1. ホーム
  2. レポート
  3. レポート・コラム
  4. コンサルティングレポート
  5. グローバルレポート
  6. アジアにおける地域統括拠点を考える

アジアにおける地域統括拠点を考える

シリーズ「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」⑦(最終回)

2022/02/24
吉田 崇 、大原 潤、長谷川 賢、 窪寺 暁

グローバル展開をする日本企業が、アジア等に地域統括拠点を設置することは、迅速かつ効果的な事業運営を実現する上で、既に当然の施策となっている。そこで本連載では、事例をもとに地域統括拠点のロケーション戦略を読み解いていく。最終回(第7回)となる本稿では、これまで紹介したアジア各国・地域での事例を踏まえ、地域統括拠点の基本的な考え方について整理したい。

コンサルティング会社として、クライアントである企業の担当者と地域統括拠点に関する議論を重ねるなかで、地域統括拠点のロケーションにも関係する、ある種の「思い込み」や「誤解」があるのではないかと感じる場面が多々ある。そこで地域統括拠点にまつわる誤解の内容を、以下の3つにまとめた。1つ目は「地域統括拠点を設置すれば統括機能が発揮される」、2つ目は「地域統括拠点が株を持てばガバナンスが確保される」、そして3つ目が「統括機能を行使するためには地域統括会社の新設が必要」、という誤解である。

【図表1】地域統括拠点にまつわる3つの誤解

図 地域統括拠点にまつわる3つの誤解

(出所)当社作成

<誤解1> 地域統括拠点を設置すれば統括機能が発揮される

アジアなど各国・地域に設置された複数(多くの場合は多数)の海外子会社に対して、本社が十分に行使できていない統括機能を「本社に代わって地域統括拠点が行使する」というのが、地域統括拠点の基本的なコンセプトである。言い換えれば、地域統括拠点には、本社に代替するだけの機能と、それを担うための人材を揃えなければならない。そして、これは一朝一夕に実現するものではない。責任者のみならずスタッフレベルにおいても、グループのビジネスや理念、企業文化を理解する必要があるだろうし、場合によっては本社やグループ会社との人間関係やコミュニケーションも重要な要素となるだろう。いくら優秀な人材であっても、採用してすぐグループの統括機能を担えるとは限らず、相応の在籍期間や育成が必要になることもあるだろう。

本社には、創設時から長年にわたり蓄積されたさまざまな資産があり、その蓄積を踏まえた結果としての本社機能がある。この蓄積資産は、人材や組織体制のような有形のものだけでなく、意識や文化といった無形のものも含む。それに対し、代替である地域統括拠点は、本社機能の蓄積資産がほとんどないところからスタートする。だからこそ「既存の拠点と人材を有効活用する」というのが、より合理的な入口となる。既に本シリーズで紹介したように、日系製造業が集積するタイでは、製造業の地域統括拠点が設置される例が多く、マレーシアでは電気・電子産業での事例が目立つのは、蓄積の結果でもある。また、中国ビジネスが以前より開放された現在においても、かつてのゲートウェイであった香港が地域統括拠点として、今なお活用されている。

ゼロベースで地域統括拠点のロケーションを考えるならば、検討すべき要素は新規採用者の教育水準と語学力、拠点維持コスト、税制優遇など、ごく限られた項目となり、会社による違いが出るものではないだろう。しかし現実には、業種ごと、会社ごとに、適切なロケーションは異なる。それは「地域統括拠点を設置すれば統括機能が発揮される」わけではなく、「統括機能が発揮できるように地域統括拠点を設置しなければならない」からである。そのためには、既存のリソース(拠点・人材)の活用可否も検討されるべきで、各国の投資概況や法制度よりも、各社それぞれの海外展開状況、各国・地域における拠点規模や機能の方が、よほど重要な要素となる。既存のリソースがないまま、表面的な国・地域別の比較検討に依拠したことで、新設した地域統括拠点が十分に機能を果たしているとはいえない事例も少なくない。

