても、2015年から2020年にかけての減少率は、高校存続群全体よりも地域みらい留学校群において緩和されている傾向がみられた。

図表1 各市町村の15-17歳人口減少率(2000年比:左、2015年比:右)

図 各市町村の15-17歳人口減少率

資料)国勢調査(各年)より当社作成

<調査1:【政策研究レポート】高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察② ~市町村の人口動態からみた高校存続・魅力化のインパクト~より>

2. 高校と地域の協働が生徒の資質・能力の向上をもたらす

島根県※2における「高校魅力化評価システム※3」のデータを用い、2019年から2021年までの3年間の結果の推移や教育実践や学びの土壌※4が生徒の資質・能力に及ぼす影響について分析を行った。加えて、特に学びの土壌を豊かにする要因について、体制構築や人材配置といった島根県の教育魅力化の取組との関連分析によって検討を試みた。

図表2 「高校魅力化評価システム」の質問構成要素

図 「高校魅力化評価システム」の質問構成要素

出所)当社作成

(1)高校魅力化によって、生徒の資質・能力が向上

・島根県の3年間の結果の推移をみると、「高校魅力化評価システム」の核となる4つの項目(学習活動、学習環境、生徒の能力認識、生徒の行動実績)について、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた項目以外、いずれも堅調に上昇傾向となった。

(2)「学びの土壌」の改善が、資質能力の向上に寄与

・インプット指標である「学習活動」や「学びの土壌」が豊かな学校ほど、アウトプット指標である生徒の資質・能力(「生徒の能力認識」及び「生徒の行動実績」)を高めるという関係性がみられた。

・「教育実践」や「学びの土壌」の豊かさが高まるほど、生徒の資質・能力も高まるという分析結果も得られた。

(3)学びの土壌を豊かにするためには、体制構築とコーディネーターの配置が有効

・「学びの土壌」を豊かにするために有効な要素を分析したところ、地域との協働体制(コンソーシアム)を構築している学校や、教員以外のスタッフ(コーディネーター等)を配置している学校では、そうでない学校と比べ、学びの土壌が豊かである(生徒の学びの土壌に対する評価が良い)という結果が得られた。

・協働体制は構築するだけではなく、それを適切に機能させるマネジメント的役割を担うコーディネーターが配置されていることが重要であるとの示唆も得られた。

図表3 教員以外のスタッフの有無(2020)と学習環境(2020-2021変化)

図 教員以外のスタッフの有無(2020)と学習環境(2020-2021変化)

出所)島根県調査データより当社作成
グラフ注釈)伸びを分析するため、2020年と2021年いずれの調査も回答した6,880人を分析対象とした。

(4)県外からの高校入学生を募集する「地域みらい留学」の教育的効果が明らかに
・県外生割合の高い学校の方が、学習環境に対する肯定的回答割合の伸びがみられた。生徒が多様であることが県内生の生徒に良い影響を与えることが示唆された。

図表4 県外生割合(2020)と学習環境(2020-2021変化)

図 県外生割合(2020)と学習環境(2020-2021変化)

出所)島根県調査データより当社作成
グラフ注釈)伸びを分析するため、2020年と2021年いずれの調査も回答した6,880人を分析対象とした。

<調査2:【政策研究レポート】高校生の資質・能力を高める「学びの土壌」~島根県「高校魅力化評価システム」データ分析レポート~より>

エビデンスと対話による教育政策マネジメントに向けて

今回、経年調査を行なったことではじめて、地域との協働による高校教育改革が生徒の資質・能力の向上、及び人口減少の抑制につながることが、データやエビデンスとして明らかになりました。こうした経年調査を通して、高校魅力化評価システムが都道府県教育委員会や高校においてどのように活用されているか、どのようにエビデンスと対話によるマネジメント「EDPM」※5が行われているか、実際の取組事例についても、以下政策研究レポートにて紹介しています。

<調査3:【政策研究レポート】学校での「高校魅力化評価システム」活用事例レポート ~エビデンスと対話による施策・プロジェクトの振り返り(EDPM)に向けて~より>

調査結果に対する有識者コメント

元文部科学大臣副大臣、前文部科学大臣補佐官で、学習指導要領の改訂にも尽力されるなど、日本の教育改革をけん引する東京大学・慶應義塾大学 鈴木寛教授より、以下のコメントをいただきました。

