eスポーツによる地域活性化の現状

2022/04/21 鈴木 大拙
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社会の急速なリモート化が進んだここ数年、オンラインとの親和性が高いeスポーツはその存在感をいっそう高めています。連日のようにニュースで取り上げられ新たな文化として定着しつつあるeスポーツを、地域活性化に活用しようという動きが全国各地で始まっています。そこで本稿では、eスポーツによる地域活性化の現状を整理します。

スポーツによる地域活性化の方向性

スポーツ庁の「スポーツによる地域活性化推進事業」を参考にするとスポーツによる地域活性化は(1)「運動・スポーツ習慣化促進事業」と(2)「スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業」の2種類に大別できます。(1)は住民がスポーツを習慣化するような環境を整備し、地域全体の健康増進を図るものです。(2)はスポーツ大会の誘致やスポーツ施設整備などで外部から人を呼び込み、経済や社会の活性化を狙うものです。1

eスポーツによる地域活性化の現状

eスポーツとスポーツを同一視するかどうかは議論の余地が残っておりますが、「一定のルールに従って、身体活動を伴う競技を楽しむこと」という意味では、eスポーツはスポーツと同じ構造にあると言えます。そこで、現在の日本国内におけるeスポーツによる地域活性化を、先述した(1)「運動・スポーツ習慣化促進事業」、(2)「スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業」の視点から、事例を紹介しつつ整理します。

(1)においては、eスポーツはリアルスポーツを補完するように活用されています。リアルスポーツと比べて激しい身体活動を伴わず、健康増進と縁遠いように思えるeスポーツですが、そのプレースタイルであるからこそ高齢者にとっては取り組みやすい種目とも言えます。具体的には、手指を使う動作による認知症の予防や、プレー中のコミュニケーションなどを通して、高齢者の健康増進に活用しようとする事例が挙げられます。さらに、リアルスポーツにはない長所として、リモートで実施できる点があります。通信環境さえあれば、コロナ禍でも過疎地域でも継続して実施可能であること、高齢者のデジタルリテラシー向上に寄与できることが期待できます。

加えて、スポーツのための環境整備コストの低さも、リアルスポーツと比較した際の長所です。eスポーツは環境と機器さえあれば、狭小な空間でも実施可能です。たとえば地方自治体や民間団体がリアルスポーツを普及しようと計画した場合、競技が実施できる会場がなければ、建設費などのコストをかけて場を作るところから始めなければなりません。eスポーツであれば、そのコストを抑えることができます。また、高齢者の健康増進以外にも、激しい身体活動が難しい入院患者が指先の運動でプレーできるeスポーツを、リハビリや余暇として活用する事例も存在します。

(2)においては、eスポーツによる地域活性化とリアルスポーツによる地域活性化に大きな違いはありません。国内での事例に目を向けると、商店街などを巻き込んでeスポーツのイベントを開催し、地場産業などのPRを行う事例が目立ちます。また、近年盛んになりつつある学校のeスポーツ部による部活動をターゲットとし、eスポーツの合宿施設などを整備し、合宿を誘致するような事例もあります。これらと似たような事例はリアルスポーツでも散見されるため、「eスポーツならでは」の地域活性化というよりは、リアルスポーツを含めてスポーツ全体に共通する地域活性化の手法でしょう。

ただし、eスポーツはリアルスポーツにくらべて、経済の活性化に貢献しづらい面があります。スポーツによって生み出される直接的な経済効果として、チケットやグッズ販売など興行収入の他、選手だけではなく観客がスポーツのために移動することで生じる飲食費・交通費・宿泊費などが挙げられます。一方、オンライン観戦の割合が高くなりがちなeスポーツは、これらの経済効果はリアルスポーツにくらべて小さくなることが想定されるためです。海外では莫大な経済効果を生み出した事例もありますが、直近ではeスポーツによる経済の活性化に過度な期待をするのは禁物でしょう。

地域活性化の方向性 eスポーツによる地域活性化事例 ※実施主体は地方自治体以外のケースも存在

「運動・スポーツ習慣化促進事業」に類するもの
熊本県美里町(1)
熊本eスポーツ協会や株式会社セガなどと連携し、高齢者にeスポーツ体験機会を試験的に提供。健康増進や若者との交流増加を狙う秋田県秋田市(2)
地元のIT企業株式会社エスツーがeスポーツのシニアプロチーム「マタギスナイパーズ」を設置。世代間交流や健康増進を掲げて活動富山県(3)
心身の健康増進や多世代交流を目的に、富山県立大学・富山県高齢福祉課・株式会社 ZORGEが、65歳以上を対象としたeスポーツ体験会などを開催北海道二海郡(4)
国立病院機構八雲病院が、筋ジストロフィー患者のリハビリテーションにeスポーツを活用

「スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業」に類するもの
カトヴィツェ市(ポーランド)(5)
世界的なeスポーツ大会である”Intel Extreme Masters”を誘致し、eスポーツのメッカとして知名度を上げる。eスポーツファンを世界中から呼び込むことに成功富山県(6)
富山県eスポーツ連合や富山県を中心に、地元企業などの協賛を取り付けたイベントToyamaGamersDayを開催する。賞品に地元の伝統産業品を活用するなど、富山県のアピールも実施大分県別府市(7)
大分県eスポーツ連合と共同で「別府おんせんLAN」を開催。別府市の観光資源である温泉と関連させつつ、イベントや大会などを開催山口県柳井市(8)
柳井グランドホテルがゲーミングPCやゲーミングチェアなどを用意し、「eスポーツ合宿プラン」を提供

(出所)文末参考文献より

おわりに

本稿ではスポーツ庁の「スポーツによる地域活性化推進事業」を援用し、eスポーツにおける地域活性化の現状を整理しました。前述した高齢者の健康増進の事例のように、eスポーツを活用することで新たな地域活性化を推進できます。スポーツによる地域活性化に取り組んできた地方自治体などは、eスポーツを踏まえた取り組み内容を改めて検討する時機ではないでしょうか。

参考文献

  1. eスポーツ活用した町づくり 熊本県美里町、熊日など6社と連携|熊本日日新聞社 (kumanichi.com)
  2. 平均年齢65歳以上!日本初シニアeスポーツプロチーム「マタギスナイパーズ」 プロジェクト始動 | 秋田県eスポーツ協会 (akita-esports.jp)
  3. 20210323.pdf (pu-toyama.ac.jp)
  4. eスポーツで、障害者に新しい「参加」のきっかけを|日本作業療法士協会 (jaot.or.jp)
  5. eスポーツに係る市場規模等調査分析事業 討議資料(jesu.or.jp)
  6. ToyamaGamersDay 公式ウェブサイト (jespa-toyama.org)
  7. 別府市でeスポーツイベント「温泉LAN」次世代の小中学生は入場無料|大分経済新聞(keizai.biz)
  8. 高速有線LAN完備のeスポーツ対応ホテル|柳井グランドホテル公式HP(yg-hotel.co.jp)

1 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/boshu/detail/jsa_00069.html

執筆者

  • 鈴木 大拙

    コンサルティング事業本部

    デジタルイノベーションビジネスユニット 業務ITコンサルティング部

    コンサルタント

    鈴木 大拙
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