自戒を込めていうならば、地域統括拠点のロケーションについて解説したコンサルティング会社等の資料には、各国・地域の投資環境や税制優遇を比較するものも多い。しかし、そういった情報は、あくまで付随的・補足的な一般論に過ぎず、統括機能を発揮できるかどうかとは直接の関係がない。どのようにすれば統括機能を発揮できるのか、そのために既存のリソースを活用するのか、それとも新規であるならばどのように確保するのか、という点が本質的な課題となる。

<誤解2> 地域統括拠点が株を持てばガバナンスが確保される

地域統括拠点の設置を検討する際に、統括対象である各海外子会社間との、資本関係が重視されるケースがある。地域統括拠点が、各海外子会社の株を持つことで中間持株会社あるいは「親会社」(本社にとっての子会社)となり、各海外子会社は地域統括拠点の子会社(本社にとっての孫会社)とするものである。地域統括拠点に資本を集約することで、例えば税制優遇を活用しよう、効率的な資金活用に結び付けよう、という財務上の目的であれば、もちろん一定の意義があるといえる。一方で、ガバナンス確保のために「海外子会社の株を持たせたい」と主張されることがあるが、これは効果のある取り組みといえるだろうか。

親会社として株を持つということは、法的には株主総会における議決権を持つということと、その結果として取締役等の経営陣を選任できる、ということに帰結する。このことが、ガバナンスの確保につながることには異論はない。しかし、地域統括拠点が海外子会社の株式を「直接」保有することが、ガバナンスのさらなる強化につながるのだろうか。地域統括拠点が直接保有していないとしても、統括対象となる各海外子会社の株式は通常、本社もしくは他のグループ会社が保有していたはずで、グループとして間接保有しているのであれば、議決権や取締役選任に直接保有との実質的な違いは生じない。地域統括拠点が株を持つということは、その後に新設する会社を除けば、既存会社の株式を既存株主から譲受するということであり、そこには譲渡益への課税を含め大きなコストが発生しうる。外部株主からの買い取りによる持株比率向上のようなケースを除けば、グループ内での株式移転コストに見合うほどのガバナンス上の追加的なメリットがあるとは考えにくい。

他方、法的な効力とは別に、資本関係には、より心情的な効果が期待されることがある。親会社の意向に子会社は従うものだ、という「常識」である。子会社側からすれば、親会社でもない単なるグループ会社を地域統括拠点として認めるのか、そんな地域統括拠点の言うことを聞くのか、という見方となる。しかし、これは極めて日本人的な考え方かもしれない。海外子会社の現地マネージャーやスタッフと話をしていると、「親会社とはあくまで別法人であり資本関係以上の関係はない」、「そもそも同一グループという認識や意識に乏しい」、といった非常にドライな考え方に接することがよくある。そこには、日本の企業にありがちな「親会社の言うことを聞くべき」という考えは存在しない。こうした意識の違いは、特に買収のようなケースでは顕著となる。そのような海外子会社に対し、多大なコストを掛けて地域統括拠点に株を持たせたとしても、期待するほどのロイヤルティ(忠誠心)は得られない。

海外子会社のガバナンスという観点からは、直接的な資本関係の有無よりも、むしろグループにおける地域統括拠点の役割の明確化、グループとしてのポリシーや権限の設計、理念や行動基準の浸透、モニタリングや監査の方が、よほど重要かつ効果的だといえる。このような取り組みを進めるにおいて、地域統括拠点は有効な仕組みとなりうる。そして、取り組みが十分であれば、直接的な資本関係の有無は、ガバナンスにほとんど影響を及ぼさないだろう。

問題は、地域統括拠点に株を持たせたことで、それだけで「ガバナンスが確保された」との過度の期待が生じ、その他の取り組みが疎かになる傾向があるといえることだろう。資本集約には税制上のメリットが多いが、それはガバナンス上の効果とは別の話である。しかし、多くの場合、持株会社であることが重視されるシンガポールや香港において、地域統括拠点としての本来の統括機能が十分に設計されず、ガバナンス上の効果が発揮されない例が多く見られるのは、決して偶然ではないだろう。それは財務面での期待が相対的に低いことで持株会社であることがそれほど重視されず、おのずから統括機能ありきで検討されやすいタイなどとの違いでもある。「地域統括拠点が株を持てばガバナンスが確保される」のではなく、「ガバナンス確保のための取り組みを進める上で、地域統括拠点を有効に活用できる」というのが、より適切な理解といえよう。その取り組みは、株を持つということだけで達成されるものではない。