2022年4月から魅力ある高校づくりへの制度改正等が実施されるこのタイミングで、今回の高校教育改革の意義とその重要な要素を明らかにしたことは、注目に値する。 高校存続・高校魅力化と人口動態の関係については、何もしなければ他の自治体よりも人口減少が進んだであろう厳しい状況の地域で、若者の人口の減り方が緩やかになっている。中学生世代(その世代を持つ家庭)への影響もみられるので、この効果は持続的、発展的であると予測できる。

地域の未来にとって、高校を残すこと、魅力化することは、人口減少に歯止めをかけるための必要条件であると言える。正確に把握可能な定住人口だけでもこれだけのインパクトが見えているので、交流人口、関係人口も考えると実際にはさらに大きな効果があるのだろう。「高校魅力化評価システム」による分析については、この調査期間の半分以上はコロナ禍であり、学校現場は学びの質を維持するだけでも大変だったはずである。それにもかかわらず、地域社会に開かれた学校づくりが、高校生の成長に直結していることが示されたことは大変意義深い。

その要因として、高校と地域社会の協働体制としてコンソーシアムがあり、連携・協働を推進するコーディネーターが存在すること。そして、地域の関係者が関わることに加え、県外からの多様な生徒の存在の価値が明らかになった。一様で閉ざされた学校から、多様で開かれた学びのコミュニティへの転換の必要性が示されたといえるだろう。今回のようなデータやエビデンスを土台に、多様な関係者が熟議や対話をしていくことで、学びのコミュニティは育まれていく。今回の貴重な成果が多くの関係者に届き、子どもたちの持続可能な幸せ(ウェルビーイング)のために活かされていくことを願っている。

各組織の概要

■一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム
「意志ある若者にあふれる持続可能な地域・社会をつくる」というビジョンを掲げ、2017年3月に島根県に設立した教育事業団体。代表理事の岩本悠は、2007年より隠岐島前高校の魅力化を推進し、2018年には地域みらい留学を立ち上げ、全国の公立高校で高校魅力化を進めています。現在は、島根県教育魅力化特命官、内閣府総合科学技術・イノベーション会議、文科省中央教育審議会、経産省産業構造審議会の委員等も務め、人づくり・教育改革に取り組んでいます。認定NPO法人カタリバ代表理事・今村久美、リクルートキャリア初代社長・水谷智之、地域みらい留学事業責任者の尾田洋平も理事として、各分野での経験と実績を活用しながら、地域の教育から社会を変えることを目指しています。
ホームページ: http://c-platform.or.jp/

■三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。東京・名古屋・⼤阪を拠点に、国や地⽅⾃治体の政策に関する調査研究・提言、⺠間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業⼈材の育成⽀援、マクロ経済に関する調査・提言など、幅広い事業を展開しています。
ホームページ: https://www.murc.jp/

※1 https://www.murc.jp/publicity/news_release/news_release_191122/

※2 島根県においては、地域社会と学校が協働した「魅力ある高校づくり」を推進しており、地域一丸となった豊かな教育環境づくりに力を入れている。同県は「高校魅力化評価システム」を全県立高校38校に導入し、教育委員会としての施策評価や各校の目標設定や実践の振り返りに継続的に活用している。

※3 高校魅力化評価システムとは、高校魅力化が各校の学習環境や生徒の資質・能力にどのような影響をもたらしているかを、定量的に可視化するための評価ツールで、現在全国186校で導入されている。生徒及び大人(教職員、高校に関わる地域の大人)に対するアンケート調査を実施するもので、調査内容は「①学習活動」「②学習環境」「③能力認識」「④行動実績」「⑤満足度」の5つのパートに分かれている。

※4 高校魅力化評価システムで指標の一つとしている学習環境とは、生徒の周囲(高校や地域社会)の人との関係性や機会、雰囲気といったことを指し、これらを生徒の成長の土台となる要素(=「学びの土壌」)であるとして重視している。

※5 高校魅力化評価システムを用いたエビデンスと対話による政策や取組のマネジメントサイクルをEDPM:Evidence & Dialogue-based Policy Managementと命名

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