<誤解3> 統括機能を行使するためには地域統括会社の新設が必要

地域統括拠点にまつわる3つ目の誤解は、統括機能を行使するためには、新たに「地域統括会社」を設置しなければならない、というものである。本稿では意図的に地域統括「拠点」という表現をしているが、一般的には地域統括「会社」と表記されることも多い。地域統括「会社」という表現は、あたかも既存の「製造会社」でも「販売会社」でもない、別の「地域統括会社」という新たなエンティティ(法人)であることを意味しているように見えるかもしれない。しかし実際には、地域統括拠点は新設法人ばかりでなく、既存法人であるケースも多い。既存法人を地域統括拠点とするということは、既存法人に別の既存事業(製造や販売)があって、そこに新たに統括機能を追加した結果、地域統括拠点としての役割も担うようになる、ということである。だからこそ、前述のように既存リソースの有効活用が重要な要素となる。

もちろん検討の結果として、地域統括会社を新設することが適切、という結論に至ることはあるだろう。そこで重要なのは、新設法人であるか既存法人であるかではなく、持つべき統括機能は何か、その機能を担うべき拠点はどこなのか、そのリソースは確保できるのか、という点である。統括機能を行使するためには地域統括会社の新設が必要なのではなく、「持つべき統括機能を行使できる拠点が必要」ということになる。

【図表2】持株機能による地域統括拠点の設置パターン

図 持株機能による地域統括拠点の設置パターン

(出所)当社作成

ところで、統括機能を追加するということは、追加すべき機能を取捨選択できるということでもある。地域統括会社が持つ統括機能の内容が、会社ごとに異なるのは取捨選択の結果である。また、機能を取捨選択できるということは、機能を分散できるということでもある。本シリーズで紹介してきたように、例えばASEAN域内において、マレーシアとシンガポールの間で統括機能を分散させたり、中国において香港と北京・上海の間で役割を分けたりすることは、統括機能を分散させそれぞれ適切な拠点に配置しようとの試みである。さらに言えば、統括機能とは、追加、取捨選択、分散できるものであるからこそ、状況によって適切な配置に変わりうるものである。ASEAN域内でシンガポールからタイに統括機能が移管される例があることも、本シリーズで示した通りである。

このようにして考えると、地域統括拠点とは、一度作れば終わりというものではなく、事業や環境に合わせて進化させていくべきものといえる。どのような地域統括拠点の配置、あるいは統括機能の設計が適切であるのかは、各社によって異なる。その検討ステップについては、今後、別のシリーズにて紹介したい。

【図表3】地域統括拠点の検討ステップ(例)

図 地域統括拠点の検討ステップ(例)

(出所)当社作成

 

【関連レポートはこちらから】

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」①
製造業の統括拠点として好まれるタイ(2021年3月22日)

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」②
事業や統括機能に応じて選択されるシンガポール(2021年4月28日)

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」③
産業・機能特化の地域統括に活用されるマレーシア(2021年8月20日)

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」④
インドネシアにおける地域統括機能・ロケーション戦略上の可能性(2021年8月24日)

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」⑤
1国2制度のもと法務・知財・為替の統括機能を強める香港(2021年10月25日)

・「事例から読み解く地域統括拠点のロケーション戦略」⑥
中国における事業統括会社・統括機能の進化の方向性 (2022年1月24日)

コンサルティングや各種サービスについては、
こちらからお問い合わせください。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部

グローバルコンサルティング部
マネージャー
吉田 崇
グローバルコンサルティング部
マネージャー
大原 潤
グローバルコンサルティング部
マネージャー
長谷川 賢

関連レポート

レポート